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サイバーパンク転生〜企業戦士となって信仰を捧げる〜  作者: 石丼
サイバーお受験戦争
24/70

誕生日

皆さんはどのサイバネティクスが欲しいですか?

 俺がこのサイバーパンクな世界に転生してから早くも一年が経過した。今では十分に人とコミュニーションが取れる程度に話せるようになり、自力での歩行もよちよち歩きから少しは速く走れるようになった。父にねだってストリボーグにマニピュレーターを搭載してもらったことで、家の中のことはほとんどできるようになった。今ではマニピュレーターでミルクを入れられるし、おしりだって拭ける。着替えはできない。片足立ちって難しい。父には申し訳ないが、自分自身でできることが増えれば両親の育休も早めに切り上げられるし、俺も監視されていない自由な時間で受験対策をする時間を得られる。家族団欒の時間がこれから少なることは申し訳なく思うが、これも長大な計画のための一歩なのだ。


 今日は家族揃って俺が生まれた病院に来ている。二週間前に林田補佐官から連絡があり、エリート人材育成援助プログラム参加者への誕生日プレゼントの受け取りに来たのだ。プレゼントはサイバネティクスである。サイバネティクスはマクサコフ側で用意されたものの中から、担当の管理官がプログラム参加者の特性に合わせて幾つかの選択肢が推薦される。今日はその実物を見ながら説明を受け、可能であれば移植手術まで受けることになっている。


 「孝くーん。神前孝くん。三番診察室にお入りくださーい。」

 看護師の陽気な声が待合室に響く。両親はどんなサイバネティクスが推薦されているのか気になって仕方ないようで緊張している。マクサコフからのプレゼントは毎年2万人近く受け取るが、その内容は非公開とされていて、不届きものが情報を公開してもマクサコフ傘下のインターネット防諜部隊であるネットワーカーにすぐに消されてしまう。そのため俺も何が推薦されるのかわからない。ここで何を選ぶかも、試験の一環になるのだろうか…。


 診察室に入ると、五十歳くらいだろうか、親近感を覚える年齢の男性医師が座っていた。


 「こんにちは神前さん。一歳の誕生日おめでとうございます。」と、挨拶を交わす。自分も舌ったらずの口で挨拶する。医師は、孝くんに推薦されたのは、この三つのサイバネティクスです。と説明を始める。


 「一つ目は嗅覚強化・吸気分析ユニット『サバーカ』です。これは鼻の奥にある鼻腔という空間に移植するサイバネティクスで、人間に犬以上の嗅覚をもたらす探索機器です。匂いの嗅ぎ分けや記録はもちろん、鼻から吸い込んだ気体中に含まれる成分を分析することができます。ドローンで探索をしながら視覚領域を圧迫せずに索敵ができるので、単独行動をするエージェントにはこれを移植している人が多いそうですよ。匂いの強さや不快感に慣れるのは早い方がいいので、幼少期から移植する人は多いみたいですね。」

 一つ目の選択肢は索敵機器の増強で嗅覚を利用したサイバネティクスのようだ。実際に医者が言ったように視覚領域の確保は重要だ。ドローンのカメラをワイプで共有したとしてもある程度大きく場所を取らなければ見づらいし、ドローンを失った場合の索敵手段があることは保険としても役立つだろう。ただ、吸ったものの成分がわかっても毒物だったら吸った時点で死んでいるのでは…?


 「次は聴覚強化・音声解析ユニットの『サヴァー』です。これは鼓膜奥の内耳部分に移植するサイバネティクスで、名前のとうりフクロウ並みの聴覚を得られる探索機器です。より小さい、遠くの音を聞き取れるだけでなく、複数の音を聞き分けて同時に理解することにも長けています。今つけているグライアイとの連携で、昔の偉い人みたいに十人分の話を同時に字幕表示することだってできますよ。これもさっき行った理由と同じでエージェントの方には子供の頃からつけている子供がいますね。」

 二つ目は聴覚の強化か。嗅覚に比べて安定性も高そうで汎用性が高そうだ。ペーパーテストとかで活用すればカンニングとかもできるのでは?これまでに紹介されたものはどれも潰しが効くイメージで便利そうだという印象がある。


 「そして最後に肉体強化・環境適応ユニットの『クローフィー』です。これは…血液のサイバネティクスですね。血中にさまざまな機能を持つナノマシンを投与します。基本的な能力としては体の血中から筋肉にマイクロマシンを移すことで肉体を強化できる他、体の自然回復能力を大幅に向上させます。また、体温を操作したり、体内の毒やウィルスを分解することもできます。幅広い活躍ができますが、器用貧乏な側面もあります。これらの昨日の上限は血中のナノマシン濃度に比例します。濃度が上がるほど効果が上がりますが、拒絶反応のリスクも高くなるので、注意が必要です。」

 身体能力の向上や回復力など、多岐にわたる性能を持つのは魅力的に見えるが、これらはニンジュツでも対応できる範囲の能力であることを俺は予習済みである。これはハズレ枠なのだろうか?そう考えていると、医師が苦い顔をしていたので、何か言いたいことがあるのかと、話を促してみる。


 「ああ、これはマクサコフに雇われている私がいうのは良くないんだがね。このクローフィーは血中から尿や汗などの形で流出するので、定期的な補給が必要なんだ。プログラム参加者であるうちは無料で十分な量の補給を受けられると思うが、卒業後の進路選択ではナノマシンの補給を考えるとマクサコフ一択になってしまうと思うよ。」

 医者のこの言葉を聞いたときに俺は一つの推論を持った。これは俺に対する首輪としての意味があるのではないだろうかと。松下が最初に訪問したときは俺の異常な通信量をモニタリングしてだった。2回目の林田を伴っての訪問も急だったが、あれが俺のストリボーグの利用状況をモニタリングした結果だとすればどうだろうか。林田は両親が操作したかどうかを確認していた、があれは俺が他社のスパイとしてボディロンダリングしたエージェントかどうかを確認しに来たのではないだろうか?ここでクローフィーを選択すると、他者へ移籍して働くことは不可能ではないがハードルが上がる。ここは他の選択肢が魅力的でも、クローフィーを選んでマクサコフからの信用をとった方がいいのではないだろうか。あくまで推論にしかならないが、前の二つの選択肢に比べてこれは異質だ。おそらく間違い無いだろう。


 俺は考え込んでしまった子供にどう声をかけようかと悩む両親と医者をそっちのけに、この選択肢に隠されているかもしれない意図を読み解こうと必死だった。




 

マクサコフからのプレゼントは管理官からの推薦があると書かれていますが、実は推薦枠は一つで、嗅覚強化と聴覚強化は誰の選択肢にも上がります。最後の一つが管理官の推薦枠であり、プログラム参加者のことを考えて推薦するものや技術者からの袖の下を理由に推薦するものもいます。他にもグライアイ以外の眼球デバイスやストリボーグへのマウント機器、など、さまざまな選択肢から推薦されます。幼少期に移植されるサイバネティクスは長い訓練をした方が良いものや、成長しても支障がない部位へのものなどが多いです。MAGEが推薦された生徒もいるかも…?

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