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−31話:記憶の無い少年

 俺は誰なんだ?


 俺は何のためにここにいるんだ?


 その答えは分からない。


――――――― 

 俺の名前は、レグオズ。


 それが本当の名前かどうかは知らない。

 

 俺の上司とも言えるやつが俺をその名で呼んだ。それから俺はレグオズとしてやってきた。


 今、白い部屋にいる。机・窓、その窓にかかるカーテン・クローゼット、すべてが白い。


 この部屋は俺の部屋だ。


 俺には過去の記憶がない。


 あるのは最近1ヶ月くらいの記憶だけだ。


 そう、組織に入ることになったあの日の夜からの記憶だけしか……



 今から1ヶ月ほど前、俺はある男に拾われた。


「ここで、何をしている?」

 ゆっくりとした口調の男が暗い夜道を歩く俺に話し掛けた。

「……」

 俺は何も言わなかった。いや、言えなかった。

 記憶がないから、自分がなぜここにいるのかというのも分からない。

「名はなんと言う?」

「……」

 その問いかけに対しても答えれなかった。

 その時は考えたこともなかった。

「名前……」

 俺はやっぱり分からなかった。

 もしかしたら昔は知っていたのかもしれないが、過去の記憶のない俺には分からなかった。

「記憶……がないのか。お前、これからどこへ行く?」

 男は俺の問いかけに答えず、また俺に問い掛けた。

「……」

 また答えられなかった。俺はただずっと道を歩いていただけ。目的もなく、ただひたすら道を歩いていた。

「最後の質問だ。君はいつからの出来事を覚えている?」

「この……夜道を……歩き始めたころから」

 俺はついさっきのことからしか記憶になかった。

(この夜になる前に何かがあったのか。服はきちんとしているな。つまり、少し前までは普通の生活をしていた……ということか)

 男が俺の体を見回している。

 何かついているのかと思った俺は、自分の体を見た。

「あ……」

 その時初めて、俺がまともな服装をしていることに気がついた。それまで全く意識はしていなかった。

 俺は、赤と黒の服に黒いジーンズをはいていた。赤と黒の服にはところどころチャックがついている。俺はそのチャックを開けて見たが、ポケットらしきものはなかった。

(チャック……ついてるだけか。何のためだ?)

「君自身が長生きしたいのならば私について来くるがいい。一緒にくれば死ぬことはない」

 男は俺に右手を差し伸べた。

 どうしてかは分からなかった。

 だが今の俺には、それを考える気力は無かった。 

「……」

 俺は一度うなずき、男の手を握った。

 すると男は不敵な笑みを浮かべ、声をあげずに笑った。

 

 男があいている左腕を空間に突き出し、手を広げると、空間に黒い渦が出現した。

「これは、闇の渦。選ばれしものだけが使える便利な移動術だ」

 今は夜で暗いのにその黒い渦は俺にはハッキリと見えた。

 俺はそれが不思議でたまらなかったが、やはり気力のない俺はそんなことどうでもよくなっていた。

 

 すると男は握っている俺の手を引いてその渦の中へと入っていった。


 気がつくとそこはもう別の場所だった。

 広い部屋には黒くて長い机が1つあり、それには10個程度の黒いイスが並んでいる。

 全体像としては、結構暗い夜みたいな感じだ。

 壁には大きな窓がついていてそこから、空を眺めることができる。

(あれ……今って夜だよな)

