第1章‐第5話:神の子
ベゴンを“鏡”アジトへと追い返したサラはそのまま、ゴールドシルンに向かって爆走していった。
一方、廃墟の中では―――
「終わったみたいだな……」
ソファに足を組みながら腰掛けているガミジンが外の方角に顔を向ける。
「デビルモードだったんなら勝って当然だろ。所詮、相手は“鏡”ごときの下等集団。恐れるべきは“白”、“黒”、“臨”くらいだろ」
調理場で、華麗な包丁履きを見せているシャックスがそう言う。
“白”、“黒”この2つの組織については謎が深まるばかりだ。
するとその時、いまだソファに寝そべったままだったレグオズが静かに目を開けた。
「ん……」
結界のためこの廃墟には光が差し込まないが、久しぶりに目を開けたレグオズにとっては電球の輝きさえも太陽のようにまぶしく感じていた。
「起きたか」
レグオズは、目をこすりながら体を起こしソファに座り込む。
「お前……誰だ?」
「俺の名はガミジン。“獣”のリーダーだ」
「“獣”?」
「……レグオズと言ったな。お前は俺たちと同類の存在だ。これからは俺たちと共に行動してもらうぞ」
突然そんな事いわれても……。とレグオズは目を丸くした。
「覚えているか。お前が、あの後どうなったか……」
「あの後?」
「左腕を失ってからだ」
「!!!」
その時、あの戦いの一部始終を全てを思い出したレグオズは咄嗟に自分の左半身を見つめた。そこには落とされたはずの左半身がきちんとついていた。
「なんで……」
「説明するのだりーだろ。アレで一気に全て教えてやれよ」
マルコが2階の階段から、ゆっくり降りてきた。
「いや……俺の口から言おう」
ガミジンは、何か特別な力を使えというマルコに反対し、自分の口から真実を伝えようとした。
「しっかり聞いてくれ。お前の所属していた“鏡”。知っての通り礎を破壊して回っている悪徳集団だ。だが最近はその行動が活発でなくなった。その理由は一つ。お前が加入したからだ。さらにその理由は、不明だがな……。はっきり言って“鏡”なんてのは勝手に野放しにしててもいい連中なんだ。個々の能力で魅力あるやつはいるけどな……総合的にはどうでもいい存在なんだ。で、俺たちがお前と同類だっていうわけだが、それは簡単だ。『心の中に別の存在が眠っている』という事だけだ。そしてお前には俺たちと一緒に、ある目的に付き合ってほしい」
「ちょっと待てよ。意味が分からない。“鏡”がどうでもいい存在? そんなわけ無いだろ?前に知り合ったやつも俺たちの情報をほしがってたし、警戒してた……」
レグオズが言うのはサラの事だ。
「恐らくそいつも俺の仲間だな。サラってやつだろう」
「!」
図星だった。
「……目的って何なんだ?」
「復讐」
レグオズはたったの単語に奥深さを感じていた。ガミジンの表情は真剣そのもの。冗談を言っているはずが無い。とレグオズは確信した。
「誰にだ?」
「“臨”。宇宙全体を警備している宇宙刑務組織の事だ。あいつらは俺たちの忌まわしき記憶を勝手に消し、俺たちを“臨”に加入させた」
そういうガミジンに続いて、ゲームを中断して降りてきたカイムが話を続けた。
「忌まわしき過去。ゴールドシルンのあの惨劇、悲劇。子供が俺たちの家族を、大事な人を惨殺した。でも、その子供も“臨”に操られていたんだ」
その過去を思い出し、カイムは少し顔をうつむけた。
すると今度は、同じくカイムと共に降りてきたワァプラが話を始めた。
「その子供は操られるだけ操られて、道に捨てられた。それも……自分の親にな。本気でやっているって勘違いされて……な。親を失ったボクたちはその後“臨”に連れて行かれて、記憶を剥ぎ取られたんや、綺麗さっぱりにな……」
「でも! 記憶……取り戻したんだろ!? じゃあいいじゃないのか? 俺の記憶は、戻ってないんだ……」
「記憶を失った場合にはあるキーワードでその記憶を取り戻せる。そして……お前のキーワードは……」
ガミジンはキーワードを言おうとしたその時、
ドォォォォォォンと、激しい音を立てて巨大な何かが上空から結果を突き抜けて落ちてきた。
