−30話:するべきこと
レグオズという名前のついた“鏡”の一員としての第二日目。
俺は、真っ白な自分の部屋で朝日を眺めていた。
「まぶしいな……」
時刻は朝の8時程度。起きたばかりの俺には今日の朝日は少しまぶしすぎた。目に、太陽の光がたくさん入ってくる。
それに屈した俺はカーテンを勢いよく閉め、部屋を見渡した。
「これが俺の部屋……か。ちゃんとクローゼットまであるんだな」
俺は、もっと近くで見るために白いクローゼットに近づいた。
するとその時、クローゼットの戸に一枚の紙が張ってあるのに気がついた。
「……なんだ、これ?」
クローゼットの中にある“仲間の証”を着て、大広間に来い。
俺は、クローゼットを開いた。
するとそこには昨日、組織員たちが着ていたものと同じ白い服だけが入っていた。
「これをきるのか」
俺は今までずっときていたせいで少し汚れている服を脱いで、“仲間の証”に着替えた。
なかなか着心地はよく、体も動かしやすい。それに、なぜか心がすがすがしい気持ちになってくる。
「えっと……大広間。昨日の場所か」
もう一度、クローゼットに張ってある紙を確認した俺は、部屋から出て、大広間へと向かった。
大広間についた俺は、ゆっくりと大きなドアを開いた。
「……これで全員そろったな」
昨日と同じ席に座っている、リーダーのグノウがそう言った。
部屋に入ったのはいいが、どうしたらいいのか全く分からなかった。
「座れ」
グノウが俺を見つめてそう言った。
俺は慌てて長い机を見渡すと、ひとつだけ誰も座っていないイスがあるのに気づいた。
すぐさまそこへ移動した俺は、イスを音を立てて引いて座った。
「よっ!」
隣に座っていたのは、昨日話し掛けてきてくれたベゴンだ。
ベゴンは右手を小さく俺に向けてあげている。それに対して俺は軽く会釈をした。
「それでは……今日の任務を言い渡す」
「任務?」
グノウの口から発せられた言葉に疑問を感じた俺は、思わず口に出してしまった。
「……レグオズはチェイグティと任務だ。任務についてなどは全てチェイグティから聞け」
俺は組織員の名前なんか誰も知らない。知ってるのはグノウとベゴンだけだ。その言葉に誰かが反応すると思ったが、ほかの組織員は誰も眉一つ動かさなかった。
「残りの組織員は昨日の続きをやってくれ。……以上だ」
グノウは席から立ち上がると、左手を空間に突き出し、闇の渦を出現させた。
「! あの時の……」
俺は初めてグノウにあったあの時の、あの出来事をまた思い出した。
(最近の記憶ってのは忘れないものなんだな……)
そう俺は思った。
グノウは闇の渦に消えていき、ほかの組織員もそれぞれ部屋から出て行った。
まだそのチェイグティが誰か分からなかった俺は、思い切って誰かに聞くことにした。
(よし、ベゴンがいいかな)
「あの……チェイグティって……」
俺はまだイスに座ったままのベゴンにそう話し掛けた。
するとその時、話し終わったころとちょうど同じタイミングくらいで、ほかの男が話し掛けてきた。
「いくぞ、レグオズ。この城のトレーニングルームに移動する」
冷たい水色の右目に一本の傷負った、黒髪の男が話し掛けてきた。男の黒い髪の毛は、前髪が長い二本に別れ、後ろが首元付近まである。
「おっ、いじめんなよチェイグティ」
ベゴンが席から立ち上がり、チェイグティと呼ばれた男の前に立った。
からかっているのだろうか。
「お前は早く自分の任務へ急げ。確か、ゴールドシルンの調査だったな」
「めんどくせーけど、やるっきゃねーな」
俺には全くついていけない会話が終わると、ベゴンは空間に腕を突き出し、闇の渦を出現させるとその中へ消えていった。
「……。お前が、チェイグティか?」
俺は、そうだと確信しつつも、一応確認した。
「そうだ。早く行くぞ、着いて来い」
やっぱりそうだった。安心した俺は、心の中でひとつ息を吐いた。
チェイグティは部屋を出て行き、階段を上っていった。それを見失わないように、俺は後をつけていった。
俺たちは何度か階段を上がると、そこにはもう上へ続く階段はなかった。
多分ここが最上階だ。
見る限りではこのフロアには5つのドアがある。このフロアは巨大で、ドアとドアとの感覚はだいぶ広い。
