−3話(3):それぞれの思惑
激しく爆発した黒い球は、レグオズの姿を完全に煙で覆いつくした。部屋の影は完全に崩壊し、床も今にも崩れそうなくらいヒビが入っている。
もちろんこの爆発はこの建物中に響き渡っていた。
組織員は全員この異変に気づき、その元へと向かっていった。
「……! グノウ! 何したんだ!」
一番早く早くたどり着いたのは、第7の機関員ベゴンだった。
ベゴンはそうとう走ってきたらしく、息を切らしている。
「ベゴンか……」
グノウは床に立ち、刀もいつの間にか消えている。
「……酷ぇな」
ベゴンが砕け散った部屋を見てそう漏らした。
「?」
ベゴンがふとグノウの足元を見るとそこには、見覚えのある剣が落ちていた。
「その剣……。! まさかグノウ……」
ベゴンの記憶は正しかった。
落ちている剣がレグオズのものだということはすぐに分かっていた。
「レグオズは私に刃向かい散った。それだけだ」
「……。でもまだ武器が消滅してない」
そう。もしレグオズがもし死んでいれば武器は消滅しているはず。だがレグオズの剣はちゃんと残っている。
ベゴンはレグオズがいるであろう、一番被害の酷い壁際に向かおうとした。
「助けるのか」
グノウはその言葉でベゴンの動きを止める。
「あんただって分かってんだろ? レグオズは“計画”に必要な存在だ!」
「だが刃向かった……。このまま組織にいても力にはならないだろう」
ベゴンのいう“計画”とは、身分の低い組織員には決して知らされることの無い暗黙の計画。
その全貌は完全な闇に包まれている。
その時遅れてようやく、オゴット・ティーゴストがやってきた。
「この状況、どういうこと?」
「やれやれ。無残ですね……。リーダー、あなたがやったんですか?」
オゴットがこの惨劇に目を丸くした。ティーゴストはグノウの仕業だと直感し、グノウの元へと歩み寄っていく。
「ベゴン、助けるなら助けろ。その後の事はお前に任せる……」
グノウは寄ってくるティーゴストを完全に無視し、ベゴンにそう一言残し、闇の渦でこの場から去っていった。
「……ベゴン、どういうことか説明してもらうわよ」
「分かってる。だがまずはレグオズの安全確保だ」
「レグオズ? ……!」
オゴットもレグオズの剣にふと目を向けただけで、この惨劇の内容を理解した。
ベゴンとオゴットは急いで崩壊した壁へと走っていく。
一方ティーゴストはそんな2人とは共に行動せず、1人レグオズの剣の元へと近づいた。
そして軽々とその剣を持ち上げ隅々まで見渡した。
「これがレグオズの武器ですか……。フフフ、少し興味がありますね」
この剣のどこに注目したのかは定かではないが、何かをたくらんでいるのは確かだ。
「おい、どうなってやがるんだ」
ティーゴストの元に現れたのは、第5の組織員ニグゲクだ。黒い髪を後ろ一本でまとめ、その表情は非常に不気味だ。
「ニグゲクですか……まぁ、また後で話しますよ。それより面白い話があります。気になりませんか?」
と、ティーゴストは手に持ったレグオズの剣をニグゲクに見せる。
「……ふん、なるほど。いいだろう」
ニグゲクも相当頭がきれるようだ。ティーゴストのその一つの行動だけで全ての内容を読み取った。
ティーゴストは闇の渦を出すと、2人ともそこへ入っていった。
「レグオズ! くそ……埋もれてるか……」
ベゴンは崩れた壁に寄ると、そこには体の半分が瓦礫に埋もれてしまっているレグオズの姿があった。
「早く助けないと、危ないわね」
「あぁ。―――ハッ!」
ベゴンはレグオズの半身を覆い隠している瓦礫を持ち上げ、別の場所に放り投げていく。
