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ドッヂボールは避けない

現実のドッヂボールはボールを殴る派です。

投げると肩が痛くないですか?

 この世界では人間の体一つでできることは多い。今やサイバネティクスや魔法、ニンジュツによって人の可能性は無限といえるだろう。だから、ボールは避けないし、避けさせないことにした。


「霧隠しの術…」


 試合開始後に俺のクラスの一人がニンジュツを発動する。試合開始前に準備していたものだ。肺の中に取り入れた空気を変化させて放出するニンジュツは初心者向けの忍術の一つで、早いもので小学生くらいからの入門書も売っている。親にニンジュツ使いがいる入園者であれば使用できるものがいてもおかしくなかったが、他のクラスでは使ったものがいなかった。そもそもこの学園の入学者にはニンジュツ使いは少ない。マクサコフへの配慮なのか、切り札を隠しているのかわからんが、勝たないことには意味がないため、全力で使ってもらう。


 呼気を変化させるニンジュツは肺に取り込んだ空気を基点に周辺の同質な物体も変化させていく。十秒とたたずに体育館は霧に包まれた。これでグライアイによる弾道計算は行われなくなる。それでも音響探知やサーマルカメラなどで探知してくるものもいるだろう。


 「シンさん。やってくれ。」

 背中に翼型のサイバネティクスを移植したシンさんは全力で羽を羽ばたかせ、相手コート側に向かい風を作りながら、音と周辺の温度を乱していく。同時に隣から大きな音。マディナがボールを蹴り飛ばしたのだろう。あのボールは今は当たらなくていい。今度は俺の準備を始める。


 シンさんの翼の尖っているところを少し借りて俺の手首の少し下を切り、少量ずつ出血させる。少しづつ血液を掌に溜めてはシンさんの翼が起こす風に投げ込むと、風に巻き込まれた俺の血液は敵の陣地へ霧散していく。

 俺の血液にはナノマシンのサイバネティクスが含まれているため、俺のグライアイではある程度ではあるが場所を強調表示できる。このデータをマディナへ送信して、的当ての的にしてもらうこと。これが俺のクラスで考えられた作戦であった。

 今までの試合のように攻撃力と防御力の競い合いになるとこのクラスでは勝負ができない。当初は他クラスのように攻撃力か防御力を向上させてどうにか戦う術を模索したが、どうしても質も量も足りなかった。そのため、こちらにとって有利なフィールドを作ることができないかと方針転換を図った。結果。索敵ができずに迂闊にボールを手放せば敵に渡ってしまう状況を作ることで相手の攻撃頻度を減らし、こちらだけ一方的に攻撃できる状況を作って勝利に近づく方針となったのだ。


 この作戦を俺が提案したのには、理由がある。共に三歳児同士であるから、ニンジュツの発動を目にしたことない者がいたということもあるが、基本的に我々入園者は生まれながらにして常に大量の情報を受け取りながら生活してきたのだ。生まれて三時間後にはグライアイを移植され、常に多量の情報を受け取り、分析して生活してきた。ストリボーグを手に入れてからは誰もがレーダーなどを使いながら生きてきただろう。俺やマディナなどとは異なり、プレゼントで索敵機器を移植してもらった生徒は尚更その傾向が強いのではないだろうか。この予想が正しいと判明すれば、この学園における実技試験や職場体験等で有利に働く可能性がある。今のうちに実験できてよかった。


 俺たちは総じて情報過多の世界で生きてきたのだ、それを奪うのが最大の作戦。マディナの的当てで優位にゲームが進む。相手側から当然相手側からもボールが飛んでくるが、向かい風を当て続けていることやボールに付着させた俺の血液の位置情報をチームで共有しているので、こちらには被害がない。

 近くからマディナがボールを蹴り出す音が聞こえる。ボールが破裂するかのような大きな音を出したかと思えば、風に乗って高速で飛んでいき、相手に当たる。ボールの材質は柔らかいので大きな怪我はしないだろうが、当たれば十分痛いだろう。彼方に送った分だけボールも変えてくるが、反撃は強くない。そのまま試合は時間経過で終了した。


タイムアップの時点でこちらの被害はなし。完全勝利とはいかなかったが、十分な成果だろう。しかし、保護者会から戻ってきた担任と保護者からすると、この光景は非常によろしくなかった。


 一つ、明らかに一方的に数が減っている相手チーム。

 二つ、下ろしたての制服と床に飛び散った(俺の)血液

 三つ、ボールに当たったことで怪我をした子供たち。


 相手チームの保護者は自らの子供のもとへ駆け寄り、俺たちの担任であるユン先生はこちらに駆け寄ってくる。周りで試合観戦をしていた子供たちも相手チームと同じ状況だったため、試合終了後に今の状況を認識したため、怯えた表情をしているものもいる。


 「一体何をしたんだ!?どうすればドッヂボールで相手が血塗れになるんだ!?」

 ユン先生はクラスの面々へ視線を左右させ、みんなは俺を指差した。仲間を売ったな!


 「…ユン先生、彼らの服についているのは俺の血です。ナノマシンを使って索敵をしました。記録データを送ります。あと怪我させたのはマディナです。」

 俺もマディナを売る。もはやクラス内に戦勝ムードはない。道連れだ。


 「ちょっと!あなたが考えた作戦でしょ!!ユン先生、主犯は孝です!作戦全部彼が考えました!私は指示に従っただけです!」


 「わかった、わかった。とりあえず二人にはあとで話を聞くから準備しておいてくれ。これから保護者の方も交えての昼食会だ。」 


 こうして一切ボールを避けないドッヂボール交流会は幕を閉じた。一生懸命にやったんだけどね…。


この学校おけるあらゆる課題解決学習は基本的にルール無用です。

スポーツだろうが試験だろうができることの幅を増やし実践力を鍛えることにつながります。

もちろん教員側も対策をとるので今後ドッヂボール大会は無くなるでしょう。

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