「どれがトレーニングルームなんだ?」
俺はそう質問した。
「……左から、ミーティングルーム・トレーニングルーム・実験室・エレベータールームだ」
チェイグティはそれぞれを指差しながらそう言った。
「? 一番右の部屋は……」
聞き漏らしたのか。そんなわけない。俺は耳だけはいいみたいだから。
「極秘だ。下っ端のお前に教えるのは禁じられている」
「……」
俺は納得がいかなかった。仲間なら教えてくれてもいいだろ……
「いづれ教えてもらえる。……さあ、トレーニングルームに入るぞ」
チェイグティは俺の前に立ちそう言うと、左から二番目の部屋に入っていった。
やっぱり納得のいかない俺も、その部屋に入った。
入ったその部屋は予想を覆すものだった。
「!」
部屋全体が黒い霧で覆われて、前などまったく見えない。
「この霧は、パッフィムと呼ばれている。今回のトレーニングには必要ないな。……はっ!」
チェイグティは突然、右手を横に振るった。
するとその手から、風が吹き出し霧をすべて吹き飛ばした。
「……」
俺は言葉が出なかった。見るものを凌駕するその風の威力。俺にしたら初めての出来事だった。
「レグオズ。今日からお前に組織員として最低限必要なことを教えていく。明日はまた別のやつが担当するがな」
チェイグティはそう言うと、俺から離れていった。
そして俺とある程度の間合いを取ると、俺のほうに体を向けた。
「組織の目的達成のために必要なこと……それは、世界の礎だ」
「?」
そういえば俺は、“鏡”の目的なんてまったく聞かされていない。
「礎。この宇宙に広がる無数の全ての世界に存在する核だ。それを失った世界は、徐々に消滅していく。そこに存在する人も同時にだ。俺たちはその核、つまり礎を破壊することだ」
「そんなことしてどうするんだ?」
「極秘だ」
まただ。
俺には、何も教えてくれないみたいだ。
信頼されていないのか?
「礎はその世界のもっとも大事な部分におかれている。見た目は光るでかい玉だ。今、現時点で約40の世界の礎を破壊してきた。その仕事をお前にもやってもらう」
そんなことをしてどうするんだ?って聞いても答えてくれなかったチェイグティは絶対にほかの質問にも受け答えてくれないはず。
俺は、ただ黙ってその話を聞いていた。
「組織には、知っていると思うが、それぞれ1から11までのナンバーがついている。1から順に古いメンバーになっている。……俺は第9の組織員だ」
「俺は確か……11」
「そうだ」
一番新入りの俺はもちろん11番目だ。
でも意外だったのは、チェイグティはもっと上の番号かと思ったけど、俺とそこまで変わらなかったことだ。
「“鏡”で一番強いのは誰なんだ?」
俺は、特に考えたつもりはなかったが、この疑問が一瞬で頭に出てきた。
「もちろん、グノウ様だ」
(やっぱり……)
俺は、本当は自分でもそうだと分かっていたが、なぜか聞いてしまった。
自分が分からない。
記憶を飛ばしてるから、そういうところにも支障があるのか。
「今日はこれまでだ……自分の部屋にもどれ」
そう言ったチェイグティは右手で闇の渦を出現させて中へと入っていった。
「部屋戻るか……」
闇の渦の使い方を知らない俺は、ドアをあけて、長い階段をゆっくりと下りて自分の部屋へとまた歩いていった。
―――
「やはり、イーターを使う能力があるようです」
明かりがうっすらとしか付いていない部屋で、チェイグティがイスに座るグノウと話していた。
「そうか……反応指数は?」
「軽く10000オーバーです」
「武器の教育は2日後、ティーゴストにやらせろ」
「はい」
チェイグティは頭をグノウに一回下げると、闇の渦を使わずその部屋から出て行った。
「レグオズ……お前はいつまで寝ているのだ」
グノウは悲しそうな表情でそう言った。
その真意はまったくの不明だが、その顔からは何かを思いつめるような、そんな感じさえする。
「ゼロ……私はお前を必ず……」
グノウはさらに顔が悲しくなった。目が下がり、顔を下にうつむけている。
グノウの口から発せられた「ゼロ」という言葉の意味も不明だが、おそらくは人の名前だろう。
下をうつむいたままのグノウはそのまましばらく動かなかった。