第10話 トラブルです。
休憩室に入って見つけた1冊の漫画。
ただそれが、机に置かれているだけでしたら、何ら問題ありませんでした。
私が勝手に人の漫画を覗いたのが悪かったのですが、過ぎた今は仕方がありません。
私が動けず棒立ちしていると、千奈さんが出勤してきました。
「ち、ちなさん」
高校生ともあろう私なのですが、情けなく目には涙が浮かんでしまします。
「どっどうしたの⁉」
千奈さんは心配して、半べその私を抱きしめてくれます。
私は、原因となった、机の上の漫画を指さします。
「その、え・・・エッチ漫画が置かれていて」
「え!エロ漫画!」
うれしそうに反応していたのは冗談だと思いたいです・・・
「あ・・・ でも、なんでそんな物が? 昨日って確か香葉さんがシフトだったよね」
「はい・・・昨日は、千奈さん以外は入ってましたので・・・」
「と言うことはつまり・・・ あーあー、えっと桜あれは私が処理しておくから、先に表の方準備しておいて」
「すみません。こんな役回り押しつけてしまいまして」
自分ができないことを、他人にやっていただくのは、例え相手からの申し出でも気が引けてしまいます。
千奈さんの様子がおかしいのも、無理をしているのかもしれません。
今度何かお礼をしなくてはいけませんね。
私がホールの方でご主人様を迎える準備をしていると、千奈さんがやって来ました。
彼女はいつもの明るいオーラでは無く、ズーンとした靄を漂わせています。
「千奈さん、ごめんなさい。私が無理をお願いしたばかりに」
「え?あ、いいのいいの。うん」
口では言っていますが、その沈んだ声では嘘なんてつけません。
どうやって元気づけようか悩んでいると、千奈さんはマスターに連れて行かれてしまいました。
加藤千奈
突然店長に呼ばれて来たは良いけど、何の用事だろうか。
「チナサン何かあったのデスカ?サクラサンが心配してた様デスガ」
「いえ、大した事じゃ無いから大丈夫」
「大丈夫じゃナイデスヨ。それにお客さんにそんな顔見せるノデスカ?」
「うっ・・・」
言われてみればそうだ。
いつもふざけている店長に言われると頭が痛い。
「話して見てクダサイ。そしたら楽になるカモデスヨ」
話したい話題でも無いのだが、黙っていても解放してくれそうにない。
「実は、桜がエロ本が机の上にあるって言ったから、もしかして香葉さんのかもしれないと思って見たの」
「チナサン、子供は見ちゃダメデスヨ」
「わかってるわよ。最後まで話を聞きなさい」
本当はわかって無いんだけどね。
家の押し入れは薄い本が詰まっているし。
何なら、もう分厚い本って言えるくらいに・・・
「それで、桜を一応、移動させてから見てみたの」
「やっぱりみてるじゃナイデスカ」
(だーかーらー)と叫びたくなる気持ちをグッとこらえる。
「いざ手に取って見たらただの「To LOVEる」でした・・・」
「それワタシのデスネ☆」
その瞬間店長が床に沈む。
なぜって?
私が店長の膝を払い蹴りしたからだ。
「ちょっと待ってクダサイ!!」
それは、店長を上から見下ろす私に向けられた言葉。
準備がせっかく整っていた拳を一旦下ろした。
「やっぱりチナサンはこっちですよね」
どこから出したのか、右手に握られているのは「いちご100%」
私は躊躇いなく振り上げた踵を落とした。
「チナサン・・・ヒドイ・・・」
「自業自得でしょ」
「よく考えてクダサイ、今回悪いのは全面的にチナサンデスヨ。そもそも、カヨが原稿を忘れていってたとして勝手にみるんデスカ?」
そう考えると、確かに・・・
許可無く読むのは悪いことなのかもしれない。
だが、しかし!
「なら店長は、ゆるキャン△の生原稿が落ちてたら、見ないの⁉」
私は知っている、店長がキャンプ漫画をヘビロテしていることを。
「そんなの、めっちゃ見るに決まってるじゃナイデスカ!!」
「・・・正直ね」
「ア・・・・・・」
「ま、そういうことよ。店長も人のこと言えないんじゃ無い?」
「そうデスネ、気をつけマス」
「私の事はいんだけどさ」
「ハイ?」
この様子だと、1番の被害者に気がついて無いみたいだ。
「桜には、何かお詫びしなさいよ」
「そうデスネ〜 わかりました」
店長は厨房で何かごそごそやってから、桜を呼んでいる。
まるで本当のメイドのようにテキパキと駆けつけてきた。
「どうかなさいましたか?マスター?」
店長は子犬のようなメイドに、鼻の下を伸ばしていたので、「香葉さんに言いつけるわよ」と言ったら、顔を青くしておとなしくなった。
「サクラサン、これどうぞ。サクラパフェです」
乗っているのは、サクランボやサクラの花びら、ゼリーなど。
まさに彼女をイメージしたかのような、スウィーツだ。
「うゎ〜 ありがとうございます。でもどうして私なんかに?」
「それは・・・聞かないでクダサイ」
そりゃ言えないわなと思う。
「チナサンの分もありますよ。チナパフェデス」
チナパフェ・・・一体何が入っているのだろうか?
見た目は普通のパフェにしか見えない。
「見てクダサイ。この金髪。集めるの大変だったんですよ」
指を指すところには確かに私の髪のような物が。
え・・・そういうこと。
「こんなん食えるかー!」
私は、店長の腹部を思い切り殴る。
ちょうどさっき踵が入った場所に入ったのか、かなり呻いている店長。
「ジョ、ジョウダンデス・・・ソレ、飴細工デス・・・」
紛らわしい嘘をつく方が悪い。
恐る恐る食べてみると確かに甘い。
言っていることは本当のようだった。
パフェがおいしかったので、今回のことはもう一回膝蹴りをすることと引き換えに許して上げた。




