第1章‐第3話:ガロン
悶え苦しむレグオズの意識は徐々に薄れ始めた。
目がかすんで行き、声も声でなくなってくる。息づかいが荒くなり、痛みも絶頂に達していた。
レグオズはもう何がなんだか分からなかった。裂かれた左半身の半分の部分に顔を向ける余裕すらない。
「それでも元・“鏡”ですか……。まぁ、武器を封印してるから。というのもあるんでしょうけどね」
ティーゴストの頭に、レグオズがグノウに敗れた時の事を思い出す。
――――
ニグゲクと共にレグオズの剣を研究室に持ち帰ったティーゴストはすぐさま何やら用意を始めていた。
「何を調べるんだ?」
ニグゲクのその問いに、作業をしながらティーゴストが答える。
「この武器の底を知りたいのですよ。始めてレグオズと会った時、彼の中に何か怖いものを感じました。彼の中に誰かがいるような感覚をね……」
「つまり……やつには別の力が眠ってるって言うのか」
「えぇ」
そしてティーゴストが研究の準備を整えた。
研究室の一部分には黄色い液体の入った巨大な水槽と、紫色の鎖が無造作に置かれていた。
「封印するのか!?」
「はい。封印したらレグオズは武器を出せないでしょう。そうすれば彼が覚醒して何かが出てくるんではないでしょうか」
――――
これが、2人のたくらみの全貌だ。
レグオズ脱退というところに付け込み今回の行動を起こした。
「さぁ目覚めなさいレグオズ。研究材料としての役割を果たしてくださいよ……」
ティーゴストがレグオズに近づいていったその時……
レグオズの心臓の鼓動が周囲に響き渡る。
「!」
ティーゴストはその現象に足を止める。
心臓の鼓動はゆっくりと大きく鳴り響いている。それと同時に、それまで苦しんでいたレグオズが静けさを取り戻した。
いまだ怪我は塞がっていない。痛みは消えるはずが無い。だがレグオズは静かに鼓動を鳴らしながらその場に倒れている。
「おい、何だ?」
「黙っていてくださいニグゲク。今がいい時ですよ……」
レグオズの鼓動がよりいっそう大きくなる。
そして……
「!!!!」
液体が零れるような音と共にレグオズの傷口からなにか煙のような泡のような奇妙な白い何かがあふれ出し始めた。
「な、なんだ?」
ニグゲクは少し後ずさりをする。
そのあふれ出した何かは大量に広がっていき、レグオズの体を覆い隠す。
「ウ……」
覆い隠されたレグオズから声が漏れる。
「ウ……ウォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「!」
「!」
レグオズの声ではない、完全なる化け物の声が大地に響き渡る。
ティーゴストとニグゲクもその声に心を驚かし、恐怖した。
そして、レグオズではない何かは徐々に何かを形作っていく。
白い、所々にヒビが入った骨の両腕、両脚、黒い布を腰に巻いた骸骨がその姿をあらわにした。
その骸骨は腰以外に上半身に黒い布をマントのように纏い、右腕には白い刀身の鋭い刀が握られている。
「フゥゥゥゥゥ…………」
その骸骨は静かに息を漏らした。
「何者だ、テメェ」
「あなたがレグオズに潜む化け物ですか」
「貴様ら、レグオズの体を傷つけた代償大きいぞ。武器を封印したことよりもな……」
骸骨は重い口を始めて開いた。
その声は、聞く者を恐怖に陥れるような、そんな声だ。
「名は何と言うのですか?」
「俺は……ガロン。レグオズの力の核であり、最強種の守護獣だ!」
この骸骨の正体はレグオズの心の力であったガロン。
危機的状況に陥ったレグオズを押しのけてこの世界に出てきたのだ。
「! どう……いう……事ですか……」
「貴様らが知る意味は無い!」
ガロンは脅威のスピードでティーゴストに近づくと、その剣を素早く振った。
「くっ」
その斬撃は何とか鏡で防いだが、すぐに第二撃が襲い掛かる。
上から振り下ろされた剣は正確にティーゴストの体を斬りつけた。
「うっ!」
ティーゴストは鏡を落とし、その場にひざまずいた。
そこへ、鎌を右手で持ったニグゲクが跳び上がり、ガロンに鎌を振り下ろす。
キンッ!
