第8回ゲスト 木と黒鉛のアポローン・鉛筆さん
菊木: どうも皆さん、こんばんは、菊木萬太郎です。今宵も、本来なら話を聞くことが出来ない方々に、この菊木萬太郎が……
観客: NEHORI! HAHORI!
菊木: 聞いていきたいと思います。ではゲストを紹介いたしましょう。名画・名著・名曲誕生の影にこの方あり! その身を削りながら、創作者の心象風景を私達に伝え続ける、木と黒鉛のトロン……ではなくアポローン! ご紹介いたします、鉛筆さんです!
鉛筆: どうも、ご紹介に与りました「木と黒鉛のトロンボーン」こと鉛筆でございます。
菊木: いや、あの、すみません! 言い間違えてしまいまして……
鉛筆: 何がですか? 私は木と黒鉛のトロンボーンこと鉛筆ですよ(笑)。
菊木: 申しわけありません! 木と黒鉛のアポローン・鉛筆さんです!
鉛筆: 冗談ですよ冗談。ただ勉強不足でね、その「アポローン」のことがわからないんですけど……
菊木: あっ、あのアポローンというのはですね、ギリシャ神話に登場する神で、芸術などの神として知られているんですよ。
鉛筆: 神様のことなんですか? へぇー……菊木さん、私は神様なんですよ。
菊木: いや、あの……(笑)。
鉛筆: もっともっとね、崇めてもらわないと困っちゃうんだよなぁ。まぁいいや、お供え物をよこしなさい、お供え物を。早く賽銭をしなさい!
菊木: わかりました、わかりました。いま鉛筆さん目がけて小銭を叩きつけてやりますから……
鉛筆: (笑)
菊木: (笑)
鉛筆: ……はい、今日はどうぞ、よろしくお願いします(笑)。
菊木: よろしくお願いします(笑)。
鉛筆: 何度かこの番組を観たことがあるんですけど、本当にこういう事をしていい番組なんですね(笑)。
菊木: そうなんです。固いインタビュー番組ではないんですよ。笑いをメインに、非常に融通のきく、というよりトンチがきいているような番組でして。
鉛筆: それにしても前回は大丈夫だったんですか?
菊木: 何がですか(笑)。
鉛筆: いや、日本刀さんの回ですよ。最後のほう‥
菊木: 大丈夫です! それは、あの、大丈夫です!
鉛筆: それなら良いんですけどね(笑)。
菊木: それではですね、色々と伺っていきたいんですが。今回、とてつもなくメジャーな鉛筆さんがゲストということで、多くの方が観てくださると思うんです、この番組を。
鉛筆: まぁ、神様ですからね、私は(笑)。
菊木: 持ち上げすぎたかなぁ……
鉛筆: (笑)
菊木: それであの、初めてご覧になる方も多いと思うので、簡単に番組説明をさせていただきます。
鉛筆: あっ、どうぞどうぞ。
菊木: ありがとうございます。それでは説明しますが、この番組はいつもなら話を聞くことが出来ない「モノ」の皆さんに迫る番組です。ですので、少し調べれば分かるような基本的な事柄については質問をしませんのでご了承ください。
鉛筆: はいはい、わかりました。
菊木: もちろん、インタビューの進行上、必要な説明はしていきます。では始めていきたいと思います。
鉛筆: はい、よろしくお願いします。
菊木: えー、実はですね、少し前にSNSであるアンケートを取ったんです。ゲストの候補を四名挙げまして、次回のゲストは誰がいいか、というものだったんですが……
鉛筆: 私達ゲスト側からしてみると、だいぶその、なんというか、アレなアンケートですね(笑)。
菊木: 確かにそうなんですが、この番組の恒例となっていまして。そして、今回のアンケートで一番多く票を獲得したのが鉛筆さんなんです!
鉛筆: あら! これは嬉しい! 私が一位? あら!
菊木: 一位が鉛筆さん。二位がENTERキーさん。三位が袋麺さんで、四位がまな板さんでした。
鉛筆: いやぁ、その顔ぶれでの一位は嬉しいですねぇ。
菊木: ちなみに四位のまな板さんは0票だったんですが、どう思いますか?
