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 休日の朝はいい。


 例え目覚ましがなくとも、いつも通りの時間に目覚めてしまうのが社畜の社畜たる由縁なのかもしれない。


 しかしそこに休日というバイアスが加わることによって、二度寝という至福の時間の到来と相成る。


 寒さが増し始めた昨今。布団の中が聖域。いやさジャスティス。


 起きたい時間に起きれるっていいなぁ。


 チラリと視線が胸元で丸まっている黒い物体へと向く。


「そういうものに、わたしはなりたひ……」


 召喚したままの黒猫と同衾。まさかの初めての相手は人外だ。


 黒猫用に作った座布団と毛布の寝床はお気に召さなかったらしい。寒いもんな。


 色々と話して分かった。黒猫はペットとしてすこぶる優秀。


 まず排泄しない。ペットを飼うことを忌避する人の五割の理由が消失だ。躾の面で、もっとも困るトイレ事情がないというのだから便利。食べた物ってどこにいくんだろうね。


 次に毛が落ちない。抜こうと思えば抜けるのだが、抜け毛の類いはないらしい。つまり生き物じゃないという理解でいいかい?


 そして喋れる。人間の言うことを理解するペットは存在するが、それにペラペラと答えを返してくれるペットは皆無だろう。声帯が不思議過ぎる。


 お留守番役にピッタリなので、試しに召喚したままにしてみた。食事も、あってもなくても死なないとのことなので、放置したまま旅行しても干からびることもない。泥棒避けにもなる。


 優秀過ぎるな黒猫。これで愛玩動物だって言うんだから、一家に一匹は欲しいよね。


 その長すぎる尻尾も収納出来るとのことで、今は見た目もただの黒猫だ。


 しかし排泄がないのは黒猫だけであって自分じゃない。もう限界。


 二度寝に終止符を打ったのは生理現象だ。寒いからだ。


「うー、さむさむ」


 トイレに行って戻るついでにエアコンのスイッチを入れる。居間も暖かくなるようにと直通の引き戸を開けておく。


 テレビのリモコンもゲットしてきた。居間のテレビが寝室から見れる、計算された配置だ。我ながら恐ろしい。


 ポチっと電源を入れる。撮り溜めている映画でもみようか。


『昨夜未明に見つかった死体は、損傷が激しく、何かに齧られたような跡があることから、野生動物――――』


 流れてきたニュースにピクリと反応してしまう。先が気になってボタンが押せない。齧られた死体の身元は? 被害者の写真は? いつもは見向きもしないニュースにやきもき。 


 フラッシュバックするのは焼鳥屋前でのあれこれ。もしかして、もしかするのか。


 じっとりとテレビ画面を見つめていると、ニュースキャスターが、所持品から身元が云々と知りたかった情報を告げてくる。


 画面が写真に切り替わり、氏名と年齢が晒される。


 映し出されたのは、三十代の男女。よく聞いてみれば近場でもない。


 やってくれる。


「えー……、マジ無駄にドキドキしたんだけど」


 枕に顔を押し付けて息を吐く。


 いらない。本当にこの呪いはいらない。


 ちょっと前の自分なら、気にも止めなかったニュースだ。あのまま再生ボタンを押して適当な映画でも見ていたことだろう。もし気になって被害者を確認したとして、それがあまつさえ焼鳥屋で馬鹿にしてくれた高校生だったと知っても。


 可哀想とも思わずチャンネルを変えただろう。


 どんなに言ってもチラリと見かけただけの他人なのだから。むしろ、ざまあみろと暗い喜びを見いだしたかもしれない。


 そんな小物なんだよ。


 だというのに、原因が見つけられるというだけで、じゃああの時に助けられたのではとか考えちゃう。


 そんな小物なんだよ。


「……これは持たない。なるほどなぁー。前任の奴も、もしかしてこういうこと考えてたのかもなぁ」


 俺とかプライベートでも友達皆無なのにこれだもん。もし学生で友達が被害に遭いそうなら、手を伸ばしちゃうかもなぁ。


 だって一日中モノノケが目に入るわけじゃない? 待ち時間の十分で見つけるぐらいなのだから。今までなんの変哲もなく受け入れていたことが、もしかして違う原因があるのではとか考えちゃったりしちゃったら。


「悪い方向に選民思想が働きそうだな……」


「何がニャ?」


 独り言がうるさかったのか、それとも布団の開け閉めで入ってきた冷気で目覚めたのか、黒猫が顔を突き出してくる。


 布団から顔を出している人間と猫。文字通り、面突き合わせての話し合いだ。


「なあ、この『呪い』ってやつ、やっぱり外せないかな。ほら、お祓いがどうのって言ってなかったか?」


 祓う奴が現れるかもしれないとか言ってなかったか?


 それが俺さ。


 今だ夢心地が抜けないのか、黒猫が目を閉じたまま答える。


「う~ん、できるかできないかで言えばできるニャ。でもお薦めはしないニャ」


「なんで?」


 出来るんならやろうよ。諦めんなよ。声出していこうぜ。


「『呪い』は呪いニャ。つまり祓えるニャ。でもそれには呪いにかかっている魂力より強い魂力が必要ニャ。初代様の魂力だけでもそうとうなものニャ。それが代を重ねることにより、どんどんと強くなってるニャ。これはニャンコも計算外ニャ。初代様の考えでも何代かという予想だったニャ。どうも強くなる魂力につれて呪いも強くなってるようニャ」


 たちわりぃな初代。半端ねえな初代。


「呪いを祓おうとして失敗すれば、反動があるニャ。まず間違いなく祓おうとした術者は死ぬニャ。そんなお祓いは誰もやってくれないニャ」


 なんかポンポン死ぬって単語が出てくるんですけど? サラリーマンにはハード過ぎませんか?


「初代様の『呪い』は有名ニャ。害なく能力と術を身に付けられる上に魂力まで増えるニャ。なのに祓えば死ぬニャ。もはや手を出さないような不文律ができてるニャ」


 マジか。そこまで有名なのに宿主は割りとあっさり死ぬよね。呪われてんじゃねえの?


「……でも、そんな伝説っぽいの打ち立てたら、挑戦しようとする奴もいるんじゃ……?」


 ほら、よくある奴だよ。抜けない剣なら抜いてみたい、押しちゃダメなボタンなら押しとこう、的な。


 人の話を聞かない系が、


「いたニャ」


 いるんかい。


 聞いてはみたものの、本当にいるって凄いな。ベットするのは自分の命なのに。


「二十八代目様の時に『どこまでいっても呪いは呪い、御仏に仕える身としては見逃せない』とか言う坊さんがいたニャ。未だ伝え聞く祓い屋の制止を振り切って、弟子と合わせて四十七名で『呪い』に挑んだニャ」


 オチは読めた。


「みんな死んだニャ」


 こえーよ陰陽道。めちゃくちゃ害があるじゃねーか!


 ……はあ。マジかー。じゃあ目を反らして生きていくしかないのかなぁ。別にモノノケが起こす事件が俺のせいって訳じゃないし。でもなー……。


 枕に顔を埋めて右左。


 黒猫の方に顔を向けて呼吸する。息のついでに言葉が口をついて出た。


「自衛出来る能力や術って……ある?」


 黒猫がチロリと片目を開いた。



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