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自作小説倶楽部 第18冊/2019年上半期(第103-108集)  作者: 自作小説倶楽部
第107集(2019年5月)/「青葉」&「庭」
20/26

02 柳橋美湖 著  庭 『北ノ町の物語』

【あらすじ】

 東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていた。ところが実は祖父一郎がいた。手紙を書くと、祖父の顧問弁護士・瀬名が夜行列車で迎えにきた。そうして北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。お爺様の住む北ノ町は不思議な世界で、さまざまなイベントがある。……最初、お爺様は怖く思えたのだけれども、実は孫娘デレ。そして大人の魅力をもつ弁護士の瀬名、イケメンでピアノの上手なIT会社経営者の従兄・浩の二人から好意を寄せられ。さらには、魔界の貴紳・白鳥まで花婿に立候補してきた。季節は巡り、クロエは、お爺様の取引先である画廊のマダムに気に入られ、そこの秘書になった。

 クロエは、マダムと、北ノ町へ行く夜行列車の中で、少女が死神に連れ去れて行くのを目撃した。神隠しだ。……そして異世界行きの列車に乗った鈴木一家は、少女救出作戦を始めた。――そんなオムニバス・シリーズ。

挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ 奄美剣星 「金の鯉・銀の鯉・未必の鯉」




     60 庭


 クロエです。お爺様の後を追って、浮遊体トロイ(別名「パンドラの箱」)に、ついに乗り込んだ私たち。全十三階層のうち、第一階層は難なくクリア。階段を上って第二階層へ突入しました。

     ◇

 ダンジョンの第二階層は明るい日本庭園になっていました。回廊上の池があり、一回転してしか行けないゴールの登り階段は太鼓橋を模した形になっているのですが、「橋」のまん中に相当するところが天井に食い込んだ形で、「橋」の向こう側に相当する部分がない形です。そこまで行くには、飛び石を渡ってしか行けません。

「モネの絵みたいなところね。気に入ったわ。……ああ、なんて清々しい空気。抹茶とお団子が欲しい」

 私の横にいる魔法少女OBのマダムがそういうと、私たちの前にいる、お爺様の顧問弁護士・瀬名さん、従兄の浩さん、それから吸血鬼の白鳥さんたちが振り向いて、うなずきました。そして、

「また雑魚だと助かるんだがなあ……」

 瀬名さんがそう言葉を続けました。

     ◇

 ダンジョンの第二階層・日本庭園では、二つ目のコーナーを過ぎた回廊の中ほどに来ても、モンスターは現れませんでした。何事もなく、ゴールの太鼓橋に着いたとき、

 バシャッ。

 水から何者か跳ねあがりました。

 しかしそれは一メートル級の錦鯉でした。

「あれを売ったら五千万円は下らなそうだ。ああ、あれをお持ち帰りしたい。池の庭に離してペットにしたい」

 そこで、

 ――金の恋と、銀の鯉、もひとつおまけに未必の鯉どれが皆さんの鯉――

 太鼓橋の前の水面に浮かんだ睡蓮の上に、金と銀の和服姿をした女の人と、黒い裁判官服を着た女の人が立っていました。それぞれ、赤ちゃんを抱くように、大きな鯉を抱いています。

 ついにでました、モンスターさんたち!

「未必の鯉? もしかして裁判用語〈未必の故意〉のことか?」

「『泉の精』のおとぎ話かよ――〈未必の故意〉に引っ掛けて、〈密室の恋〉っていうダジャレがあるよなあ。―それにしても、ここのダンジョンって、僕たちを小馬鹿にしてやしないか」

 瀬名さんと浩さんは呆れた口調です。

(あのおとぎ話では鉄の斧でご褒美だったから、狙い目は黒の真鯉さん? ……いえいえ、ダメダメ、その手には乗りませんよーだ。たぶん、美女たちの誘いに乗って、金・銀・黒の鯉のどれかを自分のものだって主張したりしたら、三人の美女が実態を晒し襲い掛かってくるんだろうなあ)

 脱力ぎみな私たちは、気を引き締めて、戦闘フォーメーションをとりました。

 けれどそこで、マダムが何かを思いついた様子で、前衛にいる男性三人組が、護法童子くん、電脳執事さん、使い魔ちゃんの召喚攻撃をしようとするのを止めました。

「ねえ、白鳥くん。『イエロー・サブマリン』を歌ってみて。浩くん、スマホの配信音楽でビートルズを流してよ」

 白鳥さんの歌を初めて聞きます。こういうのをクリスタル・ボイスっていうのですね。そして開けた口からのぞいた白い歯が、水面と一緒にキラキラ輝いていました。吸血鬼は悪魔種族の一つだといいます。

(白鳥さんは、やっぱり悪魔だ!)

 三人娘は、モンスター化せずに、顔を赤くした上に、ウルウルした目で、

「私たちみんなで、貴方についていっちゃいまーす」

 と言って、白鳥さんに抱きつきました。

 「鯉」が「恋」に変わった瞬間。

(戦闘というよりロジック・プレイ……こんなのってあり?)

 そして……。

 思わぬ援軍を得た私達は、太鼓橋風の階段から、第三階層へ昇ります。

     ◇

 それでは皆様、また。

             by Kuroe 

【シリーズ主要登場人物】

●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。母は故ミドリ、父は公安庁所属の寺崎明。大陸に棲む炎竜ピイちゃんをペット化する。

●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。妻は故・紅子。

●鈴木浩/クロエの従兄。洋館近くに住みクロエに好意を寄せる。式神のような、電脳執事メフィストを従えている。ピアノはプロ級。

●瀬名武史/鈴木家顧問弁護士。クロエに好意を寄せる。守護天使・護法童子くんを従えている。

●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。魔法を使う瞬間、老女から少女に若返る。

●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。一つ目コウモリの使い魔ちゃんを従えている。

●神隠しの少女/昔、死神にさらわれた少女と思いきや、実は若返った母親ミドリ。

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