鉛筆: 最初の質問がそれなんですか?
菊木: (笑)
鉛筆: 一位を取った事に対する質問じゃなくていいんですね?
菊木: そう……ですね、大丈夫です。
鉛筆: いやまぁ、構いませんけどね(笑)。それにしても、まな板さんが0票というのは驚きですね。人類への貢献度で言えば、私なんかとは比べ物にもならないほどですよ。皆さん料理をしなくなっちゃったんですかねぇ?
菊木: ねぇ、どうなんでしょうかねぇ? さぁ、それでは質問をしていきたいんですが……
鉛筆: なんの時間だったんだ……
菊木: あのですね(笑)。鉛筆さんには多くの特徴があるわけですが、その中でも極めて特徴的である硬度について伺っていきたいと思います。
鉛筆: あっ、硬度ですか。確かに、特徴的な部分ですね。一応簡単に説明してもいいですか?
菊木: もちろんです。お願いします。
鉛筆: 私はBという硬度で、BLACKの頭文字を取ったものです。芯が柔らかく、紙などに濃く黒を出すことが出来るんですよ。そしてHというのはHARDのHでして、芯が硬く作られているんです。なので、紙などに対しては薄い黒しか出せないんですが、石などの硬い物に対しての筆記は得意なんですよ。
菊木: よく耳にします2Bという硬度は、Bさんよりも芯が柔らかいということなんですよね。
鉛筆: その通りですね。数字が大きくなればなるほど芯の特性が強くなると考えてください。
菊木: 最大でどのくらいの硬度があるんですか?
鉛筆: まぁメーカーさんによる違いはありますが、現在は最大で10Bから10Hまであるようですよ。
菊木: そんなにあるんですか! あっ、ということは、HBという硬度がちょうど真ん中の硬度なんですか?
鉛筆: それがですね、Bの次にHBがあって、HBの次にFがあるんですよ。それでそのFの次にHがあるので、HBとFが真ん中あたりの硬度になるんですよ。B・HB・F・Hの順です。
菊木: Fという硬度があるんですか?
鉛筆: ご存じない方も多いかと思いますが、Fというのがあるんですよ。
菊木: これ、BがブラックでHがハード……じゃあFということはファンタジーメモリーですか?
鉛筆: …………ん? な、なんですか?
菊木: ですから、Bがブラック……
鉛筆: はいはい。
菊木: Hがハード……
鉛筆: うん。
菊木: ということは、Fはファンタジーメモリーですか?
鉛筆: …………
菊木: …………
鉛筆: …………だと思うの?
菊木&鉛筆: (笑)
鉛筆: Fがファンタジーメモリーだと思うんなら、たぶん菊木さんの頭がファンタジーメモリーだと思うんですけどね(笑)。体のどこかにFって書いてありませんか?
菊木: も、もう鉛筆さん、冗談ですよ!
鉛筆: もちろん! もちろんそうでしょう(笑)。
菊木: あの、本当はどういう意味なんでしょうか?
鉛筆: Fはですね、ファームのFです。スペルはFIRMです。意味は「しっかりした」などの意味がありますね。
菊木: まさに私のことじゃないですか!
鉛筆: いやだから、菊木さんはファンタジーメモリーでしょって。だいたいなぜ単語を2つ入れたのかですよね。ファンタジーメモリーじゃFMですからね?
菊木: 流行りの音楽が流れてきそうですよね。
鉛筆: 言ってる場合か(笑)。
菊木: すみません(笑)。えー、それでお聞きしたいのは、硬度別の性格や皆さんの仲についてなんですが……
鉛筆: うーん、まぁ硬度による性格の差は当然ありますよ。分かりやすく10Hと10Bの話をしますけど……
菊木: はい、お願いします。
鉛筆: 10Hの奴は、そりゃもう融通の聞かない奴でね! もうね、話にならないんですよ、アイツは!
