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遠足

琵琶湖を見たことはない。

 遠足:遠い道のりを歩くこと。特に学校の日帰り旅行などを指す。(マクサコフ日本語辞典)


 翌日、学校に到着して真っ先に言葉の意味が変化したのか調べたが、変わった様子はなかった。間違いなく今日は遠足が行われるはずである。しかし、待機中の俺たちの前に現れたのは遠足のための大型バスでなく、変異種討伐用の大型移送車両であった。

 上部にドローン積載用のマウントが十六箇所用意されており、搭乗員は各一台ずつドローンを持ち運ぶことができ、車両からの電力供給を受けることができる。各クラス二台ずつに分かれて分乗し、時間ごとに交代でストリボーグを飛ばして偵察を行い、戻ってきたら待機中のドローンと交換するように指示を受けた。


 同行すると聞いていたマクサコフの都市外機動部隊は装甲車両や重火器を装備しているほか、明らかにサイバネティクスだと思われる四肢を装備しているものもいた。

 

 「先生。彼ら精鋭部隊は機械化率はどれくらいなのですか?」

 バスの後方に座ったクラスメイトから質問が上がる。


 「彼らの部隊の機械化率は平均四割といったところだそうだ。眼球、臓器、筋肉、骨格など、さまざまな部分にサイバネティクスを移植している。彼らの仕事ぶりを見て将来への展望を持つのもいいだろうが、君らは彼ら以上のエリートにならなければならないんだからな。」

 ユン先生は微妙な表情をしながら俺たちに説明してくれる。機械化率の高さは基本的にその戦士の強さのバロメーターになるが、同時に今までの負傷率の高さの指標にもなり得る。結果的に精鋭になっているが元はダメな兵士だったとかが実際のオチなのだろうか。高級なものほど高性能かつ小型化してくるため、彼らの装備しているものは型落ちか廉価製品なのだろう。彼らに守られていて大丈夫なのだろうかと不安になりながら、遠足は始まる。俺も含めて車両に乗っている子供たちのほとんどは郊外へ出たことがないはずだ。郊外の状態を知っている子供たちから不安が広がる。


 都市と郊外を隔てる大きなセキュリティゲートが見えてくる。このゲートは壁などを設置せず、地面から迫り出すエネルギーフィールドによる防壁を備えており、都市内から外を見通すことができた。都市内の無機質で白く美しい印象に対して、外は無秩序で緑が深く不気味に感じられる。遠くではミサイルが着弾した後に雨が溜まった大きな湖があり、ネオ琵琶湖と呼ばれている。ネオ琵琶湖は極彩色の湖とも呼ばれ、帝国の観光名所の一つでもある。飛行機や軍用ヘリから覗く虹色の湖面はまさにこの世ならざる光景である。自分もドローンで見てみたが、たまに道路に垂れたオイルの色を濃くしたような不愉快な色であった。

 湖岸には飲み水を求めてやってきた変異種が首を並べて水を飲んでおり、時折倒れているものもいる。これは湖で繁殖した肉食魚が湖岸で毒液を排出しており、その毒を摂取したことで倒れた動物を捕らえて食い殺しているんだとか。いつの世も弱肉強食である。


 ネオ琵琶湖を過ぎてしばらくすると、変異種の群れが平野に群れていた。以前住居郡だったと思われる家屋の上に寝そべるものや、飛び回っているものなど、個性的である。この変異種たちは第三次大戦中の核攻撃による放射能の影響で野生動物が変異したものであると言うのが世界の『公式見解』だが、学園に入って学習した歴史では、次のように書かれていた。


 『都市外で繁殖している変異種には共通点として、どの個体にも一部「人間の特徴」が現れていると言うことが確認されている。これは世界中どこでも同じような事態が確認されており、共通の原因があると推測されている。三大企業は各社関与を否定しているが、放射能の影響であるというには変異種の分布が非常に広く、別の原因があると断定する学者が多い。』


 実物を見るのは初めてだが、本当に悍ましい景色であった。

 手足が人間のそれである四足獣や顔が人間である大型の鳥類、体に人面そのようなものがある豚のような何か。児童の中には気分を害して吐いてしまったものもいた。見るからに変異種とわかるその姿には恐怖しか感じない。

 ネット上にある噂ではマクサコフが機械と動物の合成をして失敗しただとか、MCUが人間を強化しようとして失敗した産物だとか、I&Kの忍者が変身を失敗しただとか言われているが、真相は謎のままである。


 精鋭部隊の砲撃が始まると、変異種たちも屋根から降りて逃走を始めた。先頭車両から放たれる砲弾達は家屋ごと変異種達を吹き飛ばし、平野らしい更地へと変えていく。一部の変異種達はこちらへ向かってくるが、前線部隊の掃射によって薙ぎ払われる。


 十分ほど砲撃音と銃声が続くと、バスは再び動き出した。


 「みんなもドローンから見れたと思うが、あれらが変異種と呼ばれる存在であり、駆除対象だ。基本的には民間の掃除屋やマクサコフの下請け事業者が清掃を担当するが、社会奉仕や新兵器の実験のためにこうして狩に来ることもある。今回は遠足できたが、中等部では職場体験で来るから覚えておくといい。次に来るときはきっと外側にいるだろう。」


 俺たちは外側の世界で生きて行けるだろうか。



 

変異種や他企業、植民地に蔓延る民族主義者たち…敵がたくさんで嬉しいですね。


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