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自作小説倶楽部 第18冊/2019年上半期(第103-108集)  作者: 自作小説倶楽部
第108集(2019年6月)/「天気雨」&「逆転」
24/26

02 柳橋美湖 著  天気雨 『北ノ町の物語』

【あらすじ】

 東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていたのだが、実は祖父一郎がいた。手紙を書くと、祖父の顧問弁護士・瀬名が夜行列車で迎えにきた。そうして北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。お爺様の住む北ノ町は不思議な世界で、さまざまなイベントがある。……最初、お爺様は怖く思えたのだけれども、実は孫娘デレ。そして大人の魅力をもつ弁護士の瀬名、イケメンでピアノの上手なIT会社経営者の従兄・浩の二人から好意を寄せられ。さらには、魔界の貴紳・白鳥まで花婿に立候補してきた。季節は巡り、クロエは、お爺様の取引先である画廊のマダムに気に入られ、そこの秘書になった。その後、クロエは、マダムと、北ノ町へ行く夜行列車の中で、少女が死神に連れ去れて行くのを目撃。神隠しの少女と知る。そして、異世界行きの列車に乗って、少女救出作戦を始めた。異世界では、列車、鉄道連絡船、また列車と乗り継ぎ、ついに竜骨の町へとたどり着く。一行は、少女の正体が母・ミドリで、死神の正体が祖父一郎であることを知る。その世界は、ダイヤモンド形をした巨大な浮遊体トロイに制御されていた。そのトロイを制御するものこそ女神である。第一の女神は祖母である紅子、第二の女神は母ミドリ、そして第三の女神となるべくクロエが〝試練〟に受けて立つ。


挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ 奄美剣星 「雨に舞う白鳥さん」




     61 天気雨


 クロエです。お爺様の後を追って、浮遊体トロイ(別名「パンドラの箱」)に、乗り込んだ私たちは、全十三階層あるダンジョンのうち第二階層をクリア。次は第三階層に挑戦します。

     ◇

 私たちパーティーは第三階層に上がりました。

 階段を上りきった出口に立つと、ショー・ウィンドウ付の店の建ち並ぶ石畳の街路が、眼前にありました。

 そこに立った私を追い越して、白鳥さんが前に駈け出すと、使魔ちゃんがご主人様の後を追いかけて行きます。

 ほぼ同時に、殿方お二人が私の横に立ちました。従兄の浩さんと、お爺様の顧問弁護士・瀬名さんです。

「にわか雨!」

「白鳥君、少し雨宿りしよう。濡れ鼠になるぞ」

 けれど、先を駆けている白鳥さんは、後ろから飛んできた、一つ目蝙蝠の使魔ちゃんを、指でパチンと鳴らして傘に変えると、ステップを踏んでいるではありませんか。

 さらに遅れて、私が勤めている画廊マダムが、白鳥さんに声をかけました。

「あら、白鳥君、『雨に歌えば』を知っているのね。私、歌っちゃおうかしら」

(それってこないだ、マダムとネット・ビデオで視た、昔のハリウッド映画!)

 マダムは声楽風に、主題歌を口ずさむと、広げずスティックにして、街灯のポールに柄を引っかけ、クルクル回りだしました。

 その手前にある、街路の植え込みには、紫陽花が咲いていて、葉の上を蝸牛がモゾモゾとうごめいていました。

「キャー、素敵!」

 と、黄色い声を上げたのは、地下鉄風の出口で雨宿りをしていた私たちを追い抜いて、外に飛び出した、第二階層の三人娘の皆さんです。――いえ、厳密に述べると、三人のうちのお二方、金の鯉さんと銀の鯉さん。和服を着て歓声を上げているお二人を制するかのように、三人目で、宙に浮かぶ真鯉を従えた、黒の裁判官服で装った、未必の鯉さんが、咳払いをしました。

「第三階層の別名は、〝天気雨フロア〟ともいいます。ここは、お天気がコロコロ変わるフロアなのです。第四階層へ上るためのルールを説明いたしましょう。皆さんのパーティーの中で、二階層との連絡階段をスタート地点、四階層との連絡階段をゴールとして、まったく濡れなかった方が一人でも出れば、ミッション・クリアです」

