行商人になる
「本日をもってこのパーティを抜けさせてもらう」
「そ、そうか残念だが仕方ないな」
「残念だけど、これから頑張ってね」
「まだ頑張れるんじゃないか?」
突然の俺の脱退申し出に反応は色々だった。
ただ、一つわかっていたことがある。俺がパーティを
抜けた方が上手くいくということだった。
俺、ルヴェルの戦闘スタイルは独特である。
無駄な行動を省き最大限の効率を求め、
理論よりも直感のセンスで戦うスタイルだ。
それゆえ、時に予測が難しい行動や無謀な行動をし、
連携や安定性・低リスクを求めるパーティメンバーとの間で
不協和音が起きていたのだ。
パーティメンバーに生暖かく見守られながら、
ギルドでパーティ脱退手続きを済ませた俺は
最低限の挨拶を済ませ、街を旅立った。
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となり街に来た俺は旅具店にやってきていた。
脱サラ(パーティを抜けてソロや別職業に変わった冒険者を
この世界ではそう呼んでいる。)をした後、俺には
やってみたいことがあった。
それは、行商人である。
世界の物産を買い集め、それを他の地域に運ぶ仕事である。
協調性がない俺にはピッタリの仕事に思えたのだ。
旅具屋で地図やコンパス、野外宿泊キットなどを
買い揃えていく。
「お客さん羽振りがいいんだねえ。」
「一応Bランク冒険者だったからね。」
「そりゃすごい!これからも贔屓に頼むよ」
この世界ではBランクは冒険者ヒエラルキーの上位25%に位置し、
年収ベースでは上位20%の位置を占めていた。
旅具屋を出た後は、魔法書屋、家畜屋などを回っていく。
「揃ったぞ!」
俺は冒険者で儲けた金を元手に行商人として最低限必要なものを
揃えた。やりたいことを今まで我慢し、人の顔色を伺っていた
パーティ冒険者次第には得られない感覚であった。