−3話(2):虚無の光線
今回はバトルということで、3人称です。
レグオズはまず剣を手に取った。
前の蛇の守護獣・ヴリトラと戦った時は剣の扱い方とかが未熟だったが、今のレグオズは違う。
レグオズは自分を纏っている光に対して戦いのノウハウは全て叩き込んでくれている感じがしていた。
「行くぞ!」
レグオズは両手で剣を握りしめ、グノウに斬りかかった。
でももちろんレグオズはこれで簡単にグノウを斬れるとは思ってなかった。
その予想通り、グノウは振り下ろされた剣筋を読みきって、軽々とかわしレグオズの横に立った。
「甘い。いきなり近距離系の武器で来るとは……」
避けられることは分かっていたレグオズはすぐさま剣を横に振るった。
「何度斬ろうが同じことだ」
グノウは今度はジャンプして避けた。グノウの顔は余裕に満ち溢れている。
「どうかな!」
レグオズは剣を宙に軽く放り投げて腰にある銃に手を取った。
そして右手で白い銃を握り、一気にトリガーを引いた。
銃口から放出された白いレーザーは宙に留まったままのグノウに向かって勢いよく進んでいった。
「空中なら身動き取れないだろ」
「だから甘いといっているのだ」
「?」
そういうとグノウは右手を体の前に突き出して、レーザーをそのまま受け止めた。レーザーは暫くグノウと競り合っていたが、グノウが手に何か力を入れるとレーザーは簡単に弾け散った。
「くそっ……」
レグオズは左手で宙にある剣を掴み、背中に差した。
グノウはふわりと地面に降り立つと鋭い目つきでレグオズをにらみつけた。
「!」
その目にレグオズはただならない恐怖を感じた。
今まで感じたことのない悪を。
「レグオズ、お前にその武器は使いこなせない……」
グノウはまるでレグオズの事を全て見透かしているかのようにそう言った。
「……」
それに対してレグオズはただ黙ることしか出来なかった。
「次は私から行くぞ」
グノウは右手を軽く上げると、その場から瞬時に消え去った。
「!!!」
高速移動というレベルではない。瞬間移動もしくは時空間移動か。
レグオズはただならぬ気配を背後に感じ、すぐさま間合いを取って後ろに体を向けた。
「? いない……」
だがそこには誰もいなかった。
しかしレグオズがグノウの気配を背後に感じたのは間違いなかった。
「こっちだ」
今度も突然レグオズの後ろで声がした。さっきと同じようにレグオズは後ろを振り向いた。
「? どういうことだ……」
またグノウはいなかった。
レグオズはこの症状を幻聴ではないのかと一瞬思ったが、それはすぐにレグオズの頭の中でかき消された。
「違う。絶対にいたはずだ。どこだ? ―――!」
その時、鋭い何かがレグオズの腹を貫いた。
「……え……」
レグオズはゆっくりと自分の腹に目を向けた。
そこには血にまみれた鋭い刀がレグオズの腹を貫いていた。
「反応が遅いのだ」
レグオズは恐る恐るゆっくりと後ろに目を向ける。
そこには―――
「グノウ」
不敵な笑みを浮かべたグノウがいた。
グノウはレグオズの腹から刀を抜き取ると血を振り払った。
その刀は見るからに暗黒の雰囲気をかもし出していた。真っ黒な刀身に、黒い羽のような鍔、柄も全て黒く染まっている。
レグオズはその場に膝を着き、そのまま力尽きるように倒れた。
「はぁ、はぁ。それが……グノウ……の武器……か?」
「そうだ。この刀の名は“無黒堕天使”。全てを無に返す悪魔の力だ」
「無に……返す」
レグオズは徐々に頭の意識が薄れてきた。だが、これくらいのダメージでここまで意識がなくなるなんて事は普通に考えてありえない。
「そうだ。この刀で刺されたものは、意識を失いその場に倒れこむ。そして私に止めを刺される。……残念だったなレグオズ。お前の負けだ」
レグオズにはかすかにまだ意識はある。薄れる意識の中、レグオズは必死にもがいていた。
が、しかし―――
ドシュッ!