見た目はかなり重そうな瓦礫の山だが、ベゴンは簡単に持ち上げている。
それから暫くベゴンは瓦礫の撤去作業を繰り返していた。
そしてようやく全ての瓦礫をレグオズからどかずことが出来た。
「ふぅ。俺はコイツを部屋に運ぶ。オゴットは他のやつらにこのことを伝えといてくれ」
「分かったわ。で、どうするの? グノウに世話係を任せられちゃったわね」
「……とにかく怪我が治ってから考える」
ベゴンはそういうと闇の渦を出し、肩にレグオズを乗せ、渦の中へと消えていった。
「ちょっと調べてみる必要があるわね」
オゴットはこの出来事に何か違和感を感じていた。
レグオズとグノウの犯した行動に……。
そして、神妙な顔つきのまま闇の渦へと消えていった。
誰もいなくなった崩れ去ったグノウの部屋に、2人の組織員がゆっくりと足音を立てながら入ってくる。
「ククク。ドグエ、グノウさんが怒ったみたいだな……」
「ム……」
始めに話した奇妙な笑い声の男は第3の組織員エグトルだ。緑色のロングヘアーで、とても冷たい表情をしている。何より背が高い。
後に話したのが無口な大男の第2の組織員ドグエだ。茶色の短髪で、顔もがっちりとしていてまさに武士と言う感じだ。背も高い。
2人が並んでいると、その光景はまさに山脈のようだ。
「それより聞いたか? 新メンバーが入るってよ」
「ウム……グノウ様に直接お聞きした」
「はっ、相変わらずお堅い人だ!」
「ム……」
2人はこれで凄い名コンビなのだ。幾多の厳しい任務を2人で乗り越えてきた実績がある。
「ま、グノウさんもピリピリしてるってわけだ。上級守護獣の捕獲に向かったロウクゴットとチェイグティが戻ってこない。1匹は捕まえてるが、苦労してるなぁ。ククク……」
「ム……。そろそろ戻ろう。我々にも任務がある」
「はいはい」
2人は闇の渦を使わずに、また同じように静かに去っていった。
―――
そのころベゴンはレグオズの部屋でレグオズをベッドに寝かしている途中だった。
「ふぅ。疲れたな……。レグオズ、何でグノウに刃向かうんだ。アイツには死んでも勝てないぞ……」
ベゴンはレグオズが何とか命をとりとめたことに安堵の息を吐いた。そしてそれと同時に無謀にもグノウに挑んだレグオズに呆れていた。
「……? 武器が無い」
ベゴンはレグオズの体を見回したが、レグオズの武器はどこにも無かった。
(剣はあそこに落ちてたよな。銃はどこにいったんだ? もし破壊してたらレグオズはこんな怪我ですんでないはずだ)
武器とは心の力。武器が破壊すればそのものの心が砕け、外傷も酷くなるものなのだ。
「とにかく、こいつが入ってから何かと問題がおきてる……。いろいろ調べてみるかな」
ベゴンはそう呟くと、腰に1回手を当ててため息をついた。とても疲れているのだろう。
そして部屋からゆっくりと出て行った。
―――
その頃、宇宙最大の世界タイラントのゴールドシルンの広い一室では、1人の王様のような男とサラが話をしていた。
「サラ。“鏡”について何か情報は?」
「組織のアジトを突き止めた」
「!!!!」
王様であろう男が目を丸くする。
「これだけ探しても見つからないワケが分かったわ……。組織のアジトは、時空の裏側にあるわ」
「! なるほどな。詳しく聞かせてくれ、サラ。すぐにスパイを向かわせる」
王である男とサラは再び会話を暫く続けた。
≪序章〜完〜≫
序章が終了しました!
まだまだまだまだ話は続いていきますが、やっと一段落です。
これは一応過去の話ということなんで、一人称が多かったですが、これからは3人称になります!
これからもレグオズを応援してやってくださいww