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サイバーパンク転生〜企業戦士となって信仰を捧げる〜  作者: 石丼
サイバーお受験戦争
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マディナの力

本日よりまた仕事ですので、更新は十八時です。

 はたしてドローンには回収物の情報があった。二つのビルの中層と上層にそれぞれ配置されているようだ。ドローンに預けられていた回収物はアンディが保管する。このまま彼はドローンを制御して初期位置に移動し、回収物と集合地点の防衛を行い、俺とマディナは一緒に回収物を取りに行く運びとなった。時間に余裕があるためと、防衛よりも探索の方が人手を必要とするためだ。


 ドローンが持っていた情報には、回収物の「容器」の情報も含まれていた。今目の前にある水槽は一つ目の回収物の容器である。


 「そうだよなぁ。俺たちのチームは防御力もない…。それにしたって物体を溶解する液体に沈んだガラスの置物を回収するなんて、とても児童にやらせることじゃないと思うんだがなぁ…。」

 俺は水槽に入りながらぼやいた。俺はメンバーの中で唯一自己回復ができるため、アンディに頼んで皮膚に耐久力を強化するための刻印を刻んでもらった。正確には皮膚の細胞の再生(複製)能力をアレテーとして解釈して強化しているため、ダメージを高速で回復しながら沈んでいることになる。


 水槽で置物を回収して浮上すると、メディナが口を抑えて俯いていた。


 「仕方ないだろ。尊い犠牲なんだ。……笑うな!!」


 残念ながらアンディが認識する皮膚に「毛」のアレテーは含まれなかった。何度も肉体に刻印するとなのマシンと体力を消耗するため、一度入れただけである。よって毛は魔法の対象外になるため、俺は今ツルツルである。こんな姿の俺が家に帰ったら、両親は泣いてくれるだろうか。


 「いや、だって。そうね、私たちのために犠牲を払ったあなたに失礼ね。ごめんなさい。でもこっち見ないでいただけると助かるわ。」

 先ほどから俺のことを一瞥もしない。なんと失礼なことか。近くにあったシャワー室で簡単に溶液を流し、服を着る。

 

 「俺は皮膚のダメージを魔術で軽減したが、ナノマシンも結構使ってしまっている。次は君が頼りだぞマディナ。足の力を見せてほしい。」

 三歳児のドヤ顔はこれでもかというほど可愛らしい。娘が初めてピアノを演奏して聞かせてくれたことを思い出す。また顔を見られる日が来るだろうか。いや、見るためにも今日を乗り切らなければ。


 二つ目の回収物の目標地点までやってきた。ここに二つ目の回収物が入っている容器があるはずだ。最後の課題を前に、俺は声をかける。


 「マディナ。君も気づいているとは思うが、今回の試験は俺たちのチームのそれぞれの能力を活かさなければ合格できないように設計されている。これは、試験で誰か一人が活躍して、他のメンバーの実力を見れないことだけでなく、他人の力を借りながら試練に臨むことができるかを試しているんだ。わかるだろう?」


 「……言われなくても、わかっているわ。そうでなければ魔法使いとニンジュツ使いの子供と一緒のチームにする理由がないもの。これは私にとって今までの考え方を捨てる試練。そして、今まで力を見せていない以上、ここは間違いなく私の番でしょう。」

 マディナの表情はグッと引き締まる。


 ビルの廊下を曲がると、短い廊下の先には情報通り保管庫が開放されていた。その中に置物が置いてあることも確認できる。状況を確認してマディナは苦い顔をする。


 「想定よりも廊下が短いわ。これではトップスピードが出ない。」

 この保管庫は廊下の中程にセンサーが設置されていて、センサーに接触後、数秒後に保管庫の扉が閉まってしまう。突破するにはマディナのサイバネティクスであるサポーギⅢの速度強化が必要だが、十分な助走が取れる距離はない。解決方法はいくつかあるが、マディナが実力を見せるべき場面だ。どこかで試験官も確認するのだろう。協力はすれど、邪魔になることはできない。


 「マディナがビルの情報や助走距離などの計算を終えたのだろうか。俺の方へ歩いてきて、声をかけてくる。」


 「神崎くん。作戦を思いついたわ。申し訳ないけど、この廊下を下から破壊することはできないし、外を迂回する方法もなかった。だから、あなたの力を借りたい。」

 そう言って、俺に協力を求めてくる。もちろん協力を了承する。


 「サポーギで助走を得るには、硬い地面と距離が必要。でもここは硬さはあっても、距離が取れないわ。だから、距離を補うために誰かに反作用で射出してもらうしかないと思う。それができるのは神崎くんだけ。でも…。あなたの足は生身よね?サポーギの反作用を受けると、あなたの足はしばらく使えないでしょう。私が責任を持って集合地点に連れて行くわ。だから、協力してほしい。」

 マディナは誠意を持った表情で俺に依頼してきた。頭こそ下げなかったが、それは意固地なのではなく、チームメイトとして協力し合うべきという一体感からくるもののように感じた。俺からすれば、孫にいてもおかしくない年齢の女の子からのお願いだ。


 「もちろんだ。あとは任せたぞ。」

 俺は後で回復するために必要なナノマシンの濃度を計算したのちに、余分な量を全て脚部の筋力強化に回した。マディナもサポーギの起動を始める。


 「脚部バーナー起動、人工筋肉群神経接続開始、強度調整開始、スパイク除去。」

 俺に気を遣ってくれたのか、足裏に生えていた凶悪な針の山は撤去された。しかし、あれを喰らえば十分痛いが。


 互いのグライアイで距離とこれからの動作の調整を行い、いざ本番。


 マディナは空中へ飛び上がり、俺はそれよりもやや上方からマディナを蹴りおろす。マディナは俺の視界を共有しているので、蹴りに合わせて足を踏み込み、俺の蹴りの威力を助走に変換する。途端に俺の脚部にはバーナーの熱と反作用の衝撃が走り、皮膚はやけ骨は砕ける。しかし、マディナはこちらを見ることなく加速に専念する。子供らしい体格ではそこまでの速度は出ないがセンサー軌道から保管庫の締め出しまでには十分間に合う速度にまで加速する。保管庫はマディナが扉を通過した直後に閉鎖された。

 俺は現状立ち上がることもできないので、マディナが間違って脆い回収物を壊していないことだけを祈って待つ。怪我を治しながらアンディと連絡をとり、これからマディナと帰還することを伝えると、ドローンをこちらに回してくれることになった。アンディは単体の戦闘能力がそこまで高くないため不安なはずなのだが…。防衛の必要性はほとんどないとのことなので、優しさに甘えよう。


 しばらくすると、マディナは階段下から現れた。

 「無事回収できたわ。さ、帰りましょう。」

 そう言って俺を背負って歩き始め、試験時間に二時間ほどの余裕を持って俺たちは集合地点に到着した。試験官からは特に連絡がこないため、回収物の置物のモチーフは何か考えたりつんつん触ったりして時間を潰していた時、再び象さんシールから電流が走り、意識が薄れていった。



 試験の基本設計は、受験者がサイバネティクスを活かす状況を作り、かつ他者と協力しなければならないということ。マクサコフの多くの内勤者は試験作成に多くの時間を取られ苦労したらしい。

 マディナのようにマクサコフ公社のお膝元の国出身の人物は機械至上主義者であることが多いです。詳しくは次回の忘備録で書きたいと思いますが、こういった固執を消して行くことが入学者にとって重要です。10年以上かかる教育課程において、不和を産む思想なんて邪魔で仕方ないですからね。

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