再びレグオズをグノウの刀が貫いた。
(くそっ。何で無理なんだよ……。やっぱグノウに勝つのは無理なのかな)
レグオズはそう思い残し、静かに目を閉じた。
『レグオズ寝るな。まだお前は負けていない。起きるんだ!』
ガロンが完全に意識を失いかけたレグオズを引き止めた。
「! ……ありがとう、ガロン。おかげで目が覚めたよ」
レグオズは床に手をつきながら、ゆっくりと起き上がった。
「なぜだ……。なぜ起き上がれる」
グノウは。確実に止めを刺したはずのレグオズが起き上がってくる事が信じられず、目を丸く大きくした。
グノウがこのような表情をするのは非常に珍しいことだ。
「ガロンが……俺を起こしてくれた」
「ガロン? 誰だそれは」
「あんたにもいるんだろ? 心の中の存在が……」
「? 何を言っている」
「!」
(グノウにはガロンみたいな存在がいないのか?グノウが嘘をつくとは思えないし、そんな顔でもない)
レグオズはそう思った。
「とにかく、その刀じゃ俺の意識は奪えない!」
とはいっても今のレグオズは大きな負傷をしてる状態。腹を2回も刺されてる。あと1回刺されたら終わりだろう。
更に、傷が広がるという理由で大きな動きは出来ないため剣は使えない。だから銃を使うしかない。しかもレグオズにはまだ使ったことのない黒い銃がある。
まだまだ勝算はある。
見た目からして強そうな武器だ。
もっと早くにつかっておけば良かったが、レグオズには不安があった。
それがどのような不安かはレグオズにもよく分かっていなかった。
「はぁ、はぁ。続けるぞ、グノウ」
レグオズは軽く息を切らしながら、黒い銃を右手に、白い銃を左手に取った。
「そのまま死んでればいいものの……」
グノウは再び刀を構えた。
「喰らえ!!!」
レグオズは期待と不安を吹き飛ばすように、右手の黒い銃のトリガーを引いた。
「……ん?」
だが思い切り思いを込めた黒い銃からは、白い銃のレーザーどころか、何も出なかった。
「ふっ、万策尽きたな。さよならだ……レグオズ」
グノウが刀を振り上げる。
レグオズは両手を顔の前に構え、目を思い切り瞑った。
「――――! グハッァ!!!」
「!!?」
突然グノウが声を上げ、その場に跪く。
グノウは刀を床に落とし、腹を右手で押さえている。
「何をした……レグオズ」
「え……」
レグオズは構えていた両手をゆっくりと
レグオズはこの現象を全く理解できていなかった。さっき心の中で諦めかけたその時、グノウが突然その場に跪いた。
(これが黒い銃の能力なのか?!)
『そうだ』
ガロンがレグオズの心に答えた。
『その黒い銃から発せられるのは、目に見えぬ弾丸。だが弾丸が当たっただけではダメージは与えられない。その発動条件は……大きな動きをすることだ』
つまり、目に見えぬ弾丸を喰らった者が、何か大きな動きをすることによって技が発動する。グノウは完全に油断し、刀を振り上げた。その動作が命取りだったのだ。
「凄いな……」
レグオズは只そう口から漏らした。これが率直な感想なのだ。
「くっ……油断した。だがそれでもお前は私には勝てん」
その余裕はどこから来るのか。とレグオズは思った。
グノウは、ゆっくりと手を床に付きながら立ち上がった。口からはかすかに血が出ている。
「確かにレグオズ……お前には強い力がある。素晴らしい力だ。だがそれしらも私の前では塵同然なのだ」
「根拠はあるのか?」
レグオズの意見はもっともだ。
グノウの言葉にはさっきから根拠が無い。
「それを今から証明しよう……」
そう言ったグノウは床に落ちた刀を拾い、瞬時にレグオズに斬りかかった。
「!」
レグオズは横に跳んで何とかかわした。
だがその時の衝撃で、グノウに貫かれた2つの傷が疼く。
「っつ……」
グノウは冷徹な表情で再びレグオズに斬りかかる。
「!」
黒い刃がレグオズを襲い掛かる。
キンッ!
