第15話 バンドを組んでみます。
「春と言えば、何かを始める季節だと思うんデスヨ、ワタシワ」
今日の営業も終わり、お店を閉める準備をしていたところでマスターが叫びます。
「うるさい、さっさと片付けを終わらせる」
「そんな事、言わないでクダサイヨ。せっかく全員出勤している日なんデスカラ」
「大体ね、もう春って言うか夏になりかけじゃない。すでにもう暑いし」
確かに、最近は皆さんすっかり夏服になってます。
「みんなでバンド組みたいんデス」
千奈さんのことなんて無視して、話を続けています。
千奈さんは、もう諦めたのか、嫌な顔をしながらですが耳は傾けているようです。
「マスターは何か楽器できるのですか?」
バンドと言うからには、演奏ができるのか気になりました。
もしくはお歌が得意とかでしょうか?
「ワタシは、サックスが吹けマス」
自信満々に胸を張るマスター。
もっとギターとかドラムとかを想像していたので、どういう反応をしたら良いの困ります。
「あ、えっと。似合いますね・・・」
「それほどでもアリマスヨ」
マスターが、サックスを吹いている姿を、想像してみます。
見た目は外国人ですので、確かにかっこよくはあります。
かっこよくはあるのですが、それは果たしてバンドなのでしょうか?
「調子に乗らない。桜困ってるでしょ。そもそも、それバンドって言って良いの?」
私の疑問は皆さんもってらしたようで、一様に頷いています。
「バンドで弾く楽器は自由デショ。それだったら和楽器バンドはどうなるんデスカ」
「痛いとこを突いてくるわね・・・ まあ、良いんじゃ無い、サックスでも」
いつも虐げられている千奈さんを、言い負かせられて嬉しそうです。
「そういうチナサンは、何か楽器できるんデスカ?」
「え⁉楽器?」
「あれれー、できないんデスカ」
マスターは煽るような口調で千奈さんに言います。
「楽器はできないけど、歌は歌えるから!」
「へー、ワタシだって歌えますよ。言うからには、相当うまいんでショウネ。歌って見てクダサイよ」
千奈さんは少し躊躇いながらも、歌い出します。
たまたま最近おすすめされていた、アニメの主題歌だったので、私も知っていました。
原曲を知っていてなお、聞き入ってしまいます。
「まあまあじゃナイデスカ」
「マスター素直に褒めてあげれば良いじゃないですか」
「まあまあ、凄いデスネ。ワタシよりはうまく無いデスケド」
「素直じゃ無いですね。ちなみに、花恋さんは何か楽器弾けるのですか?」
彼女なら、習い事などたくさんやってそうです。
「私は、色々できますよぉ〜。ギター、ベース、ドラム、ヴァイオリン、ピアノ、フルート、パイプオルガン、馬頭琴・・・」
「もう大丈夫です・・・」
このままだと、すべての楽器お名前を聞きそうだったので止めに入ります。
それに、馬頭琴ってなんですか。
学校の授業くらいでしか聞いたことありません。
「凄いわね、弾けない楽器なんて無いんじゃ無いの」
「お恥ずかしながら、チェンバロが苦手で・・・」
逆に何であれだけ扱えて、できないのか疑問です。
「サクラサンは何か弾けるんデスカ?」
今度はマスターの方が私に聞いてきました。
私はこれでも、1つだけ弾ける楽器があります。
「お琴を嗜む程度に」
「ぶっ、サックスと琴のバンドって(笑)」
千奈さんはこらえきれなかったのか、吹き出して笑っています。
そんなにバカにしなくても良いと思うんですけど・・・
「これは、和洋折衷ってやつです」
「和洋折衷ねぇ」
絶対に真に受けていません。
「じゃ、じゃあメイド長はどうなんですか?」
みんなで騒いでいる間にも、1人で黙々と作業を進めてくれていた彼女に話を振ってみます。
「え?私?」
「香葉さんって確か、昔バンドやってましたよね」
「うん。ていうか、マスターも一緒にやってたわよ」
「マスターもって、サックス吹いてたんですか?」
私は驚きながら、マスターに尋ねます。
しかし、答えたのはメイド長です。
「はぁ・・・そんな訳無いでしょ。あいつが歌担当だったのよ」
もしかして私達に隠してる特技があるのかと思いましたが、ちがいました。
そうですよね歌、得意って言ってましたもんね。
それに、得意な楽器があれば、マスターのことですので、すでに自慢していると思います。
「でもそれだったらやっぱり、このメンバーでやるのは難しそうですね。統一性がありませんし・・・」
「ま、良いんじゃ無い。やってみれば」
意外なことに、好感触なメイド長。
普段こんなに楽しそうな彼女を見ることは少ないので、結局試しで組んでみることになりました。
と言っても、まずは個人練習で課題曲を決めただけなのですが。
お琴でロック調の曲、どうやって弾けば良いのでしょうか?
今度、お琴の先生に聞いてみようと思います。