菊木: 急に奴だアイツだという言葉が飛び出てきましたが(笑)。
鉛筆: いやね、こっちはルールを破れだとか、規則をないがしろにとか言ってるわけじゃないんですよ? そうじゃくて、もっと効率の良いやり方があるんだから、それにしたらどうだと提案してるんですよ。でもアイツは「でも決まりだから」の一点張り。
菊木: もうあれですか、いくら言っても折れてはくれないんですね?
鉛筆: 折れない! 芯が硬いもんだから、まぁ折れない! 芯ってのは黒鉛と粘土を混ぜ合わせて作ってるんですけど、アイツの場合はほとんどが黒鉛ですからね、割合が。それでほぼ黒鉛のまま焼き上げて芯にされちゃってるもんですから、凄いのなんのって……
菊木: 話を聞いてくれないというか、他の皆さんの提案は……
鉛筆: 無駄。するだけ無駄(笑)。だって語尾には「でも決まりだから」がつきますからね。
菊木: 何Hぐらいになると、話を聞いてくれるんですかね?
鉛筆: そうですね……4か5Hぐらいであれば、まだ話は聞いてくれます。6Hまでいっちゃうと話の進みが悪いと言うか、引っ掛かりが増えます。ただね菊木さん。
菊木: はい、何でしょう?
鉛筆: みんな良い奴なんです(笑)。
菊木: (笑)
鉛筆: あのー、今は短所を言いましたけど、逆に言えば悪いところはその一点だけなんですよ。本当にアイツは良い仕事をするし、嘘もつかないし。いつだって全力で仕事に取り掛かってますから。そこはもう、仲間として見習うべき姿勢なんですよね。
菊木: 仲が悪いという訳ではなく、ちょっとした意見の交換と言いますか、心のぶつかりあいという感じなんですね。
鉛筆: そういうことなんです。仲が悪いとかではなくて「もう少し柔軟に、柔らかくいけば?」という意見を持っているだけなんです
菊木: それで、今は硬い10Hさんのお話でしたが、柔らかい10Bさんはどうなんでしょう?
鉛筆: お前はちったぁ硬くなれ! そう思いますね(笑)。
菊木: それはまた……(笑)
鉛筆: いやもう柔らかいというか、そういうレベルじゃないんですよね。もう「なんでもいいじゃん」みたいなのが常なんですよ。
菊木: 本当に真逆の性格なんですね(笑)。
鉛筆: よくいえば奔放という感じなんですけどね。ただたまに「フリーダーム」とか大きい声で言いながら肩を組んでくるような奴でして。
菊木: まさに自由な方ですね。
鉛筆: 本当にそうなんですよ。でも本人の「フリーダム」発言の通り、自由な表現が出来る硬度ですから構わないんですけどね(笑)。
菊木: その肩組みは10Hさんを始めとした硬度の高い鉛筆さんたちにも……
鉛筆: します、します。
菊木: 10Hさんは嫌がったりしないんですか?
鉛筆: いや、嬉しそうにしてますよ(笑)。
菊木: あっ、そうなんですか(笑)。
鉛筆: なんか「自分に無いものを彼は持っていて、憧れさえ感じているよ」って10Hが前に言ってましたよ。それで10Bのほうも「いやぁ、10Hさんの正確さや真っ直ぐさって惚れ惚れするよねぇ」言っていて……
菊木: お互いに相手の事を尊敬している関係なんですか! 良いですねぇ、そういうの。
鉛筆: 菊木さんはゲストの事を尊敬してませんもんねぇ。
菊木: してますよ!
鉛筆: ウソだぁ(笑)。
菊木: 本当ですよ!
鉛筆: まぁですから、硬度の性格・特徴としましては、10Hはキッチリと音階が別れてるわけです。ドならド、レならレ。線を引けば細く真っ直ぐ一定の太さで。これが10Bになるとその音階の境界線がなくなるわけです。
菊木: これ、10H・10B以上のものは作らないんですか?
鉛筆: まぁ、本気を出せば作れますよ。ただニーズが無いらしいのでね。
菊木: ちなみにどの程度まで作れるんでしょうか?
