第14話 夢の話です。
「桜ちゃーん、ちゅーもーん」
ご主人さんの呼びかけに答えて、向かいます。
希望の品を聞いてから、戻ると、千奈さんが苦い顔をしていました。
「体調悪いのですか?」
千奈さんは首を横に振ります。
「うんん、大丈夫・・・」
「チナサン、具合が悪いのなら帰ってクダサイ」
「え・・・ 私はまだ働けます!だからここに置いてください!お願いします!!」
鬼気迫る表情と、気迫でマスターにすがりつきます。
マスターはまさかの反応に、戸惑っています。
「えぇっ、飲食店なので、そういうのにシビアなだけデスヨ。それで、本当に大丈夫なんデスネ?」
「うん・・・ ちょっと今日嫌な夢見て」
「ワタシは昨日、推しに食べられる夢見ました〜」
「マスターは何で嬉しそうなんですか⁉」
「普通嬉しいデショ!」
異議を申し立てるマスター。
「そんな狭い世界の、普通なんて知りません」
こんな変態なマスターにかまっていられません。
「最近サクラサンがチナサンに、毒されてきた気がシマス」
「それは全面的に、店長が悪いわ・・・」
元気が無いながらも、一応ツッコミを入れるチナサン。
でも、その言葉にはいつものような切れがありません。
「それで、チナサンは一体どのような夢を見たのですか?話したら少しは楽になるかもしれませんよ」
「そうね、ありがと。実は・・・」
客「桜ちゃん今日もかわいいね」
桜「ありがとうございます!」
屑「サクラサンも成長しましたネ。これなら、チナサンをクビにしても大丈夫そうデス」
私「そんな冗談でもやめてくださいよ(笑)」
屑「え?」
私「え?」
屑「何でそんなに、面白くない嘘つかないといけないんデスカ?」
私「急すぎるわよ!オタ活できなくなるし、それに生活費だって・・・」
屑「私に何の関係があるのデスカ?」
(そんな、私はこれからどうしたら良いの・・・)
「と言うことがあって」
「無いデスヨ⁉」
「マスター最低ですね」
私はわざとらしく、マスターからと視線を合わせないようにします。
慌てるマスターも、かわいいです。
「だから、ワタシそんなことする訳無いじゃナイデスカ! それに受け入れた感じになってなますケド、ワタシ屑じゃないですカラネ!」
「お似合いですよぉ〜」
会話に入ってきたのは花恋さんです。
「カレンサンはさっき出勤して来たばかりじゃないデスカ!何も知らないのに口だししないでクダサイ!」
千奈さんに許可をもらい、花恋さんにも簡潔に事情を説明します。
「なるほど〜 それは、お似合いですねぇ〜」
「事情を知ったからと言って、言って良いわけではありまセン」
「え〜」
口では残念がりながら、トーンと表情では楽しそうな花恋さん。
「それに、ワタシが人気が落ちたからとかくだらない理由でクビにするわけ無いじゃナイデスカ。貴重な戦力をそう簡単に手放したりなんてシマセンヨ」
「本当に?」
ここまで言われて、まだ不安げな千奈さん。
よほど夢が怖かったのだと思います。
「本当デス。大体それなら、人気もそれほど無くて、大して仕事もできないのに休憩ばっかとって原稿を進めてるカヨはどうなるんですか」
マスターは盛大に笑ってます。
でも、そんなことを言って大丈夫なのでしょうか?
「うん、もうその辺で良いよ。けど、大丈夫?それ香葉さんに聞かれたら」
「何言ってるんデスカ。今日、シフト入っていませんよ」
「まあ、そうなんだけどさ・・・後ろ」
マスターはそこまで言われてようやく気がついた用で、固まります。
気配は感じているのか、小刻みに震えているのに、後ろは振り向けません。
「私は何だって?」
「イエ・・・何でも」
「あんたが、どうしてもって頼んだから働いてるんでしょ」
「これは、その言葉の綾というヤツデ・・・チナサンを励ますために、ホラ」
「まあ、良いわ。そんなやつだって事は私が一番知ってるし」
マスターはやっと助かりそうだと、胸をなで下ろしています。
でも、それはつかの間の安心でした。
「もちろん、今日の分はただになるわよね」
「モチロンデス・・・」
その後、噂ではマスターの給料3ヶ月分の会計になったそうです。