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1 世界一の魔法使い
「お前は」
お腹が空いてどうしようもなかった。
真っ暗で、誰もいないと思って窓から家に入った。
私の目は夜でも物がはっきり見える。
そして、私の尖った耳、それは些細な音でも聞き取れる、はずだった。
だけど、彼は音もなく私の直ぐ近くに立っていた。
魔法なのか、彼の杖が光を放ち、私を照らす。
息を飲む音がはっきり聞こえた。
悲鳴をあげるか、襲いかかってくるか。
男の場合は襲いかかってくる可能性が高い。
私は、目に入った食べ物、ぶら下がっていたソーセージを掴み、走り出そうとした。
「待て!腹が減っているのか?」
それは大きな声だったけど、怒鳴るようなものじゃなくて、私は足を止めてしまった。
すると、お腹がぐるぐると鳴き声をあげる。
「体は正直だな。そのソーセージはそのままだとイマイチおいしくないぞ。少し炙って、卵もつけてやろうか?」
彼は杖を下ろすとお腹を抑え、可笑しそうに笑いながら、そう言った。
そんな風に普通に私に接してくれたのは、両親を除いて彼が初めてだった。
彼の名は、リッカルド。
彼曰く、世界一の魔法使いらしい。