王女は皇子のものに
第四王女視点になります。
私には名前がなかった。たまに誰かから「あれ」と呼ばれるくらいだった。価値などないように。
物心がついた頃には母と塔の薄暗い部屋にいた。あまり会話をした記憶がない母が死ぬ間際に父はこの国の王で母は召使いだったと言っていた。記憶の中の母は口癖のように
「お前など産みたくなかった。」と言っていた。
数年前に母が死んでから塔から出されるようになって、初めて外に出れる事に喜んだが、剣を持たされ獣の前に連れて行かれた。今思うと私を殺すために連れて行かれたのだろう。でも私は生きる為に、獣を殺した。気づくと返り血を浴びていて、後ろから声がした。「化け物だ。」と。
そしてその日から外に出されと、獣の前にいた。
いつからか戦争が始まったらしく、相手が獣から人間に変わった。手が震えて、心臓に剣がさすことは出来なかった私は相手を動かなくする程度だった。一緒に戦っていた人達は日に日に減っていった。戦場へ向かう馬車の中で家族の話や思い出を私に語ってくれた。自分の子供はやんちゃで手がつけれないと。貧乏でも幸せだったと。
皆優しかった。見張りの兵士に隠れて少ししかない食料を分けてくれたり、毛布を貸してくれたりした。もし私に価値があるならば彼らの思いを無駄にしないようにするくらいだろう。
私の人生で優しかった人達を助けられるのは今しかないと思って、帝国の皇子に言い切った。
どのみち、塔で飢え死ぬ運命ならば少しでもあの人達の為に死にたいと人生で初めて意見を言った。
「わかった。民のことは考えよう。だがあなたの首はいらないな。」
頭の上から予想外の言葉が聞こえて思わず、見上げた。
「この国の王と王妃は逃げ出して、その愚息達はあなたに罪をなすりつけようとしているのにあなただけは違うようだ。あなたのことは帝国に帰ってから考えよう。二日後には帝国へ戻る予定だから一緒に来てもらおう。」
「え?ジェラード!?何考えてんの!?」
「何って彼女を帝国に連れて行くつもりだが?」
「ちょっと無理があるでしょ〜!仮に敗戦国の人質っていう設定にしてもちょっとね、、、」
「あの、、、、私はここから出る事が出来ませんから、、その、、」
2人の会話を遮って、私は鎖で繋がれた足をみせた。
「不愉快だな。こんなものすぐに外そう。」
ーーーーガシャンーーーーー!!!
そう言いながらジェラード皇子は持っていた剣で鎖を切り離した。一瞬の出来事に私も一緒いた人も目が丸くなる。
「それとあなたの左足は怪我をしていないか?」
「えっと、、はい。でもどうして?」
「その傷は私が先の戦で私がつけたものなんだ。私とあなたは戦場で一度会っている。すまいな。まだ痛むだろう。」
言いながらに抱き上げられていた。
「えっと、ちょっと!!」
思わず拒みながら胸を押すがビクともしない。
「わ、私は多くの人を傷つけました。化け物と呼ばれて生きてきたのです。生きる価値などないのです。どうか離して下さい。この気持ち悪い赤い目も傷つける事しか出来ない手も私には何も価値がない。」
「価値などすぐに見つけるものじゃないだろう。それに化け物でもない。価値がないというならばこの国を含めてあなたは私のものだ。生きるためにあなたは戦ってきたのだろう?ならばその強さを私の為に使えばいい。」
返す言葉もなく私は彼を見つめた。