実家
なんとか滑り込みで投稿できました。これからジムリーダーに再挑戦してきます。
松下から受け取ったメールには、おれの眼球として埋め込まれたグライアイⅢのロックされた機能についての紹介ファイルと解除コードが添付されていた。解除コードは認識した瞬間作動し、インターフェース上で使用可能な状態になったことが告知される。
今回解禁された昨日は、松下からメールを受信した「視線間高速赤外線通信機能」の送受信バージョン。受診だけは初めから可能なように設定されていたんだな…。
他にもある。眼球を眼孔内のベースに着脱する「独立機能」。これは目に指を入れてグライアイを取り出し、設置したり転がしたりして「視野を多角的にする(物理)」機能だが、赤ん坊である俺の握力では眼球を取り外せないので、今は無用の長物である。そのうち自宅に届くらしい乳幼児用「初めてのドローンカメラキット」が届けば使い道も見えてくるだろう。
次におれが視界にとらえた動画像を精密に分析することができる「CB(システーマビデオアナライザ」。ロシア語が語源だからか、ビデオの頭文字はVでなくBであるようだ。この機能にはグライアイⅢを通して見た映像の録画機能も含まれており、一瞬であってもおれが見たものを撮影し、リアルタイムに分析・解析を行う事ができる。例えば、転生前に見ていた海外サスペンスドラマのように、足跡を検出して移動先を特定したり、犯罪者データベースにアクセスすれば今までに見た人物の中に該当者がいないかを検出することもできる。らしい。他にも敵が持っている武器を視認する事ができれば予想される攻撃軌道を表示してくれるらしい。物騒だ。今必要な能力かというと微妙だが、使い慣れて置く程度には練習しておこうか。
そうこうしているうちにまた1日が経った。今日は退院日であるらしい。今は医療技術が発達し、よほどのことがない限り一週間以上の入院が発生することはなく。出産に至っては日帰りですることもあるとか。我が家の場合は、母ではなく俺のサイバネティクスの移植の拒絶反応の確認のため出産日を含めて2日入院することになったとか。これから車両に乗って自宅へ向かうことになる。
余談だが、この世界では自家用車が法律で禁止されている。各社が自動運転車を研究し、競争し合った結果、人間が制御するよりも自動運転に任せた方が確実であると判断され、自家用車は廃止。自動車生産会社が運営する自動配車送迎のサブスクリプションサービスへ加入することで、毎日の通勤から買い物までなんの苦労もなく車両によって移動する事ができる。加入する事ができるだけの資金力があればだが。サービスに加入できないものの移動はもっぱら自分の足である。路上を逐一停止するタクシーもバスも交通障害となってしまった。
閑話休題。俺の新しい実家は郊外のファミリー用アパートの一室であった。父の勤務する工場や母の働き先にも近いらしい。なんとバリアフリー、自動ドア、顔認証キーなど、転生前にはなかなか実現が難しいアパートの実現に心が華やいだ。室内に運び込まれると、周囲を見渡す間も無くベビーベッドのようなものに安置された。このベビーベッドは非常に高性能で、乗っている俺の眠気を感知すると揺籠のように稼働し、俺がグライアイⅢを通して操作して移動する事もできる。つまり浮遊するベビーカー兼ゆりかごなのである。寝返り機能もある。母が食事を与えたい時はちょうど良い高さへ上昇する。ちなみに食事は完全人工ミルクによるものだ。正直、精神年齢52歳で授乳されるのは難儀なので助かった。
「ふう、やっと一息つく事ができるわ。病室ってなんだか緊張しちゃって、休んだ気にならなかったの。」
「大変だったね。でも母子ともに健康でよかったよ。生前検査でサイバネティクスに対する拒絶反応に対して問題ないと確認できたとはいえ、生まれてすぐ移植したんだから。直子も気が気でなかっただろう。孝も頑張ったね〜。」
父はそう言って母に飲み物を出し、俺の顔を見ながら自分も口を湿らせる。
「出生届やら住所登録、子育て援助品の申請は、松下さんがやってくださるそうだから、わたしたちから役所に行ってすることはほとんど無いらしいわ。マクサコフの制度って充実しているのね。」
「…本当はI&Kの援助が受けられればよかったんだけどね。帝国内では人気が高くて抽選は絶望的だし、僕の地位では優先を受けることもできなかった…。」
父は悲しそうな顔で俺の唇をぷるぷると指で弾いて遊ぶ。そんな父に母が寄り添う。
「それでも、サイバネティクスがないよりはずっといいはずよ。これからの時代は必需品だと告知も出ているし、これがないと食事すら味気のない世界になるのでしょう?」
「…そうだね。例え将来壁にぶつかるとしても、走り出す権利すらないよりはずっといいはず。孝のためにも頑張って働いて、不自由させないように立派に育てよう。ずっと一緒にいられるわけじゃない。幼稚園に合格すれば、寮に入ってしまうのだから。少しでも楽しく一緒に過ごす時間を作っていこう。」
「…。二人目を考えるのもいいんじゃない?」
そろそろ子供は寝る時間だ。
次回はこの世界の食文化についての忘備録を書く予定です。
食文化についてはこんな世界が来たら私は嫌だなぁと思いながら書いています。