鉛筆: そりゃもうあれですよ、2万Hとか……
菊木: 2万!?
鉛筆: 500Bだとか……
菊木: えっ(笑)。2万Bじゃないんですか?
鉛筆: いやいや、501超えちゃうと液体ですから、もう。
菊木: (笑)
鉛筆: (笑)
菊木: いや見たい! 液体の一歩手前の500Bを見たい(笑)。
鉛筆: 書いたら紙ビッショビショですけどね(笑)。
菊木: これ、2万Hの方はどういう……
鉛筆: ピッと線を引けば机ごと紙が切れますんでお得です。
菊木: すみません、言ってる意味がわからないんですけど(笑)。
鉛筆: それほどの……それほどの硬度を誇るということですよ。ただ肉眼で見ると目に悪いので、専用のサングラスを掛けていただいて(笑)。
菊木: 何で出来てるんですかそれは(笑)。
鉛筆: (笑)
菊木: えー、さていよいよ、HBさん・Fさん・Hさん、そしてBさんを含めた……
鉛筆: はいはい!
菊木: どっちつかずの皆さんのお話になりますが(笑)。
鉛筆: よくそれで「ゲストの事を尊敬してます」なんて言えますね(笑)。
菊木: も、もう鉛筆さん、冗談ですよ!
鉛筆: もちろん! もちろんそうでしょう(笑)。そうでなければ視聴者の皆さんに殴り合いを見せなければなりませんからね、私と菊木さんの(笑)。
菊木: (笑)
鉛筆: じゃあ始めてください、我々チーム「オールマイティー」の話を。
菊木: すみません、誰も「オールマイティー」とは言ってない……
鉛筆: 言ってくれないから自分で言ってるんでしょ(笑)。
菊木: すみません(笑)。それではチーム「ガーデンパーティー」の皆さんのお話を……
鉛筆: 誰が庭先で冷えたレモネードをいただくんだよ!
菊木: (笑)
鉛筆: 誰が料理好き奥さんが作った小粋なサラダを庭先でいただくんだよ!
菊木: すみません、オールマイティーの皆さんのお話を聞いていきたいと思います。
鉛筆: はいはい、どうぞ(笑)。
菊木: 単刀直入にお伺いしますが、2B・HBさんに対して、ライバル意識はお持ちですか?
鉛筆: 急にそういう質問?
菊木: はい!
鉛筆: 返事は良いんだよなぁ……
菊木: ありがとうございます!
鉛筆: いやあの、褒めてるけど褒めてないですからね?
菊木: すみません(笑)。それで、ライバル意識はお持ちですか?
鉛筆: 菊木さんが想像している5倍は持ってますね(笑)。
菊木: 5倍ですか!? ではもう、バチバチと火花を散らすほどに……
鉛筆: 持ってますね! やっぱり、硬度が近いとそれだけ刺激を受けますよ。特に2B・HBの二人は人気といいますか、定番ですからね。
菊木: 確かに、ご家庭には2BかHBの鉛筆一本くらいはあるかもしれませんね。
鉛筆: もう小学生のお子さんがいるご家庭では間違いなく2Bの鉛筆はいますからね。子どもたちの教育の現場で働けるというのは、やっぱり憧れであるし、そこで働く2Bは羨ましいですよ。
菊木: あっ、じゃあこういうのはどうですか?
鉛筆: おっ、なんですか?
菊木: その「B」の横に2を書いてみてはいかがですか?
鉛筆: 2を書く? えっ、2を書く?
菊木: はい! Bの横に2を書き足せば2Bになりますよね。
鉛筆: あぁ! 確かに! …………でもBですけど?
菊木: (笑)
鉛筆: 書き足したところでBですけど(笑)。使われても「なんかこの2Bちょっと薄い」って言われて、本物の2Bと交代させられるだけでね、全く意味のない‥
菊木: それでは最後に書きましょうか?
鉛筆: いつ書くかの問題じゃないんですけどねぇ(笑)。
菊木: 決定で?
