03
どうすればいいかを真剣に考えている。
で、3日前の夜からずっと考えているのに答えは出てくれない。
普段は年相応の女の子だから拒絶するのは心苦しい。
おまけに学校では欲情したりしないからというのもある。
「君枝の匂いがする」
「洗濯洗剤の匂いだけどね」
私のジャージの上着を着て可愛らしく笑っているのがまたなんとも。
だめだ、確実にDVをされても逃げることもせずに戻ってきてしまうタイプだ。
「あーあ、君枝と同じクラスだったら良かったのに」
「やだよ、そうしたらあれ以上に酷いことされてたでしょ」
「……そこまではしてなかったでしょ」
同意がないのにしたらだめなんだよ。
阿木さんも敵視はせずに普通に会話するようになった。
それは円花も同じこと、同性だからってノーカウントにできるわけじゃないけどね。
「梨音は次体育でしょ? 早く行きなよ」
「これ借りたままでもいい?」
「別にいいから行きなって」
「行ってくる!」
いまのままなら従順なわんこみたい。
が、時々甘えではなく欲情してしまうやばい獣みたいな子。
どうやら手を繋いだ状態なら色々と満たされるみたいなので特別なにもしなくて済むのはいい。
「畦地さん、私たちも移動教室だけど」
「あ、そうだった!」
すっかり忘れていたが無事に授業開始前には着いた。
あ、体育をやっている生徒たちが見える。
気づけば梨音を探すことに専念していて、先生に怒られてしまったぐらい。
いやでも知っている子が体育とかやっていたら気になるじゃん?
学年で優秀な梨音がどのようにしているのか見てみたかったし。
おまけに友達がいるようならその子と友達になって任せたかった。
完全に任せることは不可能でも、少しずつ受け入れる形なら疲労せずに済むから。
なんか私が梨音の飼い主みたいだなと苦笑、まあ半分負担してもらうとしているんだけど。
「畦地さんっ、もう終わったよっ」
「あ、うん、戻ろっか」
そういえば手を握っていた時に痒くならなかったなと思い出す。
はぁ、どれだけ甘くちょろいのか、気持ち悪いとか言っていたのはなんだったのか。
「君枝ー」
「手洗いうがいはした?」
「うんっ、したよー」
この様子だと彼氏がいるというのは嘘だな。
先程だって必要な時以外はなにも話していなかった。
クラスの子と上手くやれている感じがしない、それはまあ私も同じようなものではあるが。
「お、そいつが気に入っているやつか?」
「うん、そーだよ」
え、あ、これが彼氏さん?
だったらキスでもなんでもしてもらえばいいのに。
まさか私のジャージを着ながらやるなんてないだろうしね、そんなことをしても意味ないしね。
「彼氏さんが来たならその人と食べなよ」
「は? 俺は梨音の彼氏じゃねーぞ」
「それなら誰が彼氏なの? 知っているなら教えてほしいんだけど」
その子に梨音を押し付けるから。
欲情する以外はハイスペックだから問題ない。
「こいつに彼氏なんかいねーよ、教室ではひとりでしかいねえからな」
「それならあなたは?」
「俺は梨音の弟だ」
「えぇ? またまたー、そんな冗談言っちゃって」
大きいのは身長だけにしてくださいよ。
4年間も一緒にいたのに知らないんだからそれはない。
だって私の家でだけではなく梨音の家でされることだってあったのだ。
しかもみんなが大体帰ってくるであろう19時近くまで、それなのに出会ったことないんだから。
お昼ご飯食べよーっと。
「いただきます」
偽の弟くんは教室内までは来なかった。
梨音は当たり前のように私の前の席に座って可愛らしいお弁当箱を広げる。
阿木さんは他の子と、円花は今日まだ1度も来ていないまま。
「今日もお母さんが作ってくれたお弁当は美味しいなあ」
「私のも食べてっ」
「え、媚薬とか入ってそう……」
彼女は「入ってないよ!」と必死だったので卵焼きを貰うことにした。
あ、優しい味だ、濃いめよりこういう味が好きだからなんだか落ち着いた。
「美味しいね、梨音が作ったの?」
「うん」
もう、他はハイスペックなんだから……。
本当に無許可でしてくれていなかったら恋していたと思う。
優しくされると弱いというのは昔から同じのこと。
「梨音はいいお嫁さんになれるね」
「ほんとっ?」
「でも、酷いことをする子でもあるからだめー」
「なにそれっ」
あとすぐに欲情するから相手をするのが大変そう。
ま、学校ではないから安心――と考えていた自分が馬鹿だった。
というか梨音関連に関しては馬鹿なことが露呈しまくっているからもういいか。
「君枝ぇ……」
「はいはい、どうしたのー?」
「笑っちゃだめ……」
「笑わなかったら指摘してくるくせに」
