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4 救世主の僕(しもべ)

「リッカルドはどこ?」

「君はどうしてそんなに彼を気にするの?」


 転移した場所は、薄暗い部屋の中だった。じめじめとした匂いがするから地下だと思う。


「だってリッカルドは私の恩人で大切な人だもの」

「大切な人か。君を騙していたのに?」

「うん。嘘をつかれていたのは嫌だった。だけど、彼が私を拾ってくれて育ってくれた。それは嘘じゃないもの」

「確かにね。だけど、フラヴィア。ごめんね。リッカルドは殺されたんだ」

「ころ、殺された?」

「だって、君を八年も隠してたんだ。王様が怒っちゃって殺したんだよ」

「そんな、だって」

「だから、復讐しない。リッカルドを殺した王様に」

「ふ、復讐?」

「リッカルドはさあ、散々なぶられ殺されたんだ。どんなに辛かっただろう」


 ――フラヴィア。


 私は彼と離れるべきじゃなかった。

 王宮なんてくるべきじゃなかった。

 リッカルドとただ一緒にいて、それだけで幸せだったのに。


「フラヴィア。手を貸して」


 マヌエルが手をとったのがわかったけど、私はどうでもよかった。

 リッカルドがこの世界にいないなんて、信じられなかった。


 彼のおかげで私は生きてこれた。

 

 手がひやりと冷たい何かに触れた。

 すると部屋全体が大きく揺れ始めた。

 そうして、壁が、天井が、揺れに耐えれなくなって、壊れていく。


 大きな石の塊が降ってくるのが見えた。

 ああ、死ぬのか。

 リッカルドと会えるのかな。


 私は目を閉じた。

 だけど、石の塊は降ってこなかった。


 見上げると、そこには大きな石の人形がいた。

 細長い丸い体に、同じように細長い足と手。

 顔も楕円で、目のようなものは何もなかった。

 ただ胸に赤色の石が埋め込まれて、光っていた。


「これが、救世主の忠実なしもべか」


 そばにいたらしい、マヌエルさんがそういうのが聞こえた。


「フラヴィア。これは君のしもべだ。彼を使って王様に復讐するんだ。だってリッカルドの無念を果たしたいだろう?」

「無念?」

「そうだ。彼は苦しみの中死んでいった。その苦しみを王様に与えなくてどうするの?」

「リッカルド」

 

 頭の中に苦しそうなリッカルドが現れ、体のあちこちから血を流していた。

 そして私に助けを求める。


 すまないなんて、リッカルドは私にたくさん謝ったけど、謝るのは私。

 私のせいで、こんな辛い目にあって、彼は死んでしまった。


「そう、フラヴィア。リッカルドのために、戦わないと」


 何も、ほかの事は何も考えられなかった。

 気がつけば、私の、救世主のしもべは王様を殺していた。


「フラヴィア。リッカルドも喜んでるだろう。次はこの国を壊そうか。リッカルドを殺したこの国を」

「この国を、リッカルドを殺したこの国を」

「君の事を貶めたやつらがいたろう?そいつらも一緒に殺すんだ」


 貶めた? そうだ、私が食べ物を分けてほしいといったら、殴ってきた人がいた。石をなげられたこともある。

 リッカルドに会う前、お父さんとお母さんがなくなってから、私はみんなに嫌われていた。

 リッカルドが私を救ってくれた。

リッカルド。


「フラヴィア!」


 私のとがった耳が、ある声を捉える。

 その声は私が求めていた声で。


「フラヴィア?どうしたのさ」


 マヌエルが後ろから何か言っていたけど、どうでもよかった。

 私は声をする方向に石の人形を動かす。その肩に捕まって、彼の姿を探す。

 確かに聞こえた。


「フラヴィア!」


 ほら、確かに!


 踏みつけられた家のそばに、リッカルドがいた。

 本物のリッカルドが!


「リッカルド!」

「フラヴィア」


 私は石の人形に命じて、彼のそばに下ろしてもらおうとした。


「この悪魔が!」


 石が飛んできた。

 すると、人形がすばやく動いた。

 その手が石を投げた人を襲う。だけど、それよりも早く、リッカルドが動いていた。

 その人の代わりに彼は吹き飛ばされて、彼の体は地面に激突する。


「やめて!リッカルド!」


 私は人形の肩から飛び降りて、リッカルドの元へ駆け寄る。


「リッカルド!」

「フラヴィア……。どうして」


 リカルドの頭部から血が流れていた。

 体も力が入らないみたいで、だらりと横になったまま。


「リッカルド。どうしてここに?殺されたって聞いて、私!」

「そうか、そういうことか。マヌエル!」

 

 彼は唇を噛んで、その後に私に目を向けた。


「フラヴィア。すまない。俺がやつの狙いに気がついていれば。こんなことに」

「リッカルド。なんで謝るの?謝るのは私。こんな、せっかく生きていたのに」


 私は彼のそばでただ彼を見守ることしかできなかった。


「化け物め!」


 地面に降りたった私に向かって、罵声が飛ぶ。

 それはまるでリッカルドに会う前を同じ。


「私、王宮なんかこなければよかった。リッカルドと静かに過ごせるだけでよかったのに」

「俺も、俺がマヌエルに騙されなければ」


 リッカルドの命がどんどん血とともに流れていくのがわかった。

 だけど、どうすることもできない。


 罵声だけじゃなくて、石が私に向かって投げられる。

 すると、石の人形は動く。


「フラヴィア!これ以上人を殺すのはやめさせてくれ。頼む!」

「うん。わかってる。やめて!」


 だけど石の人形はとまらない。

 私を守ろうとしてくれてるみたいで。


「やめて!やめてよ!」


 殺さないで、お願い。 

 私は必死に頼むけど、人々の私への憎悪は止まらなくて、人形も動きを止めない。


 リッカルドは、そんな私をじっと見ている。

 私が人を殺している。

 リッカルドは、そんなこと望まない。

 私も望まない。だけど、人形は止まってくれない。

 それであれば。


 最初から私はこうすべきだった。

 リッカルドが死んでしまったと聞かされたときに。


 きらりと光るものを見つけ、私はそれを手にする。

 

「フラヴィア?なにを!」

「リッカルド。ごめんね。最初からこうすればよかった。先に行ってるから」


 私は震える手をもうひとつの手で支え、それを喉元に持っていく。

 そして突いた。


 血が溢れ出る。

 私はゆっくりと地面に倒れた。

 同時に、人形も動きを止めたのがわかった。


 よかった。やっと止まってくれた。


「フラヴィア!フラヴィア!」


 リッカルド。


 彼の声が聞こえなくなっていく。

 私の耳でももう聞こえなくなって。


 ああ、静かな世界。

 とても、静か。

 もう誰も私を傷つけない。

 

 ああ、でもリッカルドにはまた会いたいかな。

 会えるかなあ。リッカルド。


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