第6話 メイド長ってもしかして・・・
注文を受け、それを厨房へ伝える。
料理ができる時間を利用して、空いた席の片付け。
そしてすかさず案内をする。
料理ができあがれば、それを笑顔と一緒にお届けする。
「さすがメイド長、洗練された動きです」
「わっ!」
「わぁぁぁぁあ!」
「わぁぁぁぁあ!」
後ろから突然掛けられた声に驚きます。
「千奈さん驚かせないでください」
「こっちの台詞なんでけど。それより、香葉さん見てたでしょ」
香葉さん、つまりメイド長の事ですね。
まあ、見てたんですけど。
「2人とも、ちゃんと仕事してクダサイ」
「桜のせいで、店長に怒られてた」
「私のせいですか⁉」
「2人ともデス」
私たちは、言われたとおりに仕事に戻ります。
そして、マスターが厨房に戻った途端。
「それで、なんで香葉さんみてたの?」
と聞いてきます。
「えっと・・・千奈さん、仕事は・・・」
「なんで見てたの?」
あー、これあれですね。
全く聞く気ありません。
それならサボっても仕方無いですよね!
「その、今まで見てて思ったんですが、マスターって絶対メイド長に逆らわないじゃないですか」
「字面だけ見たらおかしいけど、確かにそうね。逆らわないと言うより逆らえないんだと思うけど」
「そうです。しかも、千奈さんもメイド長だけはさん付けですよね。それってつまり・・・」
「つまり?」
「あの方が、うちのオーナーなのではと、名探偵桜は思います」
「どうでも良いけど、その鹿討帽どっから出したの」
千奈さんが私の頭を見ながら言います。
これはさっき懐から取り出したのですが、それこそどうでも良い話です。
「そこで、メイド長が真の雇い主であると言う証拠を掴みたいと思います。じっちゃんの名にかけて」
私は、千奈さんにも帽子を渡します。
彼女は嫌そうな顔をして、
「もしかしてそれ、私もやるの?」
「はいっ」
私が笑顔を向けると、嫌悪で返されます。
でも、渋々ながら帽子を受け取ってかぶってくれました。
仕事中に見つけた、探偵ぽい隠れ場所、柱の陰に隠れます。
「ターゲット捕捉」
「それ私が知ってる探偵じゃない・・・」
私は、あんパンを取り出し口に運びます。
千奈さんはそれをうらやましそうな目で見てきます。
「どうしたのそれ?」
「マスターが作ってくれました。食べますか?牛乳もありますよ」
「いや、でも今仕事中だし・・・(ゴクリッ)」
「そんなの今更じゃないですか。それに、欲しいんでしょ」
ほらほら〜と目の前をちらつかせます。
初めは、理性的に耐える千奈さん。
でも、我慢できなくなったのか、かぶりつきます。
「ほら〜そこの2人、仕事中よ?」
明るい声なのに、背筋が凍るような冷たさがあります。
「あれ?香葉さん・・・さっきまであそこに居たんじゃ・・・」
「メイド・・・長・・・?」
立っていたのは、さっきまで離れている場所にいたはずのメイド長。
一瞬のうちにここまで来るなんてただ者ではありません。
(いやー、この状況は不味いですよね・・・)
千奈さんはさっきから時計ばかり気にしています。
「よしっ、休憩時間だ。行くぞ桜探偵」
「え?おわっ」
手を引いて走り出す千奈さん。
向かったのは休憩室です。
「ちょっと待ちなさい!」
後ろを追いかけてくる、メイド長でした。
「それで?何でなんな事してたのかな?」
「誠に申し訳ないと思っている次第です」
「ごめんなさい・・・」
謝罪を聞いて、メイド長はため息をつきます。
「怒んないから言ってみなさい」
あ、これ。絶対怒りますよねー
でも、答えなかったら、それはそれで怒られそうです。
「メイド長って何者だろうと、思って調べていました」
「バカ、そんな正直に言ったら」
「へー、私を調べていたの。それで?」
メイド長は私のほっぺを両方に引っ張ります。
「いひゃい、痛いです。怒んないって言ったじゃなひですかっ」
「怒ってはないわよ」
「暴力はもっと駄目でふ。いひゃぁぁ」
「さすがにその辺で・・・」
千奈さんが止めてくれます。
「え〜、痛がる桜ちゃんかわいいのに〜」
止めてくれなかったら、ほっぺがちぎれたかもしれないと思うと、顔から変な液体が出てきます。
これは汗?ですよね⁉
「そ、それで。メイド長って一体何なんですか?」
メイド長は両手でつまむ動作をします。
「ひぃっ」
「冗談よ〜」
本当に冗談ですよね・・・
「それに何?って言われてもねぇ」
「そのことなら・・・」
千奈さんは私に代わって説明をしてくれました。
「なるほどね。まあ、結論から言うと、私とマスターは付き合ってたのよ、昔」
「え? あ、すみません聞き間違えてたかもしれないです」
「付き合ってたのよ。恋人?」
「なるほど、どういうことですか?千奈さん」
「え⁉わたし? てか、なんでわかんないのよ」
さて、冗談はさておいて、あのマスターのどこがよかったのでしょう?
確かに、優しいかもしれませんが、マスターですよ?
「・・・何か言いたそうな顔ね。その、色々あるのよ」
「そうなんですね〜」
「馬鹿にしてる?」
「え? ちょっと、ほっぺは・・・」
次の日起きてみると、なぜかほっぺがぷるんぷるんになっていました。
あれは、実はマッサージだったんですね。
だったとしても、もう受けたくはありませんが。
それにしても結局メイド長の正体は何だったのでしょうか?
まあ、それは追々としましょう。