笑顔もどうやらトリガーになるらしい。
それだと不意のそれで影響を与えることになってしまう。
「私の無表情に興奮してたんじゃないの?」
「だからそれは……していくと段々君枝の顔が変わっていっていたからだよ」
つまり自分の手で相手の蕩けた顔を見られるから嬉しいということか。
本当に好き同士なら間違っていない思考、でも私たちは違う、歪な感じ。
「はい、手を握っていてあげるから」
「っふぅ……」
「んー、どんな感じなの?」
「意地悪ぅ……」
いや、意地悪をしてきていたのはあなたですが。
なんでこんな中毒者みたいになっちゃっているんだろう。
積極的にやったのは最後だけ、しかも1回だけで終わりだったのに。
それまではただされるままだった、転んでいる私を自由にしていたのは彼女だぞ。
とにかく触れるだけでこれって面白いな、可哀相とかそういうのはもうなかった。
同類になってしまうのは嫌だけどちょっと意地悪をしたくなって耳を撫でたらまあ言わなくてもって感じになった。
「梨音はさ、彼氏とかいないんでしょ?」
「……い、いるけど」
「じゃあその人にやってもらえばいいじゃん」
そう言うと彼女は黙った。
だって好きな人から触れられた方が満足できるはずなのに彼女はここにこうして存在している。
しかもそのうえで求めてくるのはつまりそういうことでしかないわけだ。
「それと、他の人にこうやって甘えてないよね?」
「す、するわけないでしょっ」
「円花にも阿木さんにもしてない?」
「してないってっ、他の子ともしてないよ!」
「そっか、なら許すよ」
あれ、なんか私も彼女みたいになってしまっているようだ。
こういうのは大変良くない、染まってしまう前に気をつけないと。
「ねえ、なんか意地悪になってない? やっぱり私が勝手してたから?」
「ううん、ちょっと調子に乗っちゃっただけ、もうやらないから安心して」
「だめっ! あ……」
「ふふ、ヘンタイさんなのは梨音の方だね」
やばい、こちらの腕に抱きついている彼女を見てるとゾクゾクする。
もう十分染まってしまっているのかもしれない、そういうのを利用して壊そうとしてしまっているし。
いまもこれからも歪なままということだ、これはもう私も救いがない。
「いいよ、自由にしてて」
「へ?」
「別に腕ぐらいなら抱いてもいいよ」
「……なにか企んでるの?」
「そうすればもっと梨音をその気にさせられるでしょ?」
できるのはお昼休みぐらいだけだけど。
こちらはなにもしない、彼女が自分ひとりで満足すればいい。
それを見て私は楽しむだけだ、うん、彼女となんら変わらないな。
「それで授業中も我慢できない体にしちゃおうよ」
「む、無理……」
「って、私が何度言っても聞いてくれなかったよね?」
「ごめん……」
「ふぅ、冗談だよ、でも腕を抱くぐらいなら許可してあげる」
真剣に悲しそうな顔で謝られると今度は申し訳なくなる。
一応最低限のは備わっているようだ、非道にはなりきれないと。
「ごめんね」
「私も……」
「ま、手を握るぐらいならしてあげるから」
お昼休みはこうして過ごすことになった。
それでも毎日欲情というわけでもなく、あくまで楽しいまま終えられることもある。
うん、楽しいと感じてしまっている時点でつまりそういうことだ。
「畦地先輩」
円花が来てもある程度は梨音の好きにさせておく。
なにか異変が起きてもこちらで対処できてしまうからだった。
「畦地先輩はすごいですね、そうやって受け入れることができて」
「うーん、やっぱり恨み続けるのは無理だよ」
「でも、私はそう思えません、いまからでも思い知らせたいぐらいです」
やはり円花は正常で。
体を強張らせている梨音を差し出す。
「えっ?」と声を漏らした彼女には悪いが、許されることではないのだから。
「円花に任せるよ、私は別のところにいるから」
「ちょっと君枝っ!?」
「だめだよ、しっかり責任を取らないと」
あとは全て円花次第。
酷いことをされるか、結局なにもされずに終わるか。
さすがにここで味方をすることはできなかった。
屑でいい、元々自分が綺麗な人間だとは思っていないから。
その後に梨音が来ることはなかった。
変わらず一緒にいてくれる阿木さんと一緒に帰って、途中で別れてそれぞれの家に。
いつもと同じく19時ぐらいまでは両親が帰ってこないからそれまで勉強及び晩ご飯の準備。
両親が帰宅してからは一緒に食事を摂り、先に入浴を済まさせてもらって部屋に帰還。
「まだ21時か」
色々やれることはあるけど、だからこそやる気が起きないという時もある。
そういうのもあってベッドで寝転んでいた時だった、梨音から電話がかかってきたのは。
