科学の拳
誤字報告をくださった方、ありがとうございます。
助かりました。
空を飛び回るドローン達に狙われ続けながら校庭を走り切った俺たちは、息を整えた後に再びマッテオ先生の元に集合する。
「お疲れ様だったね!今日はただ校庭を走っただけだけど、そのうち装備を増やしたり、障害物を用意したり、実弾を使用したりするようになるから覚悟しておいてね!」
もはや悪魔のように見える笑顔でマッテオ先生は俺たちに告げた。まさに地獄のような訓練だといえよう。児童虐待ではないだろうか。この世界にも子どもの権利条約はあるのだろうかと検索を始めたところで、再び説明が始まった。
「さて、運動は今日はここまでだよ。君たちもそんなに多くは運動できない年齢だからね。この後は座学にしようか。気になる情報のはずだよ。これは君たちが二年生に進級した際に受け取ることができるサイバネティクスの情報だからね。」
そう言って待っても先生の目が光を放つ(比喩ではない)。俺たちのグライアイに情報が共有され、受け取ることのできるサイバネティクスの情報を閲覧できるようになった。
「君たちもあと半年もしないうちに進級するけれど、その際に二種類のサイバネティクスを受け取ることになる。一つ目は今私が装備しているグラブ型のサイバネティクスだね。機種ごとに様々な特殊機能が備わっていて、必要に合わせて交換の手続きも取れるし、複数申請することもできなくはないよ。」
そう言って手をグーパーの形に動かしながら俺たちにその形状を見せてくれた。
「この『ルカボカ』はグラブ型のサイバネティクスの中で最も汎用性の高いシリーズで、今は対機械制圧用に調整してあるんだ。グラブの手首の部分が大きな腕輪みたいになっているのがわかるかい?この部分が基幹部分になっていて、これを取り替えることで様々な機能に取り替えることができるんだ。手袋部分を相性の良いやつに変えないといけないけどね。これは発電・蓄電・放電の機能が搭載されていて、今やったみたいに手を握る動作によって手袋の繊維部分の伸縮で発電されるんだよ。その電力が腕輪部分に蓄積されて…」
マッテオ先生の手から稲妻が走る(比喩ではない)。
「こんな感じで稲妻を出すこともできるんだよ。まあ基本は機械に直接電撃を叩き込むことが多いけどね。ちなみに電圧を調整することで対人間用に調整することもできて便利だよ。他にも様々な種類のグラブ型サイバネティクスがあるけど、シリーズが豊富で互換性も高いルカボカが僕のおすすめだね。」
マッテオ先生の紹介したルカボカ以外にも資料では二種類のグラブ型サイバネティクスが提示されている。三種の中から一つを選ぶことになっているようだ。
一つ目がマッテオ先生の推薦するルカボカ。手首のリング部分が本体であり、昨日に合わせた素材がグラブ部分になるようだ。特徴は機種の豊富さと互換性の高さであり、場面に応じて使い分けることができそうである。電気の発電や壁に吸着する素材による壁上り。超振動による打撃力の強化や人工筋肉性のグラブによる単純な握力強化まで幅広い活躍をしてくれる。しかし、手首から先の補強しかできず、格闘戦での能力は意外と高くないようである。自力の格闘術で技能を賄える人間にとっては汎用性の高さが売りになるのであろう。
二つ目が公国の警察組織で正式採用されているマクサコフ製の「ピンボール」というグラブ型サイバネティクスであり、こちらは肘まで覆う形である。肘と二の腕部分にあるスリットから圧縮空気によるスラスター操作が可能な製品となっており、防御や攻撃を迅速に行うことができる。グライアイとの連携機能を利用することで敵の近接格闘攻撃を自動で撃墜することも可能となり、格闘技初心者の児童には向いているとのことだった。特に肘部分のスリットから大量の空気を噴出して放つマッハパンチ(比喩ではない)が非常に強力であり、相手の腹を撃ち抜くこともできるらしい。ただし訓練していない状態では肘から先が吹き飛んでしまうために、幼稚部と初等部でのマッハパンチの使用は禁止されている。
三つ目が軍隊で正式採用されていた時期があったマクサコフ製「NIOH」である。仁王と呼んで良いのだろうか?これはグラブ型と呼んで良いのかわからないサイズをしているサイバネティクスであり、両腕と胸、背中の肩甲骨までの高さを覆う形状をしている。コンセプトは「筋力こそパワー」という日本人開発者らしい変態具合を発揮した製品であり、事実大量の人工筋肉を搭載したことによる超強力な駆動力にある。グライアイによる制御が必須とは言え相当の重さであっても持ち上げたり握り砕くこともできてしまうほどに強力なのである。いや、強力さゆえに自分の拳ごと握り潰してしまう事故や、自分を抱きしめて自殺できてしまうなどの欠陥が発見されたゆえに軍用品から払い下げられたのだったが…。子供の訓練用に作られたモデルは出力も高くなく、欠陥が顕在化しなかったために訓練用としてそのまま運用が続けられたようであった。
俺の場合は肉体強化にはすでにクローフィーを用いているため、相乗効果や互いに阻害しないものを慎重に選ばなければならない。汎用性か安全強さかロマンとリスクのパワーか…。児童それぞれにわいわいとあれやこれと騒ぎながら授業は終わりの時間となってしまった。
腕や足をそっくり機械化するのは基本的に傷病者になったさいの最終手段とされており、一般的に外部に装備する形での戦力増強を図るエージェントが大多数を占めています。
しかし、たまにいる変態の中には自分の機械化率を向上させて拒絶反応でハイになる者もおり、この世界では狂人を指す言葉として機械人間と言ったりします。
マクサコフ製のサイバネティクスには開発の派閥があり、利便性と汎用性を重視したマクサコフ本国の研究チーム。基本的なパワーと魔法・ニンジュツとの融合を重視する連合派閥のチーム。コンセプトごとに突出してしまう変態が集合した日本人開発者チームの三派閥が特に大きな派閥を形成しています。今後は他のチームのサイバネティクスも紹介していけると嬉しいですね。




