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第4話 交わらない路

やはりというかいつもの自分のスタイル、久々にやると凄く楽しいです。

 そこから決着まではあっという間であった。

 メールさんは瞬く間に賊どもを叩きのめし、リーダー格であるアーマー系の男も鎧ごと粉砕。

 ナレ死ならぬナレ撃破をされてしまった賊たちが何だか不憫になって来た。


「どんなもんだい!」


 勝ち名乗りを上げるメールさん。

 流石に強い。だけど戦っている姿を見て分かった。

 なるほど、やはり先輩にあるものが彼女には足りない。

 彼女は純粋に戦いだけを楽しんでいる。

 それだけでは……


 私が考えていると突如、メールさんの足元から黒い鎖が数本飛び出し彼女の身体を絡めとる。


「!!?」


「奴らめ、もう少し役に立つと思っていたが、意外と不甲斐なかったな……まあ、おかげでこの猿は無力化出来た」


 黒装束に鳥の面を被った魔導士風の人物が姿を見せた。


「誰が猿だよ!うわっ、これ取れない!!」


「あなたは……」


 どう考えてもごろつきの類ではない。

 怪しいその出で立ち、そして体から放たれているのは悪意。


「ロスメルタの復興など許されんのだ。あの男は苦しみ抜いて死ななければ」


「あの男……夫の事ね。あなた、一体何者?夫があなたに何をしたというの?」


 彼は恨みを買うような人物ではない。

 そして政治の世界には足を踏み入れていないので政敵というのも考えづらい。


「何も知らないとはお気楽だな。自分の夫がどれほどの罪を犯したか知りもせず」


「……もし夫が何かしたのなら私が一緒に償うわ。でもそれにはまず彼の命を助けなければなりません!それが夫と共に歩むと決めた私が進む道です!」 


 黒装束の人物はしばらく黙ってこちらを見ていたがやがて……


「本当にあなたって人は……」


 唐突に声が変わった。

 女性の声だ。しかも聞き覚えがある。


「その声……」


「言ったじゃないですか、進み方がわからない人間もいるって」


 仮面を外したその下は……


「ドロシー!?」


 私の世話をしてくれている侍女のものだった。


「奥様、あなたが悪いんです。以前言いましたよね?進み方がわからない人間もいるって」


 彼女は語りだした。

 かつて将来を約束した男性がいたと。

 その人はフォルテの幼なじみでよく「死ぬ時は一緒だぜ」とか笑い合う程仲が良かったらしい。


 ある日二人は狩りに出かけ、凶暴な魔獣に襲われた。

 そして戻ってきたのはフォルテだけだった。

 フォルテが彼を囮にひとりだけ逃げ出したのだという噂が流れた。

 彼はそのことに反論はせず沈黙を貫いた。


「そんな、あの人に限ってそんな事は……仮にそうだとしてもそんな状況では……」


「わかっていますよ。でも、真実が何であろうが確かなのは彼が戻ってこない事。八つ当たりだろうが何だろうがどうでもいいんです。私はこのやり場のない怒りや悲しみを無理矢理生き残った男にぶつけることにした」


「まさか、あの人の病気はあなたが……?」


 ドロシーは首を縦に振り肯定した。


「私が闇の呪いをかけてじわじわと苦しめていたんです。あんな片田舎ですし誰も呪いが掛けられているとは思わず上手くいくはずだった。もう少しであの男は死ぬ。我儘な女を押し付けられ、蔑ろにされながら失意の内に息絶える。それなのに……」


「ドロシー、目を覚まして。確かにあなたの身に起きたとは不幸だわ。だけど……」


「わかった気にならないで。この悲しみも怒りも、全部私のもの!他人様なんかにわかってたまるものか!!」


「っ!!」


 大切な人を失った悲しみと怒りが彼女を捕らえてしまっている。

 

「諦めてください。もう『交わらない路』なんですよ。優しくしてくれたあなたの事は好きでした。だけど、邪魔をするなら消えてもらいます。そっちのお嬢さんも一緒にね」


 メールさんは目を閉じ、小さく息を吐く。


「……ごめん。あたしはあんたがどんな気持ちかわからない。大事な人を失った事なんかないから」


「何よお嬢ちゃん、急にどうしたの?命乞い?自分は関係ないから助けて欲しいとか?」


「でも失いかけたことはある。あたしが大好きだった姉ちゃんが壊れかけていた時に、あたしは『見えないフリ』をしてたんだ。同じ屋根の下に居たのに姉ちゃんから、あたしは逃げちゃったんだ」


 受け入れられなかったのだろう。

 優しくて強い姉が塞ぎ込んでしまった。

 理由もわからずその現実を受け入れることが出来ず彼女は逃げるしかなかったのかもしれない。


「あたしは姉ちゃんに手を伸ばせなかった。何とか失わずには済んだけどあんな想いはもう絶対したくない。だから!ふんっ!」


 メールさんが気合を入れて叫ぶと共に彼女を縛っていた闇の鎖がはじけ飛んだ。


「こいつ、鎖を!?ちぃぃっ!!」


 ドロシーの足元からどす黒い魔力があふれ出し彼女の身体を魔物へと変えていく。


「お前みたいな温室育ちの小娘に、私は負けない!!」


 まるで狼人間の如き姿だ。


「その姿は魔獣ランペイジガルム……空気を震わせながら伝わってくるよ。あんたの怒りや哀しみって奴が…………あたしは……あんたを救いたい。あんたに手を伸ばす!!」


 宣言したメールさんの右腕が光を放ち、その手には先ほどまで持っていなかった小さな彫像が握られていた。


「これは……姉ちゃん達も持ってる魔道具。そっか……あたしにもその力があったんだ」


「何を訳の分からない事を自己完結してる!!」


 メールさんは彫像と腕を突き出し、言った。


「今、あんたに手を伸ばす。獣纏(じゅうてん)――!!」

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