 その窓から見える景色は、夜空ではなく夕焼けのような空だった。

 ほかには特に目立つものはない。あるとすれば一本の長い階段だ。


「ここが私の世界、ノールドだ」

 俺の隣にいた男が口を開いた。

 俺は今はじめてその男の姿をハッキリと見た。さっきは黒い道だったからよく見えなかったけど。

「世界。外は……どうなって……」

 いるんだ?と言おうとしたら突然目の前がグルグルと回り始めた。

「うっ」

 気分が悪くなってきた俺は、頭を抑えてその場にしゃがみこんだ。

「ど……た」

 男は何かを言っているがまったく聞こえなかった。

 俺を襲っているめまいは収まることを知らない。さらに動きを強めて俺を襲う。

 そして……

 俺はエンジンが切れた車のように意識を失い、その場へ倒れた。 

 目の前が真っ暗になった。

 どうやら車っていう基本生活に使う存在とかは覚えているようだ。 



――――――― 

「う……ん」

 俺は静かに目を開け、ぼやける目をこすった。

 視界が良好になったとたん、俺の目にある景色が飛び込んできた。

「!」

 それを見て勢いよく起き上がった。

 机・窓、その窓にかかるカーテン・クローゼット、すべてが白い部屋に俺はいた。俺が寝ていたベッドも白い。

「どこだ……ここ」

 周りを見渡したが、ほかには誰もいない。

「あっ……そういうえば俺、たおれたんだよな」

 男に拾われた夜の出来事を頭に思い浮かべた。

(あれ? 助けてくれたあの男って、どんな顔だったっけ)

 意識を失ったせいか何か、最近の記憶もあいまいになっている。

 ベッドから起き上がり、降りた俺は部屋を見て回った。

「?」

 何の変哲もない部屋をゆっくりと回っていると、ベッドの横にあった小さなテーブルに、ひとつの紙切れが置いてあるのに気がついた。

 それを手にとった俺は目を向けた。

「何か、書いてあるな」

 その紙には、一行の文章が黒い文字で書かれていた。


   目が覚め次第、2階の大広間に来い。


「大広間?」 

 誰がおいたのかは分からないが、今は考えている暇はない。とにかくまずはそこに向かうのがいいと思った俺は、部屋のドアをあけた。

「!」

 ドアの外は黒かった。さっきの部屋とは違い、全体が夜のようだ。

 円形状になった廊下には10程度の部屋があり、上へ向かう階段と、下へ下りる階段がそれぞれ螺旋状についている。

 上を見上げると、何段にも部屋が積み重なっている。

(ここは1階じゃないみたいだな)

 でも2階でもないみたいだ。

 さっきの手紙が本当なら、この階に大広間へとつながるドアがあるはずだが、それらしきものは見当たらない。もしかするとこの10程度の部屋のどれかが大広間につながってるかもしれないが、ドアの間隔が狭すぎるからそれはない。と俺は確信した。

(そうとすれば、下に下りるのが正解だな)

 なぜか不思議な感じがした。

 知らないはずの世界に俺は戸惑うことなく、自分の意思で進んでいる。昔のことは思い出せないが、特に惑うことはなかった。


 螺旋状になっている下へと向かう階段を下りた俺は、周りを見渡した。

「でかい……」

 俺の目の前に巨大なドアが飛び込んできた。

 そのドアの上部には、パネルが張ってあり、そのパネルには[大広間]と書かれていた。

「ここだな」

 このでかいドアの反対側には1階に続く螺旋階段が設置されている。

 1回つばを飲んで、ドアノブに手をかけた。


「失礼します」

 ドアをあけたその先には見覚えのある光景があった。

 さっきとは違う、夕焼けのような感じで、黒くて長い机が1つあり、それには10個程度の黒いイスが並んでいる。

(ここって、俺が倒れた場所だ)

 その数々のイスには、同じ格好をした者たちが座っている。

 全員が白い服を着て、手首に黒いブレスレットがつけられている。でも全員が同じ服というわけじゃなくて、それぞれ違うところもある。

「よく眠れたか?」

 聞き覚えのある声が俺にそう言った。俺を救いの手を差し伸べてくれたあの男の声だ。

「あ……うん」

 俺はそう言って、うなづいた。

 男は長い机の一番奥に座っている。

 俺ははじめてここにきた時のことをようやくハッキリと思い出した。

(そうだ……俺はあの男にここへつれてこられたんだ)