レグオズは何とか2挺の銃でその刃を受け止めた。
だが上から体重を載せているグノウの方が有利なのは歴然だった。
徐々にレグオズは体制を崩していき、白い銃にはヒビが入り始めている。
レグオズは何とか身をよじってグノウから離れ、銃を2挺とも腰に戻した。それに伴って今度は背中の剣に手を取る。
(もう傷が痛むなんて言ってられない!)
猛攻をしかけてくるグノウにいくら銃を持っているからといって簡単に攻撃には移れない。それに銃だと防御力も低く、攻撃の衝撃を受けきることは出来ない。
それならば多少のリスクを負ってでも剣を使った方がいいとレグオズは考えたのだ。
レグオズは両手でしっかりと剣を握り締め、グノウに斬りかかった。
グノウは剣の動きを完全に読みきり、その場から瞬時にレグオズの背後に移動し、レグオズの背中を斬りつけた。
「うっ!」
レグオズの背中から血が流れ落ちる。
ふらつく体に、剣を地面に刺して何とか耐えたが、グノウの攻撃は終わらなかった。
グノウは剣に手を乗せて耐えているレグオズを、躊躇無く大きな足で蹴り飛ばした。
レグオズは床に体を打ちつけながら壁に激突した。
「……分かっただろう。私の言葉の意味が……」
「はぁはぁ……。分かんないな!」
レグオズは腰の白い銃に手を取り、グノウに狙いを定めトリガーを引いた。
白い銃から放たれたレーザーはグノウの向かっていったが、グノウは軽々とジャンプしてそれを避けた。
「くそっ。 ―――!」
その時、ピキッと音を立てて白い銃の亀裂が広がった。
レグオズの脳裏には、さっきの出来事が頭に浮かぶ。
(あの時の……!!)
レグオズの言うあの時とは、グノウが自分に上から斬りかかって来た時の事だ。
「これ以上撃ったら壊れる……。くそぅ」
レグオズは白い銃を腰に差しなおした。それ同時に今度は、やっと能力が分かった黒い銃に手を取った。
グノウはレグオズをじっと鋭い目つきで睨みつけている。
「喰らえ!」
レグオズは黒い銃のトリガーを引いた。さっきと同じように弾丸は目に見えない。
グノウは何食わぬ顔でその場から高くジャンプした。大きな動作をしたのにグノウにはダメージが見られない。
外れたのだ。
レグオズの見えない弾丸は、グノウに当たらず、外れたのだ。
「う、浮いてる……」
グノウは空中に身をささげるかのように浮かんでいる。
レグオズはそれに完全に心を惑わしている。
「レグオズ、もういいだろう。…………『虚無の光線』」
グノウは刀の切っ先を壁にもたれているレグオズに向け、暗黒のパワーを込めた。
刀の切っ先に巨大な黒い丸い玉が現れた。
これがグノウの力。“無”の力なのだ。
黒い玉は周りのエネルギーを収束するかのようにどんどん大きくなっていく。
そして、半径30cmほどの球に完成した。
「でかい……。避けないと」
レグオズは体を引きずりながら移動しようとするが、体が震えてうまく動かすことが出来ない。
「無へ帰れ……」
グノウは冷たい鬼のような顔でレグオズを睨みつけながら、レグオズに向けてその玉を放った。
その玉はゆっくりとレグオズに向かっていく。
「うっ……」
レグオズは黒い玉に向けて黒い銃から見えない弾丸を放った。
だが、黒い玉の動きは緩やか過ぎるため大きな動きにはならず、とめる事が出来ない。
(もう避けるしかない……)
レグオズにはもうそれしかすることはできなかった。だがそれすらもダメージのせいでまともにすることが出来ない。
そして―――レグオズは完全に諦めた。
静かに目を閉じ壁に背を寄せた。
『何をしてるんだ……レグオズ! 逃げろ!』
ガロンの言葉ももうあまり聞こえない。
レグオズが心を閉ざせばガロンはいなくなってしまう。
それにいつのまにかレグオズを包んでいた光も完全に消え去っている。
「記憶……結局取り戻せなかったな」
黒い球はレグオズに徐々に近づいていく。
そして―――
ドォォォォォォォォォォォォン……………
黒い球はレグオズの全てを包み込むように静かに爆発した。