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メイドのおしごと!  作者: 東雲もなか
お帰りなさいませ
7/18

第7話 2人はヒミツの関係です。

加藤千奈


 お昼時も過ぎて、落ち着いてきた店内。

 私は、片付けをしながら、ため息をついた。


「どうしたの?」


 それに気がついた香葉さんは声を掛けてきた。

 店内に客がいたなら、怒られていたのかもしれないが、幸い今は暇だ。


「春って微妙な季節だなって思って」


「そうかしら?暗いイメージの冬が明けて、心晴れやかじゃない?」


「いやほら、気候が微妙じゃないですか」


 香葉さんは納得いかなかったのか、顎に手を当てて首を傾げている。


「わかりマスヨ、チナサン」


 同意してくれたのは店長。


「だよね!」


「ハイ!そうなんデスヨネやるエロゲが決まらないんデス」


「あー、そういう話なのね。はいはい」


 興味が無くなったのか、香葉さんは去って行く。


「夏に冬のゲームやって、冬に夏のゲームやるのが好きなんだけど、春に秋のゲームやるのはなんかちがうなって」


 店長は何度もうなずいてくれる。

 そして、机を拭いて戻ってきた香葉さんが、


「私いつもわからないのだけど、季節合わせる方が体験できてるみたいで良いんじゃないの?」


「私は、炬燵でぬくぬくしながら夏のゲームがやりたい。田舎系だとなおよし」


「暑い日にゲームでまで蝉の鳴き声聞きたくナイ」


 でも意外だな、香葉さんゲームあんまりしないんだ。

 確か漫画は結構書いてたはずだけど。

 私が黙ったのを不審に思ったのか香葉さん、


「どうしたの?」


「いえ、香葉さん同人誌とか書くのに、ゲームとかそっちの方はからっきしなのかなって」


「全くしないって訳じゃないけど、そうね・・・」


「昔は、私がゲームしてるのを見て「女の子がイチャイチャしているのを見て何が楽しいの?」って真顔できいてマシタヨネ」


 あーやっぱ店長はそういうのが趣味なんだ。


「ドウカしましたか?」


「いや、期待を裏切らないなーって」


「ドウモデース」


 褒めてねーよって言ったら負けな気がする。


「そういえば香葉さんは、どんな漫画書いてるんですか?」


「××が××な××××とか?」


「え?伏せ字だらけ⁉内容が全然読めない」


「公序良俗に配慮した結果ね」


「あ、そうだ、せっかくなので見せてくださいよ」


 まだ見たことがなかったので気になったのだ。

 確かそこそこの有名サークルだったはずだ。


「千奈ちゃん何歳だっけ?」


「18歳です」


「17歳デスヨ」


「嘘はいけないなぁ〜」


「数えでは、18ですし?」


 香葉さんは、何が楽しいのかニヤニヤしている。

 それは良いのだが、店長がジト目で見てくるのは許せない。


「ならせめてペンネームだけでも」


「それこそ自分で探して呼んじゃうでしょ」


「いや、もうエロゲやってる時点で今更なきがするんですが・・・」


 香葉さんが自分のペンネームを教えようが、教えなかろうが私の消費量は変わらないのだ。


「でもねぇ〜 未成年に教えるのは気が引けるのよ」


 勝手に一人で読む分はかまわないが、自分が勧めるのはさすがに・・・と言った感じなのだろう。

 でも、こうも隠されると逆に気になってしまう。


「カヨのペンネームは[私にオシオキしてください、]デスヨ」


 店長が言った途端、香葉さんが思いっきり彼の頭をはたく。

 いい音が鳴り響き、店長の頭はやっぱり空っぽなんだな、と思う。


「私、見たことあるなそれ」


「え、あ、そうなの?」


「はい。あ、ずっと気になってたんですが、なんでそんなペンネームにしたんですか?」


「ん?えっと、デビューしたときとかにさ「私にオシオキしてください、先生」って言われるでしょ?」


「それだけ⁉」


 あの不自然な読点も、そのためだったのか。


「それだけって何よ。美少女に言われたいじゃない」


「香葉さんのファン層ってそういう子なんですか?」


 イメージ的にはもっとこう・・・


「えっと、おっさんばっかりね」


 あはは、と乾いた笑みをこぼす。

 そして誤魔化すような口調で、


「でもほら、千奈ちゃんみたいな子も居るわけだし、ね?ねえ、試しに言ってみてよ」


「言ってみてって、ペンネームですか?嫌ですよ」


「そこをなんとか」


 なんと言われようと、やる気はない。

 そのことをなんとなく察したのか「そうよねぇ〜」と呟く。


「やっぱそうよね、こういうのはムードが大事よね」


 撤回、察してなんか居なかった。

 それに、凄く嫌な予感しかしない。

 これは逃げるしかないと、この場から離れようとする。

 しかし、香葉さんが壁に手を付き、道を塞いだ。


「えぇ・・・」


「千奈ちゃん逃げるなんて悪い子ね」


 香葉さんが私の首元を撫でるように手を這わせる。


「——ッ」


 私は羞恥に顔を背けた。


「クフ、かわいいわね。早く言わないと、食べちゃうわよ」


 2人しか居ない(店長はミジンコなのでカウントしない)ので悪乗りが始まる。

 言わない限り、やめてくれそうにない。

 それこそ、本当に・・・

 私が葛藤している間も、それを楽しんでいるように笑っている香葉さん。


(クソッ、もうどうにでもなれだ!)


「私にオシオキしてください、先生!!」


 そして生まれる沈黙。

 いや、正確には荷物が落ちる音だけが響いた。


「千奈さんとメイド長・・・」


「桜・・・」


 これは絶対にやばい。


「私たちこういう関係なの」


 香葉、余計なことを言いやがって。


「ち、ちがうから!」


「大丈夫ですよ、私わかってますから〜〜」


 言い捨てながら店を出て行ってしまう桜。

 絶対にわかってない。


 あらぬ誤解が生まれたと言うのに、店長と香葉さんは楽しそうにしていた。

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