王女に名前を
カツン、カツンと塔の中に階段を下りていく音が
響く。
帝国の皇子に抱えられながら塔から出るなど、この国の人間に見られたら私は処刑でもされてしまうんじゃないかと、怖くなってどうにか腕から抜けだそうともがいていたが全くびくともしない。それどころか気にする様子もなく2人は会話していた。
「それにしてもやけに軽いな。体もすぐに折れてしまいそうなほど細い。」
「ジェラード、それは女の子に対して失礼だろ〜。でも本気なの?帝国に連れて帰るなんてお前らしくもない。俺は一応止めたからな。」
「全ての責任は俺が取る。面倒はかけるかもしれないがその時は借りを作らせてもらう。」
「お前に借りを作れるならいくらでも手助けするけど、名前もない王女様となるとねぇ〜。ちょっと厄介が起きるかもね。」
皇子の隣の彼がそう言いながら、考えこんでいる。
「そうか名前か。厄介はどうにかするとして名前がないとな。、、あなたは何か呼ばれたい名前はあるか?」
急に皇子に顔を覗かれながら聞かれて、私は腕から落ちそうになった。
「えっ、、、と、急に言われましても今まで「あれ」と呼ばれることしかなかったので。」
言った瞬間に皇子の顔が怖くなった。何か間違えて答えてしまったのだろうか。思わず助けを求めて隣の彼の顔を見ると困った笑顔を作っていた。
「もうこうなったらジェラードが付けなよ。誰も文句はないだろうしさ。」
「俺が!?まぁ、そうだな、、、、」
そう言いながら見つめられた。
「ダリア。ダリアという名前はどうだろうか?あなたの赤い目は帝国に咲いている赤いダリアの花ようだ。時期になると帝国のダリアは綺麗なんだ。」
ダリア?花はわからないが、私の名前?でもいいのだろうか。私のような人間に花の名前などもらって。ダリアという名前がある私。「あれ」という存在でなくなる私。この心臓が波打つ感情はなんだろう?
「気にいらなかったか?」
「、、、いえ!私の目は気持ち悪いと言われたことしかなかったので。綺麗な花の名前など名乗っても大丈夫でしょうか?」
「誰も文句はないだろうさ。君の目は気持ち悪くなんかない。ダリアの花が咲いている時期になったら見せよう。気にいるといいんだが。」
「ジェラード、、、お前が花に興味があるなんて知らなかったよ!でもダリア。ダリアちゃん!言い名前だね。今から呼ばせてもらうよ。因みに遅くなったけど俺は第二皇子の近衛騎士のルーディオン・キル。キルと呼んでくれていいから。」
皇子の隣の彼、キルさんは言いながらにお辞儀をした。
「あの、私。「俺でも花の名前くらいはわかるさ。ダリア、私のこともジェラードでいい。」
遮るように言った。
「そういう訳には、、、ジェラード皇子、キルさん。私に、、、名前をありがとうございます。」
そう、私の名前。ダリア。ダリア。ダリア。心の中で何度も繰り返す。嬉しい。初めて私という存在がある感じがした。
気づくと塔の外に出ていた。外は晴天で太陽が眩しかった。塔の中の小さい窓からみる空は小さく手を伸ばしても虚しいだけだった。今はどこまでも青い空に思わず手を伸ばしてみた。やっぱり何も掴めない。それでも何故か心は虚しくなかった。