08
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本当は謝りに行くつもりだった。
自己満なのはわかっている、謝ったところであの時否定したことには変わらないから。
「でも、これで良かったのかもしれませんね」
もちろん、褒められることではないけれど。
それでも仲良さそうに歩いているふたりを見ていると思う。
「お、真由じゃん」
「こんにちは」
邪魔するつもりはなかったのにぼうっとしすぎていた。
足立さんの隣にいる畦地さんも「こんにちは」と挨拶をしてくる。
私たちは過去、友達だった。
少なくとも目の前でされた時まではそうだったと思う。
……あの時はあんなに死んだような顔をしていたのにいまは違う。
寧ろ小学生時代よりも笑顔が可愛らしく輝いているように感じた。
「畦地さん、よくこの人を受け入れましたね」
「うん、その方が楽だと思ったんだ、それに私にも原因があったからさ」
ずっと自由にさせてしまったから、か?
私は足立さんに脅されているところを見たことがある。
あれでは逆らうことなんてできない、臆してずっとされるがままになるのが普通だ。
けれどいまはどんな魔法を使ったのか畦地さんが引っ張る側のように見える。
なかなかできることじゃない、だからってそういう演技という風にも見えなかったけれど。
「……あの時は気持ち悪いと言ってしまいすみませんでした」
「いや、他人の前でやるのは気持ち悪いからしょうがないよ、ほら、梨音も反省しなさい」
「うぅ……ごめんなさい、真由に君枝を取られたくなかったんだよぉ」
こちらを見る目がキラキラしていたのはそういうことだったのかといまさら知る。
だから頻繁に話しかけてきていたのかとも、……元々同性は対象外だったから意味はない。
「気持ち悪いって言われるだろうけどさ、私は有井さんのことが好きだったんだよ」
「……気持ち悪いですね」
「うん、それでも凛々しい横顔とか優しいところを見ていたらね」
中学生の時、私は野球部の男の子が好きだった。
優先度で言えばもちろんそちらの方が高い、その合間に彼女と会話していただけ。
なのに好きになってしまうのは単純というか危ないというか……。
「文句も言わずに他人の仕事までしちゃえるところが格好いいと思ったんだ」
「……誰かがやらなければならないんです、誰かに頼むより自分がする方が楽じゃないですか」
「そこだよ!」
初めて聞く大声にびくりとした。
「なんでも自分が引き受けちゃうのはだめだけどさ、そうやってできちゃうところが好きだったの!」
意味のない好きを重ねても仕方がない。
なにより横にいる足立さんとしては面白くはないだろう。
その証拠にこちらを睨んできている、畦地さんにしてくださいよもう……。
「……仲良くすればいいんじゃないですか?」
「うん! 私は梨音と仲良くするよ!」
決して同性愛に憧れたというわけではないけれど。
「ああして仲がいいのは羨ましいですね」
なんとなくそう呟いてしまうぐらいには眩しい光景だった。
「よしー」
「んー?」
ノックもせずに部屋に入ってきた姉貴。
暗くなったかと思えば明るさ全開で帰ってきたのは驚いた。
まあそれも数日前の話ではあるからいまさらしても仕方がないのだが。
「君枝は?」
「1階にいるよ」
「姉貴さ、中学生の時にあいつに意地悪してたんだろ?」
それなのによく受け入れるよなと。
あいつは本当に死にそうな顔をしていたからな。
姉貴が原因だとわかった日には責めようと思ったぐらいだ。
でも、そうするとあいつがより責められそうだからとやめた。
保身のために行動しなかったとも言える。
だからこそ、困ったらなにか言えよって……まあ、あいつに言ったわけだが。
「あいつは強いなあ」
「ん?」
「君枝だよ、ひとりで姉貴を手懐けやがった」
「ちょ、そんな犬みたいに……」
姉貴は人としてしてはならないことをした。
君枝だって嫌がっていた、ひとりでいる時に泣いているところを見たことがある。
吐いているところだって見たことがあった、発見率が高いのは姉貴が自由に色々なところでするから。
そんな人間の恋人になってしまえるなんてどれだけ強いのか。
いや、強くならないといけなかったのかと考えた。
とにかく姉の弟としては君枝が死んだりしなくて良かったと思う。
そういう可能性は0ではなかったから、おまけに犯人の家族として悪く言われたら嫌だし。
「あ、弟くんだ」
「偽物じゃなかっただろ?」
「だねっ」
話したのは最近が初めてだった。
「うーん」
「どうした?」
「君と梨音って似てないなって」
「そりゃそうだ、姉貴と違って屑じゃないからな」
……気づかなったフリをしておいてなにを言うという話。
こいつの笑顔を曇らせたのは姉貴で、笑顔を元に戻させたのも姉貴――ではないか。
色々と考えて行動していたに違いない、ひとつの選択ミスでより酷いことになっていたこともある。
が、結果としてこいつは楽しそうに笑っていると、下手に介入しなくて良かったと俺は思った。
「あっ、私は君を見たことあるかもっ」
「だろうな」
「最低だよね、泣いている時とかに限って来たんだから」
「仕方ないだろ、通学路で泣いてたら必ず出くわすだろ」
「でも可愛かったなあ、あの頃は小さくてぺこりと頭を下げてくれてさ!」
しょうがねえだろ、目が合ったらそうするしかない。
さすがに完全に無視して歩くことなんてできない。
何度も言うがそれで「大丈夫か?」の一言も聞かなかった悪い奴が俺だが。
「悪かったな、なにもしてやれなくて」
「別にいいよ、君が弟かどうかもわからなかったしね」
「残念だがこの残念な姉貴の弟なんだよな」
「残念って言わないであげて、私への愛が行き過ぎちゃっただけなんだよ」
「ははっ、確かにそうみたいだなっ」
いまだってこっちを睨んできていやがる。
付き合えたら付き合えたで取られないようにするのが大変だといいうことか。
それにしても自己満足の謝罪ってなんとも言えない気持ちになるな。
だがまあ、謝りもせずずっと引っかかっているよりはマシか。
「おい馬鹿姉貴、君枝のこと大切にしろよ?」
「よしに言われなくてもするよ! もう連れて行くからっ」
それはありがたいね。
なぜならいまから課題をやろうと思っていたから。
やかましいのがふたりもいたら集中できないからなと内心で呟いた。