メンバーは全員、瞬時に反応してその場から離れた。ガミジンはレグオズを抱えて、遠くへ下がった。
「なんやねん、コイツ」
ワァプラが歯を食いしばる。
「でか……」
ベリトはその何かのあまりにも大きさにその言葉を漏らした。
「はっ」
マルコは唖然としてただ、鼻で笑っている。
「眠気……覚めちまった」
いつも寝てばかりのシトリーは大きく目を開けてその何かを見上げている。
「おいおい、冗談じゃねぇぞ」
シャックスはさっきの衝撃で散らばった食材を集めながらそう言った。
「これ……エグイな」
普段ゲームの世界に入り込んでいるカイムにもその何かを見ただけで、恐怖を超えたドキドキ感が襲った。
「何だよ、こいつ」
レグオズもただそれを見つめている。
「ついに来たか。“臨”!」
ガミジンを含め、メンバー全員が目にしたのは、自分達の500倍はあろうかという大きな体の巨人だ。
顔は遠すぎて、確認することが出来ない。
「こいつ“臨”なんか?」
「多分そうだよ。あの実験中だった人造人間、ヴァージョン・ジャイアントだろ?」
「うぅぅ……うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その巨人は五月蝿すぎる獣のような咆哮を上げた。
メンバー全員がその声に耳を塞ぐ。
「獣共! ドンの命令! 潰す!!」
巨人は大きな右手拳を握り、そのまま突き落とすように真下・レグオズたちの所に振り下ろした。
「ヤバイ! みんなよけろ!」
マルコがそう叫ぶと、メンバー全員が素早い動きで遠くへと離れた。
幸いレグオズはガミジンと一緒にいたため、一緒に逃げることが出来たが、もし一人だったらと考えると、レグオズは少し体に鳥肌が立った。
「いきなり研究成果を仕向けてくるとはな……。“臨”も必死だな」
ガミジンはそういうと、拳をポキポキと鳴らしながら聳え立つ巨人の下へと歩み寄っていく。
「ガミジンがやるのか? こりゃ勝ったも同然だな」
そのガミジンを見てシャックスが、表情を和らげた。
「巨人。聞こえてるか?」
「うぉぉぉ」
「お前らのボス伝えておけ。一週間後、お前達のアジトに襲い掛かるとな……」
「うぉぉぉぉ!」
言葉を理解しているのかは分からないが、その巨人はずっと唸りを上げている。
「知能はまだまだ低いようだな」
ガミジンは、この巨人が話を理解していないと悟ると、黒い漆黒の目で巨人を見上げた。
その鋭い目つきは巨人の顔へと向けられている。
「! う……? うぉぉ……。うぉ?」
そのガミジンの目を見つめた巨人の様子が徐々におかしくなってくる。
目は焦点が合っておらず、口も呆然と開いている。
「いきなりやな……アレ」
その巨人の様子を見たワァプラは、ニヤリと口角を上げた。
「うぉ……」
すると巨人は大きな足を一歩前に出した。―――が、その足取りは甘く、両脚がほつれてその場に転んでしまった。
その衝撃はすさまじいもので、大陸全土に響き渡るのではないか。というくらいの衝撃だ。
幸い、メンバーたちには巨人の体で押しつぶされることは無かった。
「言葉が通じないならお前を生かしておく意味は無い……。まあ、どちらにしろこの声は聞こえていないだろうがな……」
ガミジンはそう言うと、ズボンのポケットに手を入れながら、巨人の顔下へと向かっていく。
「なんだ? 巨人の動きが……」
レグオズは行動がぎこちない巨人に、違和感を感じていた。
すると、レグオズの元にシャックスが歩み寄ってくる。
「あれがアイツの力。王をも超える神の力」
「神?」
「そう、アイツの漆黒の瞳を見たものは恐怖の底に突き落とされ、五感を奪われる」
「! そんなの……無敵だ……」
「そう。だから、その力を見たものはアイツに異名をつけた……」
―――ガミジンは巨人の頭に到着するとポケットから手を出し、巨人の大きな顔に手を向けた。
「大滅却破」
光り輝く巨大なレーザーがガミジンの掌から放たれる。
そのレーザーはティーゴストと戦った時よりも大きなレーザーだ。
レーザーは巨人の顔を完全に消失させ、遥か彼方へと消えていった。
「神の子……ってな」