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サイバーパンク転生〜企業戦士となって信仰を捧げる〜  作者: 石丼
サイバーお受験戦争
31/70

お片付け

事件事故が起きたら後片付けが大事

松下管理官は出世できるのか…

 松下管理官に連れられて、俺はマクサコフ機械公社日本支社に連れられてきた。ここが今の世界の頂点の一角。何か入園試験のヒントとかないかな…と視線をうろちょろさせていると、会社の社訓のようなものが掲げられていた。


 『人間が不幸なのは、自分が幸福であることを知らないからだ。科学を通して全人類に幸福を知らせることこそ我らが使命。』

 前半はドフトエフスキーの発言だっただろうか?この世界でも文筆家として活躍したのだろうか。はたまた別の誰かなのかもしれない。社訓はホログラムで虹色に輝いているのに、心なしか真っ赤に見える。社訓というのは大切だ。これはしっかりと記録しておこう。他社の社訓も調べておかなければ。いつか宗教を興した時にも、活用できるかもしれない。

 しかし、マクサコフらしい考え方だ。人類の技術の粋であるサイバネティクスは全人類が受け入れるべきであるとさえ考えているのだろう。この技術で助かる人が多いのは間違いないだろうが、それはいつか文化や伝統を破壊し、対立を火種を熾すだろう。俺も気をつけなければいけない。信仰力のためにこの世界を犠牲にする必要はないのだから。

 

 呆れるほどに長い廊下を歩き、やってきたのは重厚な扉の前。なお、ストリボーグはメンテナンス中のため、松下管理官に手を引かれてやってきた。手には汗が滲んでおり、生身の暖かさが感じられる。握る強さから案内するというよりは、逃さないという強い意志を感じる。扉には表札などはない。テロ対策のために、応接室や郵便受付など以外は地図等にも記載はなく、本社ビルの図面等もトップシークレットになっている。各部屋の表札も社員の眼球型サイバネティクスにのみ電子的に表示されるようになっているだけであり、セキュリティの高さに感嘆する。


 松下管理官はノックもなく入室する。てを引かれている俺ももちろん一緒だ。広い部屋。左右に男女が座るデスクがあり、彼らはこちらをちらとも見ない。正面にはいかにも重役と見える男性が座っている。一言だけ口を開く。


 「報告しろ。」


 その一声だけでわかる。前世でよく聞いた声。かつては自分の声でもあった。経験や能力が背景となって発される声、重圧と焦燥を心に与える。返答者に有無を言わせない地位を持つ者の声だ。幼い頃には親や教師が持つ者だと感じていた。社会に出てからは上司が持っていた。いつか勝手に身につくと思っていたが、身についたころに初めて、自分の努力と経験によってこの声が出るのだとわかる。あの声だった。

 松下管理官は俺からの報告に加えて、自宅周辺のカメラの記録を確認していつから誘拐犯に目をつけられていたのか、どの時間に何が起きたのか、都市への被害や人的損失、今回の対策にかかった経費などを口頭で報告している。なぜアナログな方法での報告なのかは見ていればわかる。自分も部下にやっていたことだ。目線、話の速度や澱み方を見て、どこに嘘があるのかを見通すためだろう。松下管理官の報告が終わり、男性は再び口を開く。


 「いいだろう。堅実な対応だったと評価する。ただし、世間的な評価はどうかな?

君はどう思うかね?君の家庭は他社と関わりがある。ことによっては、I&Kからちょっかいを受ける原因になっていたのだが。わかるかね?」

 そう言って俺の方に視線が向けられる。


 松下は口をつぐむ。俺が答えなければならない。今回の出来事はマクサコフにとって不利な点が多い。プログラム参加者への誘拐事件が多発している時期に、都市の中で事件を起こしたこと。子供に兵器を使用させたこと。屋上から飛び降りさせたこと。どれをとっても前世であったらすぐに批判の嵐だろう。何より、私の父がI&Kに所属していることは面倒ごとにつながりやすい。

 もし俺が誘拐されて死んでいたら、I&Kの広報部などは、プログラム参加者を守れなかったマクサコフを批判し、父を悲劇の主人公として報道するだろう。これは組織として損失が大きい。俺はこれを覆すだけの情報を提示・提案しなければならない。目の前の男は俺の価値を測るような視線を向けている。この質問は試金石なのだろう。

 元営業マンを舐めるなよ。役職もついてたんだ。メディア対策講習だって昇進ごとに受けてきた。毎回三十分だけだったがな!覚悟と自分のスタンスを決めて、まとめておいた考えを丁寧に説明し始める。


 「私は今回の事件は非常に穏当に対処することが可能かと思います。第一に、誘拐犯は『ニンジュツ使い』です。所属は不明でしたが、あえて明かさぬまま報道すれば世間が勝手に想像してくれます。世界で一番ニンジュツ使いを抱えている組織がありますので。また、他企業・国家に先んじて犯人を確保しているのは、我々です。警察への情報提供や捜査協力の体制をセットで公表することで、私に誘拐犯の手が届きかけたことは帳消しにできるはずです。」

 所属不明であることを公表しなければ世間はニンジュツ使いを管理できなかったI&Kに矛先を向けるだろう。


 「第二に、兵器の使用等については、現場エージェントの的確な判断と柔軟な発想、マクサコフ製のサイバネティクスの性能の宣伝になるように世間に発表しましょう。これは先んじて報道しなければいけません。でなければ、私の落下はミサイルの爆撃を自分から避けたのではなく、『ミサイルの爆風で落とされた』ことにされかねません。これは素早く対応する必要があるでしょう。こうして話している間にも、世間の関心は高まっているはずです。」

 目の前の男は一瞬ぱちぱちと瞬きをすると、扉に近いところにいた職員が立ち上がって室外へ出て行った。視線で続きを促される。


 「第三に家庭のことですが、今日父は偶然、体調を崩した職員の代わりに出勤していましたが、誘拐犯が何処かからこの情報を入手して私を監視しにきたことにしましょう。辻褄は聴衆が合わせてくれるかと思います。そして自分を守ったのは我が家を庇護下におくI&Kでなく、マクサコフであったと先制攻撃すれば、こちらに火の粉が降りかかってくることはそう多くないでしょう。特に、私にはクローフィーというサイバネティクスが与えられています。これは名実ともに『マクサコフの血』が私に流れていることの証左です。公社が責任を持って保護しようとしたことが十分に伝わるはずでしょう。」

  目の前の男はふんと鼻を鳴らした後、俺に向かって笑顔を見せた。


 「荒削りかもしれんが、大筋公社ではそのように対応する。君とご両親もそのような認識でいていただけると助かる。報道に流れてくる以上の話をすることのないように気をつけてくれたまえ。遅れてしまったが、今回我々の警戒が至らず、プログラム参加者の君の警護が遅くなってしまったことを責任者として詫びよう。申し訳なかった。」

 会釈程度にすら頭は下がっていないが、視線には謝意を感じる。こちらもぐいと頭を下げて、退出することとなった。


 ネットニュースには今回の事件が大きく報道され、マクサコフやI&Kには多くの報道陣が集まった。マクサコフが行った報道は事実のみだが、印象としてはI&Kに非があるように演出されており、公社は製品と高度な教育の実力を広告することに成功した。


 試験まで後数ヶ月。俺にだけでなくエリアごとにエージェントによる警備が配置された。


 そして厳重な監視下のもと、試験当日が訪れる…。

 

次回一次試験についての忘備録です


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