迷宮と始まり2
「クラレ、今日はどこに行くの?」
クラレは楽のプレイヤーネームだ。本名である和暮楽を逆さ読みでクラレ。安直な名前の決め方だったようにも感じるが楽はその名前を気に入っていた。
「今日はいつもより深層にチャレンジしてもっと強い装備でも探します」
話しかけてきた綺麗な白銀色の髪の女性にそう答えると、女性は少し呆れたような表情をした。
「これ以上強くなってどうするつもり?お金稼ぎってわけでもないんでしょ?」
「そうですけど、大会で有利になるような装備がゲットできるかもしれないし」
「でも大会ってリーク情報だとアイテム持込制限あるんじゃなかったっけ。詳細はわかってないけれど…」
「そうなんですよね…とりあえず最深部まで行ければ良いアイテムがあるかもしれないんで頑張ってみます」
「最深部までって…流石ランカー様は考えることが違うわね。まだ誰も最深部まで到達したことがないって言うのに」
「ゲーム上は最終層も存在してるみたいだし、いい物がありますよ、きっと!」
それを聞いた女性はさらに呆れながらも、私も置いてかれすぎないように頑張ると言って迷宮へと進んでいった。
話しかけてきた女性、マオはクラレがこのゲームを始めた頃に色々と教えてくれた恩人であり、かなりこのゲームをやり込んでいるプレイヤーでもある。装備もスーツ姿にガントレットという風変わりのものであるが、確りと防御力を持ち、腰からぶら下げていた神聖な趣きの大剣はかなりの強さを持っている。
しかし、クラレがみっちりLabOにハマったこともあり、最初は教師と先生のようだった関係もいつのまにかクラレが先をいくようになっていったため、マイは遅れを取らないようにと、迷宮攻略に励んでいるのであった。
「マオさんも大会一緒に参加できればいいな」
黒と赤を基調とし、各部に金属を纏った防具を身に着け、十字架が象徴的な短剣を装備したクラレはそんなことを考えながら拠点の中心にある迷宮入口のゲートへと足を運んだ。
今日挑戦する迷宮は、まだ数人しか挑戦できていない情報の少ない場所だ。
「今日はしっかりと探索して探そう」
クラレは連日この迷宮に足を運び、地道に地図を埋め出口である大門まで到着したのだが、肝心の「鍵」を見つけられずにいたため、今日はソレを見つけ出そうとしているのだった。
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迷宮探索を終えログアウトした頃には、辺りはすっかり日が落ちていた。
今日の迷宮探索は現在の装備より強いものは発見できず、数回死んでしまい残機を減らしはしたものの、「鍵」を見つけてより深層へと進むなど成果は上々だったように感じていた。
「この調子じゃ大会は今あるものでなんとかしないとかな」
装備の自動生成AIを恨みつつ、ポケットから携帯端末を取り出し、LabOの攻略サイトを見ながら何か新しい情報はないかと探していると目をひく投稿がある。
<日本サーバー 総合ランキング>
8位 クラレ
自身のランキング情報が更新されていたのだ。楽のランキングは間違いなくソロプレイヤーのなかではトップクラスであることの証明となるのは間違いない。
その事実に頬を綻ばせ、エゴサーチをしているとさらに目をひく投稿を見つけた。
『大会出場者へ』
公式の発表ではないものではあったが、大会といえば週末の大会をおいて他にはないだろうし、新しいリーク情報かと興味本位で投稿に目を通す。
「「命が惜しければ、大会には出場するな」」
それ以外のことは何も書いておらず、異様な雰囲気を感じ、一瞬ドキッとしたが、根も葉もないことだろうし、競争倍率を減らすための策略かおふざけだろうと、楽は有益な情報を求めて、情報サイトの閲覧を再開した。
しかし、この忠告を気にも留めず、大会に参加したことを後悔することになるとは、このときはまだ思いもしない。
楽は今日の成果を振り返り、このまま大会でも順調にいきますように、と流れ星を探し空を見上げながら帰路着いた。