第8話 10回クイズです。
「大丈夫です、ちゃんとわかってますから」
バイトに出勤してから、千奈さんがずっと私の足下にすがりついて、昨日のことの説明をして来ます。
ユリユリしかったので、面白半分でした行動が面倒くさいことになりました。
私としては、準備を始めたいので早く離して欲しいのですが、何度言っても離れてくれません。
「ホントにわかってる?」
「だからわかってますって!だからほら!」
「いいや、絶対に誤解してる」
さっきからずっとこの調子なので困ってしまいます。
「では、どうやったら信じてもらえますか?」
私からいくら理解を求めても無駄そうなので、信じてもらうための方法を直接聞いてみます。
「え、いや〜」
この人は何でちょっと照れてるんでしょうか。
意味不明です。
「もうそんなんだったら、私は行きますからね」
「だめぇ〜」
私は一体どうするべきなのでしょうか。
だれか教えてほしいものです。
私が相変わらず、動けないで立ちすくんでいるとマスターが入ってきます。
「サクラサンそろそろ・・・お邪魔でしたね」
なんだか、新たな誤解が生まれた気がします・・・
あれからマスターはすぐ戻ってきて、私は事情を説明しました。
「ナルホド「あたしを本当に愛しているなら、行動で証明して」てなカンジデスネ」
「ちがうから!」
「マスターこれ以上ややこしくしないでください」
マスターは今度は真面目な顔で少し考えます。
「でも、サクラサンは誤解だって納得したんデスヨネ」
「そうなんですが」
「なら、何がいけないんデスカ?」
千奈さんは、言いにくそうにもじもじしています。
ちなみにまだ私から離れていません。
まだ春とはいえ、少し暑苦しいです。
「だって、わかってるっていわれると、逆に不安になるじゃん。それに、桜こういうのに疎そうだからなおさら・・・」
「わからなくはナイデスガ・・・ でも、そんなに彼女を疑うのは失礼じゃナイデスカ?」
「うっ・・・」
思ってもいない角度から攻撃が入り、うめく千奈さん。
私は、怪しく思えるのも当然だと思うのでそんなに気にしてもらわなくて大丈夫なんですが、結構効いたようです。
「そういうことで、ゲームをしましょう!」
『ゲーム(ですか)?』
「何でそんな唐突に」
千奈さんは突然の突拍子もない物言いに、不満げな声を漏らします。
「ゲームっていうのは、人の輪を広げる素晴らしいツールナンデス。まあ、割とこわしますケド・・・」
最後の一言のせいで、良いこと言ってたのが台無しです。
壊すんだったら駄目じゃないですか。
「それで何するの?」
千奈さんは怒り出すのかと思っていましたが、意外や意外。
案外乗り気のようです。
ここで私が反対するのも間違っている気がするので、おとなしくしておきましょう。
「今回紹介するゲームはこちら」
裏声を使って話すマスター。
ネットショッピングでも始まりそうです。
マスターが出したフリップを見るとそこには、
「10回クイズ?」
「そうデス」
ゲームと言ったのでピコピコのことかと思っていたのですが、ちがったようです。
「サクラサン、ピザって10回言ってクダサイ」
「ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ・・・はい」
「ココハ?」
マスターが指したのは自分の右肘の部分。
「肘ですよね?」
「・・・正解デス」
マスターはなんだか落ち込んでいます。
もしかして間違えて上げた方がよかったのでしょうか?
そういえば大人の世界には接待というものがあると聞いたことがあります。
「マスターもう一回やりましょう!」
このままでは、ブルーな人が店内に2人も居ることになっちゃいます。
サービス業でさすがに、そのような由々しき事態を見逃せません。
「・・・では、マサチューセッツ州って10回言ってクダサイ」
え・・・シンプルに早口言葉なんじゃ。
「マサチューセッチュ、マサチューセッチュ・・・」
「大丈夫デスヨ、どうせもう飽きたんデショ」
(うわー、このマスターなんだか面倒くさいですね)
「まさちゅーせっつしゅう・・・まさちゅーせっつしゅう・・・
私はゆっくり確実に作戦で行き、なんとか言い終わります。
「リーマン予想を証明してクダサイ」
(シンプルに難しい問題が来ました⁉)
いやいやいや、解けないですよミレニアム懸賞問題なんて。
あ、マサチューセッツ州の数学研究所が発表しているから、10回言わせたんですね。
単なる嫌がらせかと思いました。
「あのさ、私と桜の仲を深めるんじゃなかったんかい!」
ようやくツッコむ千奈さん。
結果的に元気になったようでよかったです。
「それでは、私が千奈さんに問題出しますね。スキって10回言ってください」
「え?スキ?」
戸惑う千奈さん。
頬を赤らめる姿はかわいらしいです。
「わかった・・・ スキスキスキスキスキスキスキスキスキスキ。これでいいの?」
「私も千奈さんのこと大好きですよ」
「え⁉」
これはしつこくまとわりつかれた、仕返しです。
私だって、怒っちゃう事くらいあります。
「桜って、私の事・・・」
(ん?)
これ何か勘違いされてます?
「千奈さん、冗談ですよ?」
「桜・・・」
聞こえてない⁉
「千奈さーん、おーい千奈さーん」
この後、今度は千奈さん側の誤解を解くのに苦労しました。
冗談でも思わせぶりな態度はよくないと学んだ桜です。