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自作小説倶楽部 第18冊/2019年上半期(第103-108集)  作者: 自作小説倶楽部
第106集(2019年4月)/「新天地」&「スーツケース」
18/26

03 柳橋美湖 著  新天地 『北ノ町の物語』

【あらすじ】

 東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていた。ところが実は祖父一郎がいた。手紙を書くと、祖父の顧問弁護士・瀬名が夜行列車で迎えにきた。そうして北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。お爺様の住む北ノ町は不思議な世界で、さまざまなイベントがある。……最初、お爺様は怖く思えたのだけれども、実は孫娘デレ。そして大人の魅力をもつ弁護士の瀬名、イケメンでピアノの上手なIT会社経営者の従兄・浩の二人から好意を寄せられ。さらには、魔界の貴紳・白鳥まで花婿に立候補してきた。季節は巡り、クロエは、お爺様の取引先である画廊のマダムに気に入られ、そこの秘書になった。

 クロエは、マダムと、北ノ町へ行く夜行列車の中で、少女が死神に連れ去れて行くのを目撃した。神隠しだ。……そして異世界行きの列車に乗った鈴木一家は、少女救出作戦を始めた。――そんなオムニバス・シリーズ。

挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ 奄美剣星 「呪文」




     59 新天地


 クロエです。吸血鬼・白鳥さんのお話によると、浮遊体トロイの別名は「パンドラの箱」で、それが解き放たれたとき、情報ウィルスがまき散らされ、世界がフリーズしてしまうのだとか。これまでは、紅子お婆様が制御していたのですけど、体力的な限界から、私と交代する必要があるのかもしれません。

     ◇

 お爺様が、お婆様から頂いたマフラーを宙に放り、呪文を唱えると、浮遊体トロイの入口が開き、吸い込まれていきました。

「なるほど、呪文って、考えてみたらパスワードなんだな」

 浩さんが感心して見ていると、尖った底にある入り口から、四角いトレイが降りてきました。お爺様はそれに乗り込むとトロイの開閉口に入って行きました。

 先に行ったお爺様の後を、私が、瀬名さん達と追い駆けようとしたとき、若さを保ったままのお婆様・紅子と幼女姿になった母・ミドリは、動こうとしません。

 母は、「これは、クロエ、あなたがトロイを制御するために、乗り越えるべき『壁』よ。私とミドリは、ここ、龍の墓場で、あなた達の帰りを待つことにするわ」と言いいました。

 さらにお婆様が、トロイのマップを私に手渡すと、こう付け加えました。

「見ての通りトロイは、ダイヤモンドのような形をした八面体の浮遊建造物で、全十三階層からなっています――最上層の尖ったところにあるのが制御室、対極にある最下層の尖ったところが出入口。つまりそこが最もフロアが狭くなっている。逆に、中間にある第七階層は最も広いフロアで、多くの部屋があり、通路も迷路のように複雑、第七階層とその前後にあるフロアは、通り抜けるのが最も困難です」

 IT企業の社長をしている浩さんは、「まるでゲームのダンジョンみたいだ」と目を丸めていました。

     ◇

 お婆様に教わったパスワ……というか呪文を唱えると、浮遊体の底部にある、尖ったエレベータが再び降りてきました。私に続き、再び下りて来たのは、鴉画廊のマダム、瀬名さん・浩さん・白鳥さんの三人組、そして護法童子達・御三方の各守護者たちでした。

 母のミドリは、ピンク色をしたポシェットの中から、キャラメルを取り出して、「あげる」と言って、私にくれました。

 その厚意は、素直に受けることにしておきます。

 宙に浮いたリフトは、浮遊体の入り口で、尖った最下層フロアに入りました。

 マップによると、第十三階層と並び最も床面積が小さい第一階層。そこのリフト降り場はフロア中央にあります。リフト降り場から「口」の字に一回転した、壁の向こう側に、上階フロアへの昇り階段があるらしい……文字通りの回廊です。

 第一階層の四角くなったフロアにある四つの角のうち、第一の曲がり角のところに、魚眼人三体が待ち伏せていました。それから第三の曲がり角を曲がったところで、二頭の狼に出会いました。けれどもなんということもありません。「テレポーテーション」の呪文で、万年雪の山へ弾き飛ばしてやりました。

 浩さん、瀬名さん、白鳥さん、そしてマダムが先頭を小走りする私を追い駆けてきました。瀬名さんは怒った口調でこう言ってきました。

「これから、どれほどのモンスターが出てくるか分からないん

だ。雑魚は俺達に任せて、クロエは通力の『弾数』を温存しておけよ」

 言われてみればその通りです。まだ私は、自分の限界というものを知らない。だから素直に謝ることにしました。

 白鳥さんが肩をすぼめて言います。

「それにしても、『ストレイ・シープ』の中身がダンジョンで、要所にモンスターなんて、ゲームのお約束そのものじゃないか」

 マダムがそこに突っ込みを入れました。

「『ストレイ・シープ』って、夏目漱石の『三四郎』の第一ヒロイン・美禰子が呟く言葉よね。――白鳥君って、吸血鬼のくせに、文学青年なんだから」

「吸血鬼が文学青年と同義であるということに問題でも?」

 ――ストレイ・シープは、よく牧師さんが俗人を例えておっしゃるところの「彷徨える子羊」それを直訳すると浮遊羊になる。だけど、ここにいるのは浮遊するトロイの木馬――ちょっと違うと思いますが……。

 瀬名さんがあきれ顔です。

「これが映画の場面なら俳優達がピリピリしている場面だよ。ああ、なんて緊張感がないんだ」

 確かに。

 それから私が思うに、ここのところ、マダムと白鳥さんは、漫才コンビ化しているのではないでしょうか。

 そして……。

 私達が、第三の角を過ぎたとき、第四の角に寄ったところに上り階段があるのを見つけました。

 さあ、昇りましょう!

     ◇

 それでは皆様、また。

             by Kuroe 

【シリーズ主要登場人物】

●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。母は故ミドリ、父は公安庁所属の寺崎明。大陸に棲む炎竜ピイちゃんをペット化する。

●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。妻は故・紅子。

●鈴木浩/クロエの従兄。洋館近くに住みクロエに好意を寄せる。式神のような、電脳執事メフィストを従えている。ピアノはプロ級。

●瀬名武史/鈴木家顧問弁護士。クロエに好意を寄せる。守護天使・護法童子くんを従えている。

●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。魔法を使う瞬間、老女から少女に若返る。

●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。一つ目コウモリの使い魔ちゃんを従えている。

●神隠しの少女/昔、死神にさらわれた少女と思いきや、実は若返った母親ミドリ。

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