家庭訪問 前編
温泉に入ってからゆっくり書きました。周囲のことも少しずつ書いていきたいですね。
マクサコフ機械公社人事部次世代教育課新生児管理官補佐の林田は自分に与えられたオフィスの座席で新生児に与えられたサイバネティクスの使用状況をモニタリングしていた。これは、新生児に電脳を移植し、マクサコフのエリート人材育成援助プログラムへ他社からスパイが紛れ込むことを阻止するための処置であり、対象となる新生児全員へ行われている。また、稀に保護者が新生児に移植されたグライアイⅢやストリボーグⅤを転売することもあり、サイバネティクスがどの生体に接続しているかを監視して、適切に利用されているかを確認することも林田の仕事である。
「松下管理官、昨夜から本日にかけての報告ですが、このエリアの新生児は一名を除いて通信記録や稼働状況に問題はありません。その一名ですが、神前孝という男児で、昨日神崎孝の元へと配送されたストリボーグⅤが開封後すぐに起動し、今日までの間長時間稼働しています。どう致しますか。」
早口に話す林田の報告に、何を言いたいのか意図を察した松下は、意地悪な心を隠して笑顔で返答する。
「そうねぇ、グライアイの件は病室で直接確認したから問題なかったけど、ストリボーグは保護者でも使おうと思えば使えるから、不正利用されている可能性は確かにあるけど…。あの男の子なら初日から使えてもおかしくは無いと思うわよ?」
「そうですか?そもそも生後半年以降に成長に合わせて送付するストリボーグを送るには早かったんじゃないでしょうか?」
林田はあたかも松下の判断を非難するような発言をする。松下も面倒に思いながらも、追求を緩めるために林田への提案を考える。
「生後すぐに言語を理解する新生児は過去に例もあるわ。あの子の親がI&Kに勤務しているのを懸念するのもわかるけど、直に確認した私の判断よ。問題ないと思うわ。でも、そうね…。もし今日の予定が空けられるなら、一緒に家庭訪問をするのはどう?あなた、来年には補佐官からの昇進を希望しているのでしょう?」
「…いいのですか?家庭訪問は管理官の仕事だったはずです。」
「管理官の付き添いに補佐が来ることはおかしいことではないわ。あなたのキャリアにとっても損ではないはずだし、自分の目で確認することもモニタリング担当の業務にとって重要でしょう。」
松下からの予想外の提案に一瞬何か別の意図があるのではないかと逡巡するが、上位職の業務の補佐や経験は業務の査定に有利に働くことが多い。いち早く昇進したい林田にとっては願ってもいない機会だった。
「…わかりました。お供させていただきます。管理官のスケジュールも変更しておきますね。」
そう言って林田は足早に松下のオフィスを退出し、自分のデスクへと向かう。
「あの神前孝にスパイの容疑がかかれば、一度許可を出した松下管理官は場合によっては降格される。降格までいかなくとも、自分の評価は上がり、来年以降の査定に反映されるだろう…。もしスパイでないとしても、懸念を晴らすために万全な対応をしたことになるはず。生後一週間立たないうちにドローンを使えたのはプログラム開始後全ての年代を合わせてもまだ十人にも満たない。絶対に何かあるはずだ。」
林田は自分のオフィスデスクに戻り独り呟く。林田はマクサコフの運営する学園を高等部まで修了した優等生であったが。卒業生の中では成績が振るわず、エリートコースである営業部に配属されず、人事部へ配属されたことに不満を持っていた。この配置は林田が学園内での後輩の面倒見がいいことや人柄を買っての決定だったのだが、本人はそれを理解しておらず、自分の力不足であったと認識しており、現在進行形で腐ってしまっている。
「ふぅ。あの子は優秀で面倒見のいい子だって聞いていたんだけど、難しいものね。モニタリングのなかで数字に着目するのは大切なことだけど、執着するのは二流でしょう…。大事なのはサイバネティクスをどれだけ使ったかではなく、どのように使ったかでしょう。スパイに送り込まれる人材なんてすでに技能は習熟しているはずだし、目立つ行動はしないんだから。」
自分の部下の能力を嘆きながら松下は端末を操作して神崎孝の情報を閲覧する。
(ストリボーグの活動時間限界まで稼働させている。でも、ほとんど移動させているだけね…。時々障害物への接触警報が起動しているからこれは操作確認をしているということ。それに最新システムのヴァイキング通信や索敵機器も少し稼働した後は停止して電源を節約しようとしている印象があるわ。移動範囲を見るに自宅のアパート内でドローンの操作練習をしていると見るのが間違いない。これでスパイ容疑なんて笑っちゃうわ。)
神前孝の活動履歴閲覧を中止し、林田の人事査定に今回のことを報告すると、会社に配備されている車両の使用申請を輸送計画とともに上司へ送る。
「さて、我が社の可愛い子供はどんな成長をしているかしら。楽しみだわ。」
そう言って自前のハンドバッグには幼稚園の受験要項を、スーツ裏のホルスターにはデスクから取り出したハンドガンを差し込むと、ハイヒールの踵を軽快に鳴らし、オフィスビルから退出していった。
マクサコフのする学園の制度や社内のこともそのうち忘備録に書きたいと思いますが、まだまだ未完成なので楽しみにお待ちください。
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