第2話 ご主人様をお出迎えします。
「チナさん、サクラさんに制服に着替えさせて来てクダサイ。ロッカーに準備してアルノデ」
「ほいほーい。それじゃこっちだよ」
チナさんと呼ばれている方は、私の左腕をつかんでバックヤードに案内してくれました。
「うわぁ~」
着せてくれたのは、私のメイド服です。
でもこれ、なんだか、
「スカート少し長くないです?」
私のスカートは、ふくらはぎくらいまであります。
チナさんと比べても、それほど長さに差があるわけではないですが、私が小さすぎます。
「そんなもんだと思うよ」
そう言いながら、よれていたネクタイを直してくれるチナさん。
面倒見が良いお姉ちゃんみたいです。
「その子に合う衣装を店長が選ぶんだけど・・・さすがヘンタイの店長」
「変態?でも別に」
鏡に映った自分を眺めてみる。
別に、胸元も開いてなければ、それこそスカートも長い。
「わかってないな~ そこが良いんだよ!」
両手で肩をつかんでくる。
「おっと、よだれが」
いけない、と片手だけ肩から離して拭っています。
汚いです・・・
「よく似合ってますヨ!」
表の方に戻ると店長さんが褒めてくれました。
「えへへ、ありがとうございます。店長さん」
「あ、ワタシのことは、マスターって呼んでクダサイ。皆さんそう呼んで居ますのデ」
「嘘を吹き込むな嘘を」
チナさんは店t、マスターをたしなめます。
「それにしても、どうしてこの服が似合うと思ったの?」
「そのことならデスネ」と1枚の紙を引き釣り出します。
「コレコレ♪」
取り出したものを私たちに見せてきました。
「コレなんですか?」
出されたのはどうやら私の履歴書の用です。
「コレを見て想像したんデスヨ」
「うぇ・・・ 店長、控えめに言って気持ち悪い」
チナさんから散々言われようなマスターです。
「オブラートに包んでそれデスカ?ショックデス・・・」
マスターは肩を落としてしまいました。
不憫に思った私は、頭をなでて上げようと手を伸ばします。
身長差で届きそうにないので、ジャンプをしていたのですが、
「よっ、よっ、えぃっ」
[バチンっ]
無理に跳ねていたものですから、その手がマスターのお顔に直撃してしまいました。
「マスターすみません!」
私は急いで謝ります。
「うぅ・・・」
マスターは許すでも怒るでもなく、ただその場にうずくまります。
あわわ、どうしましょう。
まっ、まずは救急車でしょうか?
私はスマホを取り出します。
「あれ?スマホは⁉」
そうだ、この服はポケットがないのでロッカーに置いていたんでした。
こうしては居られないと、急いで駆け出します。
「まあ、待て」
チナさんが急に襟首を掴んでくるので、首が絞まります。
「けほっ・・・何でですか・・・?」
「大の男が、小柄な女の子に多少ぶたれたところで、どうこうなると思う?」
「でも、現に・・・」
そうです。
マスターはへたり込んでいます。
「こいつはあれだ、心がイタいんだ」
「チナサン、言い方に悪意を感じるのはワタシだけでショウカ?」
マスターの物言いを無視してチナさんは、
「そろそろ接客の練習をしよっか」
接客、つまりマスターのお客さんと言うことでしょうか?
「どうしたの?」
「いえ、少し自身がなくて・・・」
これまでの失態のこともあり、うまくできるか不安です。
私が俯いていると、その顔をのぞき込んできます。
「大丈夫じゃない?多少失敗してもかわいいから許してもらえるよ」
そんなことは無いと思うのですが・・・
でも、チナさんが気を遣ってくれているとはわかります。
なので、これ以上迷惑を掛けない為にも私は精一杯の笑顔で、
「わ、私、ガンバリマス」
「何で表情がさらに硬くなってんだよ。まっ良いか、それで入店してして来たら「お帰りなさいませご主人様」って挨拶する」
チナさんは、大丈夫?って聞いてきます。
「はい、大丈夫です」
ってあれ?
「お客さんにも、ご主人様と呼ぶのですか?」
「ん?」
私が何を言ったかわからなかったのか、チナさんは首を傾げます。
なので、さっき言ったことをもう一度、繰り返しました。
「もしかして桜、メイドカフェってしらない?」
「何ですか?それ?」
チナさんはマスターを睨みつけています。
「えっと、あなた、ご主人様はだれ?」
「マスターさんですよね?」
私がマスターと目を合わせると、彼はニコッと笑います。
「はぁ・・・、良い?こいつはただの店長で、マスターってのは自分の趣味で言わせてるだから」
「ひどいデスヨ。店主もマスターじゃないですか」
「とにかく、ここはメイドカフェといって、メイドになりきった店員が、お客様をご主人様に見立てて接客するお店なの。がっかりした?」
「それって・・・なんだか面白そうですね!」
「桜って、見かけによらず意外とたくましいわね・・・」