魔法発動
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魔法を発動する刻印には、触ったものの魔力を吸収するための機構が備わっており、初めにその機構に魔力を流すことで、効率的に魔法を発動することが可能となる。
魔法もニンジュツ同様に古来から続く技術体系であると共に、近代に入って急速な技術革新を得た技術でもある。
特に発展に貢献したのは、幾何学の分野とプリント技術の進化である。
アレテーの思想が起きたギリシアの時代から非ユークリッド幾何学の発達へ、そして空位相、代数幾何学へ至るにつれ、より複雑かつ高性能な魔法刻印が作成されるようになった。そのため、今までは単一の物体にしか機能しなかった刻印技術も、同一のアレテー強化であれば対象とする物事に制限を受けなくなり、物事をどのように「解釈」するかという魔法使いの知能がより重要視されるようになった。
3Dプリント技術は前世でも普及し始めていた分野ではあったが、魔法使いにとってこの技術は革新的であった。今までは平面上にのみ構成することしかできなかった魔法刻印が立体的に、複数層にわたって作成できるようになったことで、より強力なアレテーの強化が可能になった。MCUの発表では、刻印を立体的に構成すした場合は、同様の平面刻印に比べ、面積比12倍以上の効力が発生するようになったとされる。特に有名な立体魔法刻印は空気爆弾刻印と呼ばれる魔法であり、物体に宿る引力を強化することで大量の空気を集めて圧縮。保持した空気を一度に解放して爆風を起こすと言うものだった。一切の火薬を使用せず、プリンターで印刷するだけで生産できる手軽さから、MCUの機械工兵に好まれた。しかし、相手が使う技術を真似しあうのが戦争というもので、マクサコフはこの技術を大型ドローンに搭載し、超低コスト爆撃機の生産を実現してしまった。また、I&Kでは、人体構造内に空気爆弾刻印を構成して人間爆弾を作る計画を立案したが、没となっていたことが判明している。
(消しゴムはより良く線を消すもの。この紙すら消せるだろうか。)
俺が刻印に触れると、体から何かが流れ出る感触を覚える。これが魔力だろうか。体温のような、何か温度を持ったような気体が体表を滑るように指先へ流れていく。魔法の刻印へと体温は集い、淡い光を灯す。これで魔法は発動しているはずだ。
俺は恐る恐る消しゴムを紙に撫で付けると、バターのように消しゴムが溶けていくが、同時に鉛筆が残した痕跡はまるで初めからそこに存在していなかったかのように消え失せていた。消したという主体的な感覚を通り越して、消えたという感覚に陥る。
紙を擦り続けてとうとう刻印が彫られていた部分を消費すると、魔力と思われる気配は霧散して何いも感じられなくなる。また、消しゴムも前世で感じたような感覚を取り戻した。
「さて、みなさん。初めての魔法の体験はいかがだったでしょうか?無事に全員魔法を発動できたようで嬉しいですね。今の活動で体内にある魔力の流れを確認できた子は多いでしょう。その感覚を忘れぬうちに、魔力量の測定を行います。魔法加熱器を後ろの棚から取り出してください。」
前世の理科室にあったようなガラス戸の棚に並ぶ多様な実験器具の中から指定された物品を取り出す。これは魔法加熱器と呼ばれるもので、中に入れた熱いものをさらに熱くすることができるというよくわからないものだ。お湯を熱湯にしたいなら初めから熱湯になるまで火で加熱すればいいものを、古典派の人間達はあえて魔法を使うことでそれを成そうとする。
「皆さんのお目目取扱説明書を送りますので、それを見て使ってみてください。稼働時間に合わせて皆さんの魔力量を数値化してくれます。」
俺たちはグライアイに届いた説明書を頼りに魔力を測定した。役所等で行う魔力測定では、一日あたりの出力可能なカロリー量として、kcal/日といった単位で確認作業を行うが、学校等では長時間の魔法の発動を必要としないことや、一日中発動できるだけの魔力量がないことから、十分単位での魔力「出力」としての量を確認する必要がある。
クラスの平均値は7kcal/分と行ったところだった。十分単位では70kcalの出力がある。俺の記録が9kcalだったので、ニンジュツと同じく、ほとんど誤差ではあるがやや優秀な結果と言えるだろう。今後も魔力とチャクラの量の向上を目指してトレーニングをしよう。何かにつけてリソースは重要だ。先にガソリンが切れた車からレースを脱落するのだから。
魔力についての知識は事前知識の範囲内。魔法を実際に発動して体験できたことは非常に良い経験だった。そして、エイヴリル師は今後どのように関わっていくべきか考える必要のある相手だと判断できた。今後の生活の中で見極めていこう。
消しゴムも恣意的にアレテーを捉えれば「よく消せる」なので、紙ごと消せるかもと孝は実践しましたが、しっかり失敗しました。まだまだ無理な状況を発生させられるほど想像力も魔法出力もないためです。




