家庭訪問 中編
前後編になるはずでしたが長くなるので三つに分けることにしました。
今日は初めての屋外活動!母にお散歩に行きたいとお願いしたところ、アパートの屋上にあるこじんまりとした公園に連れてきてもらった。あいにくまだ自立歩行どころか、はいはいすらできない体なので、育児ポッドに入ったままのお出かけである。屋外では新生児ポッドの透明なシャッターを展開する必要がある。この時代では野鳥は少なくなった食糧を探して弱いものから奪うため、子供を襲うこともあるのだ。こういった野生動物が凶暴化した生体を変異種と呼び、各大企業は環境悪化の責任をとって駆除をしている。学生アルバイトが駆除のバイトで死亡したなんてニュースが流れるくらいには恐ろしい存在もいるようだ。
屋上には俺と同じくポッドに入ったお子様と、小学生くらいの子供がいて、数人VRデバイスを頭部に装着して足をブンブン振り回している。おそらくVRサッカーをやっているのだろう。そんな子供たちを尻目に俺はストリボーグⅤを父に持ってきてもらい、操作練習を始める。これが非常に大変なのだ。
ストリボーグⅤには、上下に光学カメラが搭載されていて、それぞれのカメラに映る映像をグライアイⅢに同期して見ることができる。同期の方法はいくつかあり、①両目を一つのカメラと同期する②両目を上下それぞれのカメラと同期する③片目を上下どちらかのカメラと同期し、もう片方の目は通常視界のままにする④グライアイ上にストリボーグのカメラをワイプとして表示して通常視界を保有しながら操作する。などがある。これが非常に酔うのだ。赤ん坊の脳には映像の処理が重いのか、はたまた単純に慣れていないせいか、カメラを同期せずに目の前にいるストリボーグを操作するのは苦でもないのに、カメラを通して世界を見ると運動が激しすぎて二、三分で酔ってしまう。
そのため、今日は比較的視界が広い屋上で練習することで、この酔いに慣れていこうと画策しているのである。
父に持ってきてもらったドローンを起動するとちょうど野鳥が屋上を飛び回っていたので、ドローンで追い回しながら視界の急変化に耐えていく。野鳥も追いかけ回されるのに慣れているのだろうか、のんびり飛んでいないで上下左右に身を振り回し、ストリボーグⅤから逃げ続ける。追いついたところで何ができるわけでもないので、一定の距離を保ちながら様々な探索機器を切り替えて追いかける。レーダーは思ったよりも正確に周辺の状況を把握できるが、音響探知は移動中ではノイズにしかならないようだ。サーマルは視認性こそいいが、物の形状が捉えづらい。国を守る人たちはこう言った勉強をしていたんだろうなぁと、かつての故郷に郷愁の念を抱いていた頃、アパートに今世の数少ない顔見知りが近づいたことを探知し、ストリボーグを向かわせた。子供らしさの演技も必要だろうから少しいたずらをしてやろう。俺はストリボーグのスピーカー設定を元の成人男性の声にもどし、来訪者に声をかける。
「こんにちは、松下管理官。本日はこのアパートにどう言ったご用件でしょうか。」
すると松下管理官の後ろについていた男性は上着の内側に手を差し込み松下管理官の後ろに回り込む。盾にするつもりか?当の管理官は落ち着いた様子で返事をしてくれる。
「こんにちは。神前孝くんの様子の確認に本日は訪問いたしました。家庭訪問というやつです。今お忙しくなければお部屋まで伺いたいのですが。」そう返答する松下管理官の表情からは焦りや不安は見えず、後方に手をやり、後ろの男性を制した。
「こちらは部下の林田補佐官です。同席させていただきたいのですが。」と続ける。
もちろん俺に不満があるはずがないので、案内差し上げよう。
「もちろんです。ですが、今は屋上で散歩しておりましたので、そちらにご案内差し上げます。エレベーターから屋上へどうぞ。」ストリボーグからエレベーターを操作して二人を誘導する。林田はいかにも怪しんでいるような、時折喜びが見えるような表情を垂れ流している。それでいいのか?
屋上に到着するとストリボーグを俺が入っている育児ポッドの上に着地させ、音声を元の男の子の声に変更し、両親へ呼びかける。
「パパ、ママ。松下管理官とその部下の林田補佐官がきました。こちらにご案内します。」そう伝えた頃には両親と二人は顔を合わせていた。マクサコフから来た二人は先ほどまで父か母がストリボーグを操作していたと思い込んでいたところだろう。果たしてどんな反応をするかな?
「こんにちは神前様。お久しぶりというほどではないですが、産後の経過はいかがでしょうか?孝くんもドローンの操作ができるようになったんですね。」
と余裕の表情。まるでこちらの成長度合いを予想していたかのような様子だ。まさか他の子供たちもこれくらいできるのだろうか…。不安になってきた。一方で林田の方はもはや失礼というレベルではないほどに俺の顔を凝視したのち、両親に話しかける。
「失礼ですが、ご両親が操作の代理を?もしくは操作方法を教えたとか…。」
困惑一色に染まった顔で話している。
「いえいえ、素敵なものをいただきまして、その日から息子が自分で動かしている…はずです。ドローンを通して会話をしているんですわ。ねえ、孝?」
母の話に合わせて俺も会話に参加する。
「はい。このような素敵な贈り物をありがとうございます。おかげで勉強も捗りますし、父母にかかる負担も減ったと思います。」
と、感謝を述べる。
「箱を開けた途端に動き始めてテロか何かと焦りましたよ。今後は子供が誤作動させないために保護者の許可を得てから起動するように設定しておいた方がいいのではないでしょうか。」
父も常識的な意見を述べる。松下管理官は、孝くんが特別早いんですよ。と両親を煽てて話を受け流している。
「届いたドローンが正常に作動したことを確認できて良かったです。本日はこちらをお届けに参りました。マクサコフが運営する幼稚園の入学案内です。私はマクサコフ公国本国の卒業生ですので、詳しくないのですが、こちらの林田が帝国の幼稚園のOBですので、ご紹介します。」
と言って林田に水を向ける。
サプライズ成功?
帝国にマクサコフが学園を置いているように各国はそれぞれの国にインターナショナルスクールを展開しています。学校名を決めないとそろそろ書きづらいので、次を書くまでには決めておきます。ネーミングセンスがないのでいつも通り安直になると思います。