「お昼のことなら謝らないからね」
「……いまから会いたい」
「どこで?」
「近くの神社、待ってるから」
会いたいではなく会いにこいってことじゃないか。
放置はできないからすぐに向かった。
私は彼女を売ったようなもの、なにをされてもおかしくない。
が、一緒にいるために必要なことだったのだ。
それは被害に遭った人間によって変わること、円花は私みたいにできなかったというだけ。
「梨音ー? わっ――刺されると思った」
「しないよ……そんなこと」
スマホのライトで照らしてみた結果、特に暴力を振るわれたというわけではないようだ。
お腹とか見えないところもちゃんと確認したから大丈夫、本人は恥ずかしそうな顔をしていたけど。
「円花はなんて?」
「……もう2度と無理やりしたりするなって」
「はははっ、正論だね」
あ、だけど泣いたんだとすぐにわかった。
それだけじゃないな、言葉でボロクソにぶつけられたのかもしれないと予想する。
とはいえ、そのことについては特に聞かずにベンチに座る。
「私、梨音と一緒で屑なんだ」
「……君枝は違うよ」
「あ、じゃあ偽善者かな、円花に渡しておきながら暴力を振るわれてないかチェックしたから」
「そういうことはされてないよ、円花も泣いちゃって……ずっと謝ってただけ」
「なら私だけが悪者かもね」
こうやって口にして「あなたは違うよ」と言ってもらおうとしているところとか。
「あ、それで呼んだ理由は?」
「……離れたくない」
「今日のお昼のは裁きを受ける義務があると思ったの」
「うん……」
自分でも驚くぐらい簡単になにかしてくるかもしれない人に渡すことができてしまった。
やはり私も許せないと考えているということだろうか、そうされて当然だと考えてしまうのは。
ま、ここまではっきり態度に出せば嫌ってくれるだろうと思っていたのにここでも逆の結果に。
「私は平気で裏切るような人間なんだよ?」
「君枝の言う通りだよ、私は円花からなにかをされても文句は言えない」
「なら私がしてもいいの?」
「嫌だ……君枝だけにはされたくない、冷たい顔で見られたくない……」
私も彼女も依存してしまっている。
なんだこの安心感は、なんだかんだ言っていても彼女がいてくれていいと考えていると。
「わかったよ、円花関連以外の時ならちゃんと側にいてあげるから」
「ほんと……?」
「破ったら死ぬ、なんてことは言えないけどね、単なる口約束だけどあとは梨音が信じるかどうかだよ」
綺麗で真面目な阿木さんと過ごすよりは気を遣わなくていい。
手を握っておくだけで満足して側にいて求めてくれるのならこれでいい。
「今日は一緒にいてほしい」
「いいよ、どっちで?」
「君枝の家」
「わかった、じゃあ帰ろ?」
寂しさから暴走しないように私が管理しておかないと。
これはもう意地悪がしたいとかそういうことではなかった。
私が原因でこうなったのなら責任を取って見ておかなければならないと思ったのだ。
「ほら、転びなよ」
「うん……」
少し前までならこんな大人しい彼女は見ることができなかった。
こちらの手を握りながら転んでいる最中にも震わせている様子に複雑な気持ちになる。
「まだ怖いの?」
「……でも、罰を受けて当然だから」
「本当はなにを言われたの?」
「君枝から離れろって、何度も……」
普通ならそうだよなあ。
けど、私は円花たちと違って普通じゃないと最近わかった。
そうであるならばと開き直れるきっかけになったのは大きいけど。
「なんで円花にもしちゃったの?」
「……言わなきゃだめ?」
「別に言いたくないならいいよ」
「ひとりで寂しそうに泣いていたから、その時の1回だけ」
「え、あ、常習的にやっていたわけじゃないんだ」
「それは君枝にだけだよ」
嬉しくないよ? というかなんで悲しそうなところにしちゃうんだよ。
気持ちは物語の主人公的な感じでいたのかな、あ、でも、円花があまり被害に遭ってなくて良かった。
「全部、私が悪い……」
「違うよ、私も悪いから」
「……なんで? 言っていることが全然違うよ?」
「気にしなくていい、私も同類として側にいるから安心して」
ま、こんなやつにいられても負担にしかならないだろうけど。
「梨音、私の前では楽しそうにしてて。でも、調子に乗ったらだめだよ? 阿木さんや円花を馬鹿にしたりしたら怒るから、私にならある程度なら許してあげるからさ」
「……もう調子に乗らない、君枝がいなくなったら嫌だから」
「うん」
これで良かったことにしておこう。
一緒にいることを楽しいと感じているのだから悪くはないはずだった。




