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古の文言と怒りの鉄槌

 「…ん…」


…ーーー沈んでいた意識が浮上するのを感じる。


 私はぱちりと目を開いた。


 目の前には見慣れぬ渋色の木の天井が広がっていた。


「何処ここ…」

 

私の家ではない事は確かで、慌てて上体を起こした。


 部屋を見回すとここは和室で、とても広い事が分かる。壁に面する四面(よんめん)が白い(ふすま)で閉ざされていて、部屋の中には私以外には誰もいない。

 私はポツンとただ一人、広い部屋の中央に敷かれた白い敷布団の上で制服のまま寝てかされていたらしい。


 ( いや…怖いんですけど )


 私は起き上がる際に跳ね除けた白い掛け布団をそっと半分に丁寧に折り畳むと、枕元に置かれていた私の通学鞄の中から携帯を取り出した。


「え。なんでこんな時間……って、あ!」


 時間を確認すると現在時刻の所に23:30と表示されているのを見て私の顔からサァーっと音を立てて血の気が引いて行くのが分かった。

 慌てて自宅に電話をかけるとプルルルル…という長いコール音の後に、祖母が電話に出た。


『もしもし』


「おばあちゃん! 私、トウカ(灯歌)だけど」


『あら、トウカちゃん。こんな夜更けにどうしたの? やっぱり寂しくてお電話してきちゃったの?」


「……え?」


 電話口でコロコロと笑っている祖母に私は唖然とした。


「いや、そうじゃないんだけど、私、今日おばあちゃんに電話した?」


『ん? トウカちゃんのお友達がお電話してくれたのよ。今日は放課後に勉強会をしていたのでしょ? 途中でトウカちゃんが寝てしまったから、起こすのも可哀想だし泊めてもいいですかってわざわざお電話を掛けてくれたみたいでね。丁寧で優しい子ね。後でちゃんとお礼を言いなさいね?』


「………あ、うん。( なんとなく )分かった。こんな夜遅くに電話してごめんなさい、おやすみなさいおばあちゃん」


『ふふっ、おやすみトウカちゃん、また明日ね……ブッ…ーーー』


 切れた電話からはツー…ツー…という音がした。




「…はぁ。何勝手な事してくれてんですか」


 とりあえず今日は家に帰れない事が確定してしまった私はやる事もなく正座して待機する事にした。


 きっとここはあの男子生徒の家なのだろうな。なんとなく眠気が来たところまでは覚えてる。それにしても連れて来る前に起こしてくれればいいものを。ちゃっかりおばあちゃんにまで電話して何を考えいているの。ていうか勝手に携帯見られたし。

 今日はおかしな事ばかりが起こる。厄日だろうか。

 私は強い疲労感を感じて大きなため息を吐いた。




 私の足が痺れ始めた頃、不意に襖の向こうから複数の足音が聞こえてきた。

 スッと静かな音を立てて開かれた襖の向こう側にはあの男子生徒と女子生徒二人がいた。


( あ…よかった。ちゃんと元に戻ったんだ )

 私が内心安堵しいているうちに三人は部屋に入ってきた。


「目が覚めたのね」

 ふわふわの髪の女子生徒がそう言っておっとりと微笑んだ。


「体は大丈夫? だるかったりしない?」

 セミロングの彼女は眉をハの字にして私に問いかけた。


 どうやら眠ってしまった私を心配してくれているようだ。

「あ、はい。大丈夫です。ただ寝てただけなので」

 戸惑いながらもはっきりと答えると、二人は「よかった」と安心したように微笑んで私の居る敷布団のすぐそばに正座した。

 無言を貫いてはいるが男子生徒も二人と同じく近くに座った。


「あの…!」


 そう声を出したはいいが私はそこで戸惑った。

 三人には言いたい事は山ほどあるが、逆に言いたい事がありすぎて何から聞いていいのやら分からなくなってしまったのだ。

 言葉に詰まって何も言えない私に男子生徒は無表情で言った。


「落ち着け。どうせお前は今日はこの家に泊まるんだ。明日は休みだし時間なら余るほどある」


 私はぱちりと瞬きをした。

( …ああ、確かに! )

 言われてみればその通りだ。

 どうせ明日は休みだし、この異常な事態に私を巻き込んだこの人達を今度は私が夜更かしに巻き込んでしまえばいい。


 気を取り直した私は今一番気になっている事を聞く事にした。


「…じゃあ、遠慮なく聞きますね。私のおばあちゃんに電話した人だれですか?」


「「「………」」」


 沈黙が場を支配した。


 誰も何も言わない。私は絶対にこの三人の中に犯人がいると思ったんだけど…。…いや、ちょっと待てよ。三人の中で、一人だけ様子が違う人が一人だけいるじゃないか。


 一人だけ、無愛想な無表情で温度のない視線を浴びせてくる人がいた。

 男子生徒だ。

 女子二人は「何のこと?」と言いたげにきょとんと質問の意味を分かっていない顔をしている。


「ーーー貴方ですか。自称……私の友達という人は。おばあちゃん信じちゃってたじゃないですか。やめてください、勝手な事をされては困ります」


 呆れたように私が言えば、男子生徒は瞬く間に冷たいオーラを噴出させた。


「お前がいつまで経っても起きないんだから仕方ないだろ。お前の友達だなんて俺だって嫌に決まっているーーー」

 ーーーそんな事も分からないのか、この馬鹿が。

 そんな言葉が聞こえてきそうなあまりにも冷え冷えとした口調に私は盛大に頬を引攣らせた。

 

この野郎…! ぶっ飛ばしてやろうかしら!


 硬く拳を握って腰を浮かした私に女子二人がオロオロとしながらも言い募ってきた。


「ま、待って! 確かに今のはトウヤが悪い! だがこいつの取り柄は顔だけなんだ! 顔だけは殴らないでやってくれ!」

 セミロングの彼女が慌てたように言った。


「そ、そうよ! トウヤは顔しか取り柄がないの! 顔だけしか取り柄がないくせに学校には一丁前にファンクラブがあるのよ! だから、だから殴るのならせめてお腹とかにした方がいいわ! トウヤの顔に何かあったら彼女達が黙っていないから…! 」

 ふわふわの髪の女子は拳を握りながら私にそう助言した。



「……ふっ」

 私は思わず笑ってしまった。

この二人も、どさくさに紛れて結構な事を口にしたなぁ。

 

慌てる二人に私は言った。

「いや…あの、そんなに心配しなくても別に殴りませんよ」


 言葉を聞いて二人はホッとしたように正座し直した。

 

そんな二人と見て私は内心でクスリと笑った。


ーーーまあ正直殴りそうにはなったけどね。

 優しい二人に免じて、私は ” 心の中 “ で男子生徒を思いっきりぶん殴ってやった。






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