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せめて記憶の中にでも  作者: 鴻ノ木悠里
3/6

Tear drops 1:眠りに落ちる前に


六歳の頃の私は、物心がついた頃から続いていた幸せな生活の中にいました。

力持ちなお父さんと、料理上手なお母さんと、それから私。

憎しみのない国の、どこにでもいる普通の家族。

何か特別なことが起こるわけではないけれど、毎日を安心して過ごしていました。


その頃の唯一の不満といえば、地下室に入るのを禁止されていたことです。

好奇心旺盛だった私は地下室の中がどうしても気になって、中へ入ってはいけない理由すら教えてくれない両親を少しだけ不思議に思っていました。


どうしても気になった私は、七歳の誕生日の朝、両親が出かけたのを見計らって地下室に忍び込みました。

地下室の扉には鍵がかかっていましたが、お父さんの机の引き出しにしまってあることは知っています。

生まれて初めて悪いことをするドキドキを感じながら、重たい扉を開きました。


するとどうでしょう。

地下室の扉を開けるなり、大量の本の背表紙が視界の全てを覆います。

一体何冊あるのでしょうか、本がぎっしりと詰まった棚が、いくつもいくつも並んでいました。

私はなんだか夢の中にいるような気持ちで辺りを見回し、たまたま目についた一冊の本を手に取ります。


『エレノア魔法紀行』と書かれたその本がなんだか宝物みたいに感じられて、凄く嬉しかったのを覚えています。


その時、上の方から物音が聞こえてきました。

買い物に出かけていた両親が帰ってきてしまったのです。

本当はもっと探検してみたかったのですが、両親に見つかってしまうと怒られてしまうので、本を抱えて地下室を後にしました。


私が地下室へ忍び込むなんて考えもしていないのか、その日はいつも通りに過ぎました。

私の誕生日だったのでいつも通りだとはいえないかもしれませんが...。


ともあれ、私は本と鍵を隠したまま、その日一日をそわそわしたまま過ごしたのです。


次の日、私は本を持って一人で森の中に入っていきました。

普段から遊んでいた、私だけの秘密基地。

木陰に座って木に体を預けて、ワクワクしながら『エレノア魔法紀行』を開きます。


その時の感情を言い表す事のできる言葉は、今でも見つかりません。

魔法のある世界で、自分が大切に思うもののために旅をする人々が、なんだかとっても魅力的に思えたのです。


こんな魔法が自分にも使えたら、どれほど楽しいだろう、なんて。

私にも大切な人達を幸せにすることができるかもしれない、なんて。


今になって思えば、もしもこの本を読んでいなければ、私は今までの幸せな生活を、生涯続けていたのだろうと思います。




それからの私は、本の世界に嵌っていきました。

誰にも見つからないように一人で森に行って木陰に座り、夢中で本を読み耽る。

一冊読み終えればまた地下室へと忍び込み、新しい本を持ち出しては森へと出かけます。

地下室はもともと厳重に管理されていたわけではなかったようで、鍵を引き出しに戻さなくても気付かれませんでした。


何故入るのを禁止されていたのかは分かりませんでしたが、当時の私には大した問題ではありませんでした。

それほどに私は、本の教えてくれる新しい世界に魅了されていたのです。



そんなある日のこと、私はクラムに出会いました。

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