「えっ、君たちって、パーティーに加わったんじゃなかったの?」

 と、浩さん。

「私たちは、各ダンジョン・フロアで発生するイベントのジャッジ(審判)です」

「私たちは、チア・リーダーも兼ねていますわよ」

 中空に浮かぶ金・銀の鯉を従えた、和服姿の金の鯉さんと銀の鯉さんが、悩ましげな視線を浩さんに送ります。

 ――チア・リーダー? 和服ってパンツはかないんだったなあ。あんなふうに脚を上げるのかなあ。

 とでも考えているのでしょうか、浩さんは顔を綻ばせています。

 浩さんの言葉には反応せずに、瀬名さんが、素朴な疑問を呈します。

「雨にまったく濡れないでゴールする。このフロアでそれを達成する確率はとても低いのでしょう? もし全員がミッションを達成できない場合は?」

「ご心配なく。服を乾かしてから、再チャレンジして下さい」

 マダムが目を丸くして未必の鯉さんに食って掛かります。

「服を乾かすのには、半日から一日かかる。それを延々とやっていたら、ミッション・クリアまで、何日もかかっちゃうじゃない」

 私たちが各自携帯している食糧は三日分です。三日以内に、第三階層を突破しなくてはならないわけですが、その上にはあと十階層もあるのです。やはり、一回で突破しなくてはなりません。

 浩さんが、冷めた目で、街灯に傘を引っかけてクルクル回ったり、ステップを踏んでいる白鳥さんを指さしました。

「するってえと、あいつがスタートするのは、早くとも半日後かよ……」

(白鳥さん、楽しそう)

 私たちパーティーで、もっとも機敏に動ける白鳥さんは、すでにずぶ濡れになっいます……こんなときに限って……。

         *

「そういう事情でしたか。愛しいクロエさんの前では、常にイケメンでなかればならならい僕としたことが……。お詫びの印に、僕の使い魔を偵察に出しましょう」

 そこで金の鯉さんと銀の鯉さんが、未必の鯉さんのほうを見やります。

「偵察ってあり?」

「問題ないみたいです」

 裁判官服の未必の鯉さんが、小脇に抱えた判例辞典をパラパラめくって答えました。

 白鳥さんが、腕に停めていた一つ目蝙蝠の使魔ちゃんを曇り空へ放つと、「ならば」と、瀬名さんと浩さんが、護法童子くんと電脳執事さんを後に続かせました。

 五分ほどして、護法童子くんが、電脳執事さんを引きずって戻ってきました。

 使魔ちゃんの顔の大半を占める一つ目は、再生モニターにもなるようです。

 使魔ちゃんたちは、迷路状になった石畳の街角をジグザグに抜けて、ゴールとなる第四階層近くまであと一歩というところになりました。そこで、雷雨となり、電脳執事さんに稲妻が走ります。

 電脳執事さんを作った浩さんは得意げに言います。

「こんなときに備えて、僕の電脳執事には、アース・システムが装備されているのさ」

「アース・システム?」

 マダムが聞き返すと、白鳥さんが巻き戻しスロー再生をした、使魔ちゃんの目ん玉モニターを指さして、「よく見てみろ」と、落雷直前の電脳執事さんを指さしました。

 あっ!

 電脳執事さんは、頭上に両手を上げてピラミットの形を作っています。雷光は、左右に拡散したため直撃を避けることができたようです。

「けどまあ、失神くらいはご愛嬌ってもんだな」

「はい、よしとしましょう」

 道は憶えました。あとは走るだけです。

     ◇

 それでは皆様、また。

             by Kuroe 


【シリーズ主要登場人物】

●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。母は故ミドリ、父は公安庁所属の寺崎明。大陸に棲む炎竜ピイちゃんをペット化する。なお、母ミドリは、異世界で若返り、神隠しの少女として転生し、死神お爺様と一緒に、クロエたちを異世界にいざなった。

●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。妻は故・紅子。異世界の勇者にして死神でもある。

●鈴木浩/クロエの従兄。洋館近くに住みクロエに好意を寄せる。式神のような、電脳執事メフィストを従えている。ピアノはプロ級。

●瀬名武史/鈴木家顧問弁護士。クロエに好意を寄せる。守護天使・護法童子くんを従えている。

●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。魔法を使う瞬間、老女から少女に若返る。

●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。一つ目コウモリの使い魔ちゃんを従えている。

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