 長い銀髪に冷たく光る青い目、その姿からだけでも相当な力強さが伝わってくる。

「紹介しよう。この者たちが、私の忠実なる部下であり、仲間だ」

 イスに座っている10人の者たちが俺をじっと見つめている。中にはまったく関心を寄せないで、目を瞑っているやつもいる。

「え……あ……」

 何を言っていいのか分からなかった俺は、口をモゴモゴさせた。

 そんな挙動不審的になっている俺に、銀髪の男が話を切り出した。

「君をわれらの新たな仲間にしよう」

「え?」

 俺はついそう言っていしまった。おそらくこんなことをいわれたら、誰でもそんな反応をしてしまうだろうが、それ以外には何の反応もできなかった。言葉の意味もよく分からず、俺をただ首をかしげた。

「もう一度言おう。君を、われら“(テネブラ)”の第11の組織員として迎える」

 男は両手を横に広げ、俺を迎え入れるかのようにそう言った。

 俺は、男の発した単語の意味が何一つ分からなかった。ただ、分かったことが一つだけある。それは……俺が、この目の前にいるやつらの仲間になるということだ。

「いいな? レグオズ」

 男は俺をそう呼んだ。名前で呼ばれた記憶なんてないから不思議で不思議でたまらなかった。

 しかもその「レグオズ」が名前なのかということも確かじゃなかった。

「レグオズってなんだ?」

 案の定、俺は男にそう問い掛けた。

 すると男は……

「君の名だ」

 たったその5文字の言葉で、意味が分かった。 

 あの夜、答えれなかった男からの「名前は?」という質問。

 もし、これからそう聞かれることがあった場合、俺は迷わず「レグオズ」と答えるだろう。


 俺に名前がついた。

 過去のことをまったく覚えていない俺にとって初めての知識となった。


 それから少し、静寂の時が流れた。


 すると再び話が始まった。

「私の名は、グノウ。“(テネブラ)”のリーダーだ」

 銀髪の男は、そう言って席から立ち上がり、ドアに向かって歩き始めた。

「……」

 グノウは俺に見向きもせず、俺の横を通り過ぎていった。その時、俺はただならぬ、まがまがしいオーラをグノウから感じた。

 俺は自然とグノウの目を見つめていた。なぜかその目をそらすことができなかった。

 そして、ほかの組織員もグノウに続いて大広間から出て行った。

 俺の横をグノウと同じように通り過ぎていったが、グノウほどの威圧感は感じ取れなかった。

 

 すると最後に席を立ち上がった、赤い目に長い青髪を逆立てた男が、俺の横で立ち止まった。

「これからよろしくな! お前は……記憶がないんだって? まあ、そのうち思い出すさ」 

「え……あ、あぁ」

 まさか誰かが話し掛けてくるとは思わなかった。俺は、どう対応して言いのか分からなかった。青髪の男は、笑顔で俺に話し掛けてきた。

 そんな体験は記憶の中ではもちろん初めての体験だ。

「俺の名前は、ベゴン。第7の組織員だ。分からないことがあったら気軽に話せよ!」

 ベゴンと名乗った男は俺の肩にポンと一回手を乗せて、大広間から出て行った。

 その時、俺は心の奥で何かが盛り上がった感じがした。俺はこれがどんな感情かよく分からなかったけど、不思議な感じだ。でも多分、うれしいって感情だ。 

 記憶はないけど、感情についてはちゃんと理解できている。それは俺にとってよかった。もし感情まで無くしていたら俺はただの動く人形でしかない。


 誰もいなくなった大広間に1人たたずんでいた俺も、部屋から出て階段を上り、さっきの部屋へと戻った。



―――これが俺の“(テネブラ)”の一員としての生活の第一日目。出発点だ。

面白くないかもですね。

初めて一人称にチャレンジしたんですが、思ったより難しいですねー。

( )を使って気持ちを表現しつつ、地の文でも主人公の気持ちを表現する。

というのにチャレンジしています。


まだ暫くは出てきませんが、バトルもありますのでご心配なく。


もしよければ、短くてもいいので感想を書いてください!

それが励みになるので〜

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