第5話 雷鳴の天馬
「獣纏――!!」
その言葉を唱えると同時に彫像から放たれた光がメールさんを包み込む。
そして周囲に電撃をまき散らしながら光が晴れると彼女は黄色く輝く手甲を装備していた。
「うはぁ、これがあたしの力……」
「チッ、魔道具を装備したからって!」
飛びかかろうとするドロシーの前にひとりの女性が躍り出て障壁を作り彼女を弾く。
「お待ちなさい!」
リリアーナ先輩とよく似た顔。
金色の髪を靡かせる女性は……
「リム!?あんたこんな所で何を!?」
ああ、そうか。
彼女は確か先輩の妹、末妹で名前は確かレム・ミアガラッハ・リュシトーエ。
「刮目しなさい!我が姉の覚醒を!!」
リムさんはどこか芝居がかかった身振りで声を張り上げる。
「え!?」
「雷を纏いし天馬の力を宿す疾風迅雷の拳。その名もサンダーペガサススタイル!今ここに、我が家の新たな1ページが刻まれたのです!!」
「えーと……リム?本当にあんた何を……」
「はぁ、お姉さまから申し付けられていた見届けはこれにて終了。それじゃあ帰って土いじりでもしましょうかね。それでは、ごきげんよう!」
満足した様子で彼女は地を蹴り森の中へ姿を消した。
メールさんは私の方を見て首を傾げる。
いや、そんなの私に聞かれたって、あなたの妹じゃない!!
「何なんだよ、お前たちはぁぁぁぁ!!」
いや、これに関しては本当に何なんだろう?
怒り狂ったドロシーがメールさんに殴りかかる。
右のパンチをガードでいなし、さらに左による爪攻撃は受け止めて……
「はあっ!!」
左ストレートをカウンターで入れ、ドロシーがダウンする。
メールさんはステップを踏みながら接近し立ち上がったドロシーにローキック。
更に顔面に右フックを叩き込んだ。
ドロシーはふんばりさらにもう一回爪による攻撃を繰り出すもカウンターの右フックが再び炸裂し数歩後ろに下がる。
更にメールさんは踏み込んでいくと肘を入れ、乱打を叩き込んでいく。
「くっ、調子に……乗るなぁっ!!」
ドロシーは踏み込んでメールさんを横向きに担ぎ上げると後ろに思いっきり反って地面に叩きつけた。
更に起き上がろうとしたメールさんに組み付くと何度も膝蹴りを叩き込む。
「私を救う!?手を伸ばす!?何も知らないくせにそんなくだらない綺麗ごとばかりを抜かして!この偽善者めぇ!!」
「綺麗ごとで何が悪いの!何でもかんでも皆が知ってるわけないでしょうが!それでも、あんたは泣いてるから!だから手を伸ばすって言ってるのよ!!」
メールさんはドロシーのホールドを外すと顔面にストレートパンチを叩き込み怯ませる。
そして飛び上がりドロシーの背中に乗りかかるとドロシーの両脚に自分の両足を背後から引っかけ更にはドロシーの両腕を取ると思いっきり搾り上げた。
「天馬破砕締め―!!」
あれ、何かどこかで見た事ある技なんだけどなぁ。
何かこう、前世でああいうパロッと来る技を見た事がある。
「こ、こんな……こんな技でぇぇ!!」
ドロシーも負けじと力を振り絞りメールさんのホールドを無理やり外す。
「嘘っ!?だけどまだっ!!」
バランスを崩しホールドから外れたメールさんが雷で出来た翼を広げ上空へ逃げる。
そして……両腕を突き出しながら落雷の如くドロシー目掛け急降下していく。
「疾風迅雷!サンダーブランディング――――ッ!!!」
そのままメールさんは両の拳と共にドロシーを地面に叩きつけた。
立ち上がりドロシーに背を向けこちらにゆっくりと歩いて来る。
「ま、待て。まだ終わってない!私は、まだ!まだこんな所で……」
ドロシーがゆっくりと立ち上がるが……
「いいや、もう決着したよ。あたしの勝ちだ」
メールさんが宣言すると共にドロシーは後ろ向きに倒れた。
「グ……ガァァ………」
元の姿に戻った彼女の身体から黒いオーラが飛び出し空中で霧散した。
メールさんは静かに握りこぶしを作った片腕を高く掲げたのだった。