プロローグ
「こんなに苦労するなら休めば良かった…」
何度も何度も同じ道を歩いている内に体力が、気力が失くなっていく。
下を見ても横を見ても前を見ても後ろを見ても、壁、壁、壁、壁。
天井はなく、空こそ見ることができるものの、風景は変わらず、刻々と限界が近づいているのを感じる。
「さっきもここ通らなかったか…?」
誰も居ない空間に自分の声と足音だけが鳴る。
都会の人混みのように在る壁を前に幾度となく虚しさを感じ、自分がゴールに近づいているのか、遠ざかっているのか、全く知ることのできないまま、彼は途方に暮れていた。
「こんなことなら一層目で休息すれば良かったなあ」
つい数日前の迷宮一層目でのことを思い出し、休息を取らずに二層目に挑戦したことを後悔した。
「かなり歩いてきたし、鍵もそろそろ見つけたいんだけどな」
可愛い彼女が欲しい、美味しいご飯を食べたい。ふかふかの布団で寝たい。逃げ出したい。欲求を脳内で爆発させ、今一度自身を奮起させた。
…とはいえ、数日の間、まともなものを何も口にせず歩き続け、彼の限界は目と鼻の先にあった。
倒れ、野垂れ死んでしまう前にもう一度思い出してみよう、残り僅かな時間でできることを、これまでの道を、アイツの言っていた生存までの道を。