03 E.Grey 著 編み物 『極秘文書の件 3 公設秘書・少佐』
//粗筋//
公設秘書佐伯祐が、リムージンで、長野県月ノ輪村役場にやってきた。そこに努める助手で婚約者の三輪明菜を無迎えにきたのだ。リムージンが向かった先は、某財団の別荘だった。重大事件があったようだ。
挿図/Ⓒ 奄美剣星 「ロールスロイス」
3 編み物
佐伯は、問題の公用車ロールスロイスを検分した。
バールでこじ開けた様子とかはない。ただ、毛糸の編み物が後部座席にあった。
「やっだあ、センセイったらあ、銀座のママを乗せたんだわ。これはきっと、ママがセンセイのために、手袋かマフラーを編みかけたものよ」
佐伯は苦笑すると、「そのことはさておき」と私のコメントには答えず、後ろを振り返って、グラマエラスな美女に訊いた。
(何さ、フン)
失踪した建設大臣秘書官の水野ってどんな奴でしたか?」
公用車まで案内したのは、グラマラスな美女である建設省官僚・安田次官だ。コホンと咳払いをした。
「極秘文書を盗んで、仮想敵国ソヴィエトに売り渡すなんてとても思えない、真面目な人でしたよ」
「極秘文書を盗まれたとき、運転手は?」
「ちょうど、化粧室に行って外していたときでした」
「センセイは?」
「島村大臣は、建設省の大臣室に行っていたところです」
つまるところ、そこがポイントだ。大臣と運転手がいなくなった。その隙をついて、大臣秘書官は文書を奪って逃げたわけだ。
佐伯は腕を組んで考え込んだ。
「日本の華族制度は戦後すぐに廃止されたが、官僚の中には数代に渡って世襲している、一種の貴族家系がある。水野もそうだ。東大を上位で卒業し、大臣秘書官の職を得、いずれは自身が立候補してもおかしくない。そんな水野が、現在の身分と将来を捨てて、極秘文書を奪い、ソヴィエトに逃げ込む? よほどの見返りがあるはずだ」
ソヴィエトに亡命……。何をするのだろう? いや、男の考えそうなことは決まっている。カスピ海に臨む豪邸とロシア美女を与えられ、ハーレムにするのだろう。
佐伯は、編み物をハンカチに包んで、内ポケットに突っ込んだ。
巨乳の安田次官が前かがみになった。ブラウスなので、胸の谷間こそ見えないが、両の乳房がブランとなった。
(佐伯の気をひこうってわけだな、変態女!)
つづく
//登場人物//
【主要登場人物】
●佐伯祐……身長180センチ、黒縁眼鏡をかけた、黒スーツの男。東京に住む長野県を選挙地盤にしている国会議員・島村センセイの公設秘書で、明晰な頭脳を買われ、公務のかたわら、警察に協力して幾多の事件を解決する。『少佐』と仇名されている。
●三輪明菜……無表情だったが、恋に目覚めて表情の特訓中。眼鏡美人。佐伯の婚約者。長野県月ノ輪村役場職員。事件では佐伯のサポート役で、眼鏡美人である。
【事件関係者】
●島村代議士……佐伯の上司で建設大臣、衆議院議員。センセイと呼ばれている。本事件の依頼者だ。
●岸本会長……某財団会長。島村センセイの学友。中軽井沢に広大な別荘を構えている。
●安田次官……建設省官僚。グラマラスな美女。
●水野秘書官……国務大臣秘書官。