おまじない
遅れましたが更新できました。
変異種の生息域を抜けて大自然と旧都市群の混在する地域を抜けると、今度は遠回りに出発した都市へと戻る道へ入った。
「さあ、ここからは帰り道だ。この先に変異種の大きな生息地はないし、民族主義者等が出没したという情報もない。安心して食事を摂って構わないが、警戒を怠ることはないように。『帰るまでが遠足』だからな。」
遠い昔に学校で聞いたような言葉をユン先生が放つと、周囲の女児が反応した。
「先生。それっておまじないの言葉ですよね!無事に帰れるようになるおまじない!」
周囲の女児達はきゃあきゃあと騒いでいる。魔法がある世の中だからこそ、こういった迷信も信じられるものなのだろうか。そもそもおまじないではなかったはずだが。
大きな丘なのか小さな山なのか、とにかく一周ぐるっとわまって正面の遠くには都市が見える。俺はドローンでの偵察番が回ってきたため、ストリボーグを上空を旋回させながら各種センサーで反応を確認する。ドローンはニンジュツ修行の成果として本日の空模様に合わせて水色に変化しており、下から見上げても存在を視認することは難しい。
自分のニンジュツの成果に達成感を覚えていると、自分達の後方から移動物体の反応を確認できた。自分達は一年一組のため、行きが先頭で帰りが最後尾である。自分達の後ろにいるのは警備部隊の後衛組だけだ。念のためユン先生に報告する。
「先生。後方から移動物体の反応が微小にあります。速度は現在不明距離は二キロ後方です。武装等は現在視認できません。」
ユン先生は眉間に小さく谷を作り、一瞬の後に全員に指示を出した。
「報告ご苦労。警戒態勢バスにマウント中のドローンは起動して待機。偵察中のドローンは全センサーを最大出力で稼働開始。感度は中型動物異常を対象とする。行動開始。」
俺を含め子供達は言われたことだけをする。あれこれと疑問を投ずるだけ時間を浪費すると言うことを理解できているのだろう。俺のストリボーグも全センサーを最大出力で稼働させて後方の移動物体の情報を集める。ついでにユン先生に提案する。
「ユン先生。俺のドローンはそのまま監視を続けますか?続けるなら、自分のドローンだけでは不足の事態に対応しかねるので、僚機の出動を要求します。」
「メディナ、ドローンを神前の僚機として出撃後、AI制御で回避軌道を取りながら状況を確認し続けてくれ。神前はこの車両と距離が離れないように注意しながら後方の監視を継続すること。射撃光や衝撃波等を感知した場合は直ちに報告すること。報告を密に。[回線を通じて俺だけに報告すること。全体に不安を充満させたくない。]」
最後に俺だけに向けて通信回線を開いたユン先生は、回線をつなげたまま他の車両や学校への連絡をとり始めたようだった。
移動物体は初めの数分は距離を保ったままだったが、接近を始めた。すぐにユン先生に報告する。
[移動物体が加速を始めました。接近しています。予想の接触時刻は7分後です。加速を続けて場合はさらに縮まります。]
[護衛の部隊へ連絡をとって、先制攻撃を行う準備をする。観測射撃の準備をするので、神前はドローンで抗力測定をすること。距離が一キロになった時点で相手との回線を俺経由で送ってくれ。]
[了解しました。]
ユン先生の中ではすでに相手は「敵」であるようだった。
時間は過ぎ去り、距離は縮まった。ユン先生に合図をして相手へ連絡を取ってもらう。
[こちらは先行している集団の責任者であるユンだ。当方に接近しているそちらの所属を明らかにせよ。]
通信を経由するついでに俺は盗み聞きをすることにした。
[あ〜、こちらは都市間輸送隊のマスクだ。現在後方から変異種の集団が接近しているため速度を上げたため、そちらに接近する形になった。そちらの車両に停止していただき、協力を求む。]
[協力は出来ない。当方はマクサコフの運営する学園の生徒を連れている。これ以上の接近があった場合は敵対する意思ありと判断し、先制攻撃を行う。距離八百メートルを維持し、当方が都市内に侵入後に都市所属の防衛部隊に保護してもらうことを進言する。]
[いえいえいえ、そんな大事にしなくても。少しだけ止まって、手伝っていただければそれで十分対処できるはずなんですよ。こちらも火力はあるんですが如何せん数が足りなくって。]
都市間輸送隊が火力あると言っているだけで疑わしい話だが、ユン先生は声色を変えずに続けた。
[では、詳細な身分証などを提示してくれ。マクサコフ所属の人間として適正価格で増援を派遣することならできるだろう。]
[そんな!それでは赤字になってしまうでしょう。心付け程度で構いませんので…]
俺がユン先生と相手との話を盗み聞きしていると、周辺の偵察を担当していた児童から報告があった。
「先生!東南東、西南西より飛行物体を複数検知しました!おそらくドローンです。距離700!ステルスドローンです!射程圏内まで二百メートル!」
「総員ドローン展開!離陸と同時に迎撃レーザー起動!ミサイル系統の攻撃を優先して排除しろ。実弾系の攻撃と工学系の攻撃は俺が防ぐ!神前!お前が護衛部隊に連絡しろ!」
こうして正体不明の敵との戦闘が始まった。
軍隊とかが誰何するシーンって表現が難しいですよね。