ガロンの剣とニグゲクの鎌が交錯する。
2人はその後何度も斬りあい、互角の勝負を演じている。
「シャドウ・シックル!」
黒い斬撃がガロンに向かって襲い掛かる。
ガロンは高く跳び上がりそれを軽々とかわすと、すぐさま急降下し、ニグゲクに斬りかかる。
ニグゲクも軽い身のこなしでかわすと、ガロンの首目掛けて鎌を横に振るった。
ガロンはその場にしゃがみこみかわしたが、そこにニグゲクの足が振りかかった。
ガロンはその体制から避けることが出来ずに、吹き飛ばされてしまう。
だが、空中で数回回転し、見事に着地した。
「ふっ……」
「……」
互いに相手を睨み付け合う。
次、先に動いたのはまたもやガロンだった。
ガロンは剣を相手に突きつけるように持つと、その状態のまま突進して行った。ニグゲクは鎌を体をの前に構えその攻撃に備える。
そして剣と鎌とが再び交錯する直前で、ガロンが高く飛び上がる。
「! フェイクか」
ニグゲクは上空のガロンに目を向ける。
「白骨斬」
ガロンは空中からニグゲクのいる地上に向けて何度も剣を振った。すると剣からは、巨大な白い塊となった斬撃が出現し、ニグゲクに襲い掛かる。
ニグゲクはカをもう一度右手で持つと、その巨大な斬撃に向けてシャドウ・シックルを放った。
黒い斬撃は白い斬撃に直撃した。
すると……
「! な……」
黒い斬撃は細かな塵に分解され、風に紛れて消えていった。
白い斬撃は驚くニグゲクにそのまま襲い掛かる。
「くそっ」
ニグゲクは鎌を体の前に構えたまま、斬撃を受けた。
白い斬撃は鎌に直撃した。
斬撃の触れた鎌は、さっきの斬撃と同じように塵と化していく。
「な……」
ニグゲクはすぐさま鎌を手放し、空高くジャンプし、その場を回避した。
すでに鎌は全てが塵と化して、その姿を見ることが出来なくなった。
「咄嗟に武器を捨てたか……いい判断だ。だが、甘い。そんな無防備な状態で跳びあがるとは無謀な……」
ガロンの言うとおりだ。無防備な状態で空中にいてもただ身動きが取れないだけ。
ニグゲクはあまりの衝撃で判断力が鈍っていたのだ。
そんなニグゲクの元にガロンが跳び上がる。
そして……
ドシュ!!!
ガロンの剣がニグゲクの体を切り裂くように斬りつけた。
ニグゲクは血を噴出し、地面へと落下した。
ガロンもゆっくりと地上に降り立つ。
ニグゲクは落下の衝撃で何本か骨も折り、意識を失いかけていた。
「こいつはもう駄目だな。……そこの鏡のお前」
「くっ……何ですか」
ニグゲクよりは全然軽症なティーゴストにガロンが歩み寄っていく。
「お前は私とレグオズを引き合わせた張本人だ。あのトレーニングの時にな……。それは感謝している……が、なぜレグオズの武器を封印した。あの封印は私の力を半減させている」
そう。ニグゲクを圧倒したガロンの力はコレで本来の半分程度なのだ。
「なぜ? 研究者に理屈など必要ありませんよ。興味本位で研究する。その本能が大事なのですよ……」
ティーゴストは独自の研究論を語り始めた。
だがガロンはそんな事に興味は無く……
「お前を殺せば封印は解けるのか?」
「残念ですね。私を殺そうがどうしようがあの封印は解けません」
「!!」
さすがのガロンもその事実には驚いたようだ。
「あれは一種の暗黒魔法でして……封印を解くには、空間回帰を使えるものでないといけませんね」
「空間回帰……アイツか」
ガロンはその高等魔法を使う者を知っているようだ。
「心当たりがあるなら行ってみてはどうです?」
「いや……そろそろ時間だ」
そういうとガロンの体が、始めのように煙、泡となっていく。
そしてそのまま消滅していき、レグオズの姿へと戻った。
レグオズは傷が完全に回復し、腕もいつの間にか付いている。
だが意識は無いようで、その場に倒れこんだ。
「あの骸骨……自らのことを守護獣だといった。興味がありますね。レグオズ、研究対象になってもらいますよ」
ティーゴストの研究への本能がまたここで目覚めた。
レグオズの秘密を暴こうという気持ちで胸がいっぱいなのだ。
ティーゴストは闇の渦を出すと、レグオズを抱えた。
もうニグゲクのことは眼中にないようだ。
「悪いが、そいつは俺が回収させてもらう」
そこへ、黒髪の男がティーゴストに立ち塞がった。
「なんです、アナタは? 次から次へと……」
「そいつは俺の……同類。だから俺はそいつを連れ帰る義務がある」
「人気者ですねレグオズは。だが渡しませんよ。刃向かうのなら殺しますよ?」
「……お前、死ぬか?」
黒髪の男はティーゴストの顔ギリギリに手を向ける。
ティーゴストはその手を振り払おうと手を上げた。……その時。
「滅却破」
「!!!!!」
光り輝くレーザーが男の手から放たれ、ティーゴストの頭を吹き飛ばした。
頭を失ったティーゴストは血を噴出し、その場へロウソクのようにに溶けていった。
「“鏡”は死ぬとこうなるのか。ワァプラに教えてやるか……」
男はレグオズを抱えると、瞬間移動でもするかのようにその場から消え去った。
そこへ一人残されたニグゲクは何とか意識を取り戻しており、この出来事を全て見ていた。
「そ、そんなバカな事があって……。ティーゴスト、殺られやがった!!」
ニグゲクが無残にも消滅したティーゴストの姿を見て、心を大きく惑わしていた。
「こんなの、グノウが黙っちゃいねぇぞ。組織員がこうして死ぬなんて、グノウにとったら屈辱そのものでしかないんだからよ……」
ニグゲクは自分の怪我を忘れるほどに動揺していた。
このことはグノウに知らせるべきなのか、どうなのか。
いづればれる事だが、知らせればグノウは怒り、あの男を殺しに行くだろう。
自分の名誉のために―――
ニグゲクは小さく拳を握りながら立ち上がった。
そして、闇の渦を出し、その中へと消えていった。
ティーゴスト……殺しちゃいました。。
アンケートでティーゴストファンが一人いたのでその人には申し訳ないことをした。と思っています。
でもティーゴストは非常にに重要人物ですから、これからの話に大きく関わってくると思います。