鉛筆: じゃあ、まぁ、はい。最後に書くだけ書いてみましょうか。
菊木: 話は変わりますが……
鉛筆: 変わるでしょうね、そりゃ。
菊木: 鉛筆削りさんとのお話なんです。
鉛筆: なるほど、鉛筆削りさんですか。
菊木: おそらく相棒以上の存在だと思うんですが、実際のところはいかがなんでしょう?
鉛筆: もう菊木さんの言った通りの関係ですね。良い仕事をするには、シーンに適した芯の状態にしておかなければいけませんから。尖った状態だったり、丸い状態だったりと。ですから、私達の芯を素早く的確に整えてくれる鉛筆削りさんと私は水魚の交わりですね。
菊木: やはり親密な関係なんですね……あの、これ一つ思ったのはですね、鉛筆削りさんの存在そのものといいますかね?
鉛筆: 存在?
菊木: はい。鉛筆さんを削ろうと思ったとき、カッターや他の刃物で削ることもできますよね?
鉛筆: そうですね。
菊木: ただカッターさんは他にも色々な用途があって、削られる鉛筆さんも様々な現場に赴いて仕事をしていますよね? 書く・描くといったことを。
鉛筆: えぇ。
菊木: ただ鉛筆削りさんの仕事といえば鉛筆さんを削ることだけですからね。それ以外の用途が無いわけですよ。ただひたすらに鉛筆を削り続ける。
鉛筆: 確かに、私たちの事を削り続けるだけですよね。
菊木: 私もインタビュアーですから、インタビューをすることしか出来ないんですよ。言ってしまえばそれ以外の用途が私には無いんです。
鉛筆: そうでしょうかねぇ?
菊木: えっ、本当ですか?
鉛筆: だってインタビューもまともに出来てない……
菊木: (笑)
鉛筆: (笑)
菊木: すみません鉛筆さん、私の心の芯を折らないでもらえますか?
鉛筆: すみません(笑)。
菊木: えーっと、ですから、なにかこう、親近感が湧くんですよね、鉛筆削りさんには。同じように一つの事に対して黙々と取り組むその姿勢などから、色々と学べるんですよね、鉛筆削りさんからは。
鉛筆: すごいですね。その私には親近感を感じなければ、学べるところもないという……
菊木: 違います違います! それで話を戻しますが、削られている時はどんな感じなんですか?
鉛筆: ……あぁ?
菊木: (笑)
鉛筆: なんですか(笑)。
菊木: 削られている時はどんな感じなんですか?
鉛筆: いやぁ、まぁ気持ちがいいですよ。なんでしょう、文字通り生まれ変わった感じですね。もう削っているうちに芯がどんどんと尖っていきますから、それにあわせて感情が高ぶっていくわけです。初心を思い出すと言うか……
菊木: 尖れば尖るほど気合が入る感じですか?
鉛筆: そうですね。なのであまり尖らせると気合が入りすぎて、紙に書こうとした初動の一発で折れちゃうんですよ(笑)。
菊木: あの先端が少し砕けてしまうのは、気合の入れすぎなんですか!?
鉛筆: 尖らせすぎたからじゃないんですよ。私達の気合が人間の皆さんに伝わって、ついつい力んでしまうから折れてしまうんですよ。
菊木: あっ、気合を受けて力んでしまうんですか、我々が!
鉛筆: 単純ですからね、人間ってのは。
菊木: 単純なことをペンシルて言いますもんね?
鉛筆: シンプルだよ! 単純の英単語は!
菊木: (笑)
鉛筆: いや菊木さんね、「オールマイティー」を「ガーデンパーティー」って言ったり、「シンプル」を「ペンシル」と言ったりね、あのね、遠い。
菊木: 何がですか(笑)。
鉛筆: 特にガーデンパーティーは遠いですよ(笑)。それで……なんの話でしたっけ?
菊木: 鉛筆削りさんと、芯の尖り具合のお話です。
鉛筆: そうでしたそうでした。ですから、菊木さんは今日ラッキーなんですよ?
菊木: ラッキー? それはどういうふうにラッキーなんですか?
