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ぼっち令嬢と元竜王  作者: ゆるゆる堂
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第4話 ゆめのつづき

 気がついた時には、私はここに召喚されていた。

 召喚されたとすぐにわかったのは、突然知らない場所にいたから、私座り込んでいる床に変わった模様が描かれていたから、そして顔が見えない深いフードを被った人たちが「召喚が成功したぞ!」と叫んでいたからだ。

 本が好きだった。異世界に召喚されて勇者になる、なんてお話も読んでいたから、状況把握はすぐにできた。

 でも、わかった次の瞬間に恐怖で身体が固まった。

 召喚される?そんなことが自分に起きるなんて、ありえない。

 だって、あんなのはファンタジーじゃないか。起きるはずのないことを空想して楽しむ、物語のはずじゃないか。

 けれど床の冷たさは、いやにリアルで、夢じゃないんじゃないかなんて馬鹿げた考えが頭の中を染めていく。

 いいや、夢だ。夢のはずだ。


「ああ、これでこの世界は救われる」


 私の周りを囲んでいたフードの人の1人が突然ああっ、と泣き出す。

 うんうんと頷きながら、次々とフードの人は喋り出した。


「さて、竜王様にはいつ渡す?」

「早い方が良かろう。召喚された人間はすぐに弱るというから」

「では、竜王様に呼ばれたらすぐに渡せるようにしなくては」


 大人たちはそんな話で盛り上がって、私はただそれを呆然と眺めることしかできなかった。

 ちらっと見えた大人たちの手が、明らかに人のそれじゃなかった。

 やっぱりこれは夢だ。これは夢なんだ。

 声に出さないでなんども呟く。

 夢だからすぐに目が醒めるはずだ。

 目が覚めればお母さんが朝ごはんを作ってくれて、いい加減くたびれたランドセルを背負って学校に行って、友達と昨日のドラマの話をするんだ。

 早く覚めろ、早く目覚めて。

 そう願うのに、目の前の景色は一向に変わらない。

 私の両手と両足には重たい枷が嵌められて、その枷に着いた鎖を引っ張られて、召喚された場所からさらに奥に 進んだ、鉄格子のついた一角に入れられた。

 枷が擦れて痛い。

 血が滲んでいる手足を見ながら、涙が溢れてきた。

 なんで私がこんな目に合わないといけないんだろう。

 お母さんについた「宿題ないよ」なんて嘘のせい?

 お父さんにわがまま言って買ってもらったかばんのせい?

 お兄ちゃんのおやつ、こっそり食べちゃったせい?

 帰りたい。

 イケニエって、言っていた。私はその言葉を知っている。

 私はきっときっと殺されるんだ。

 怖い。怖いよ。

 帰りたいよ。お母さん、お父さん、お兄ちゃん、助けて。



***




 どれくらい時間が経ったかわからないけれど、フードの人たちは、見た目は今まで食べていたような姿をした食事がもってきた。

 でも、とても食べる気にはなれない。

 食欲なんて初めから持ってなかったみたいに、全くお腹は減らない。

 私の中にあるのはただ、恐怖と、帰りたい、その思いだけだ。

 こわいよ、かえりたいよ。

 そう思うと、やっぱり涙は止まらなかった。

 身体中の水が、全部涙で出てしまうんじゃないか。

 変に冷静な気持ちががふっとわいて、でもすぐにまた恐怖に塗り潰される。

 そんな風に泣いてばかりいると、フードの人たちが、鉄格子の向こうに集まって、こちらをジロジロと見てきた。


「なんだこの人間は、泣いてばかりじゃないか」

「人間の子どもは泣くものだそうだ」

「じゃあこれが正常な状態なのか?」

「そうじゃないか?」

「しかし飯も食ってないぞ。このままじゃ竜王様に捧げる前にヒョロヒョロになってしまうんじゃないか?」

「参ったな。もしそのせいでお役目を果たせなかったら困ってしまうぞ」

「無理矢理でも口に突っ込めば、飲み込むんじゃないか?」

「そうだそうだ、そうしよう」


 そんな会話の後、フードの人たちは鉄格子の中に入って私を囲んで、後ろから動けないように抱えると、見た目からは想像のつかない、泥のような味のする食事を私の口の中に突っ込んだ。

 ひどい匂いと味と感触に、思わずむせて吐き出すと、それをまた拾って口に押し込まれる。

 私がなんとか一口飲み込むまで何度も、何度も繰り返されるその行為は、なにかで読んだ「ごーもん」というものじゃないか、と思った。

 なんで、なんで。


「なんで」


 思わず出た声に、フードの大人たちはくびをかしげた。


「お前が、この世界を救うためにきたからだ」

「光栄だろう」

「お前自体はちっぽけなものだけど」

「そんなちっぽけなお前がこの世界を救えるなんて、ほら幸せだろう」


 ぼたぼたと涙が落ちる。

 意味がわからない。

 なんで。

 なんで。

 なんでこんな目に合わないといけないの。

 当然来ると思っていた、いつもの明日が来ない。

 そんなこと想像したことすらなかった。

 たすけて。

 だれか、だれか、助けて。








「あ、れ…?」

「お嬢様!!」


 はっと目が覚めると、私は自室のベッドのうえに寝ていて、ベッドの横には半泣きのエレナがいる。


「ご気分はどうですか、お嬢様。あ、ああ、旦那様と奥様をおよびしないと、お医者様も…!」


 すぐに医者が呼ばれ、多少の貧血以外身体的には特に問題なし、という評価を受けるまで私はベッドから降りることも、起き上がることすらさせてもらえなかった。

 慌てて集まってきた家族やメイド達が部屋から出て、一通りの食事を終えた後、エレナから詳しく聞いた話によると、ジェイク様が来たあの日から丸2日私は眠っていたのだと言う。

 ときおり、涙を流しながら、どんなに声をかけても起きることはなく、ただただ眠り続けていたそうだ。

 倒れたとき、ジェイク様に対して「リーアに何をした!」お父様がつかみかかった、なんて話を聞いたときは肝が冷えたけれど、その際、ジェイク様は自身が≪転生者≫であることを明かして、そしてしていた会話の内容も全て お父様とお母様にお伝えしたらしく、そちらの方が驚いた。

 彼は王子で、自身の弱みになるかもしれないことは簡単に人に伝えるべきではない。

 お父様もそれはすぐに理解して、ジェイク様が私に何かをしたわけではないと信用したらしい。

 貴族として、王子の誠意に答えないわけにもいかない。


「ということは、お父様はお咎めなし、なのよね?」


 一応の確認をすると、エレナは頷いた。

 ほっと一息ついて、エレナに促されるままもう一度ベッドに横になる。

 しかし、丸2日寝ていたというのに、まだ、眠い。

 夢の中の私が、私を呼んでいるような、そんな感覚がする。

 またウトウトとし始めた私にエレナは不安そうに私を覗き込んでくる。


「お嬢様?」


 安心させたくて、微笑んで見せるが、どうしても、眠い。

 意識が、ゆっくりとまた夢の世界へ落ちていく。

 ああ、そういえば。


「ねえ、エレナ。私の前世、もしかしたらとても、悲惨なものなのかもしれないわ」

「え?」


 だってね。


「私は、日本の小学生で、ただの子どもだったのに」


 そう、ふつうの、どこにでもいる、小学生だったのに。


「お嬢様?」

「どうして、こんな目に合わないといけないの」


 帰りたい。


「お嬢様!」

「帰りたい。私はお家に、帰りたいよ…」





 帰りたい。

今日はここまでです。

明日からまた投稿します。

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