鉛筆: 私の芯の具合を見てくださいよ。今日は尖ってないでしょ? 丸くなってますよね?
菊木: 確かに、柔らかな丸みを帯びてますね。あっ、ということはつまり……
鉛筆: そうです。尖っていたら今日のインタビューは途中で終了してましたよ(笑)。
菊木: 芯が丸い状態だからインタビューを受け続けてくださっ‥
鉛筆: まさにその通り。削りたての状況だったら、ファンタジーメモリーのところで一勝負してましたよ? 一番取ってましたからね?
菊木: ファンタジメモリーを相撲で片付けようとしてしまうほど尖ってしまうんですか(笑)。
鉛筆: 尖る尖る(笑)。もう「勇み足」だとか「つきひざ」とかを繰り出しますから。
菊木: どっちも負けちゃってるじゃないですか!
鉛筆: (笑)
菊木: ではあの、ここでまた質問が変わりますが、ボールペンさんやシャープペンシルさんなど、他の筆記具の皆さんとのご関係の方に移りたいと思います。
鉛筆: 「やっぱり仲が悪いんじゃ?」ということ思って聞いているんでしょうが……
菊木: そ、そんなことありませんよ!
鉛筆: 本当に仲が良いんですよ。
菊木: なーんだ……
鉛筆: 思ってたんだろ、だから! 思って聞いてん……じゃないのさ!
菊木: なんで言い方を変えたんですか(笑)。
鉛筆: 「思ってたんだろ」は乱暴すぎたかなとの一瞬の判断ですよ(笑)。
菊木: (笑)
鉛筆: まったく、仲が悪いわけないでしょ? 私たち鉛筆が下書きをして、清書に入るパターンは多いんですから。他の筆記具の皆さんと共同作業なわけなんですよ。仲が悪かったら上手くいきませんよ。
菊木: 確かに、仰る通りなのかもしれないですね。
鉛筆: 何が「仰る通り」なんだか(笑)。
菊木: ではあれですか、用途の近いシャープペンシルさんとは特に仲が良かったりするんですか?
鉛筆: シャープペンシル? 誰ですかそれは?
菊木: 仲悪いんじゃないですか!
鉛筆: 冗談ですよ!
菊木: …………いや、これは本当のやつだな。
鉛筆: ファンタジーメモリーに何が分かるってんだ。
菊木: それを言われちゃうと、もう何も言い返せない(笑)。
鉛筆: (笑)
菊木: それを言われちゃうと……失敗したな、なんでファンタジーメモリーを言っちゃ‥
鉛筆: 話、続けていいですか?
菊木: あ、すみません、どうぞ。
鉛筆: えーっと、ですから、シャープペンシルさんとも仲が良いですよ。なんというか、お互い似てはいますが、求められていることは違いますし、それぞれにしか出来ない仕事も多いですから。またね、なんでも一つで済まそうという考えは良くないですよ。これ一本さえあれば良い。そういう考えって、人間の方よくしますよね?
菊木: えっと……まぁその……
鉛筆: 近年、そういった考えが非常に多くなってきたと思いますよ。科学力だったり技術力が進んで、イノベーションだとかいう言葉もよく聞くようになって、文化や文明の所々に冷ややかで無機質な合理化も目にします。ライフスタイルの多様化に伴い、日々、新しい価値観や視点が生み出されてもいますしね?
菊木: すぅ…………そうですね。
鉛筆: ライフスタイルの多様化は良いことだと思いますし、誰かと何かを共有することも良いことだと思います。しかし、現代社会は急かされながら日々を送る、時間に脅されながら生きていかなければならない部分がありますよね? 何が言いたいかというと、そんな時間に対しての意識の変更が、より人生を充実させるということなんですよ。
菊木: なる……ほど。
鉛筆: やはりね、「無駄な時間」と「手間ひま」を履き違えていたりするんですよ。また「ゆっくり」を楽しむ感覚を知らない方も多い。
菊木: 目をつむって話を聞きますので、終わったら起こして下さい。
鉛筆: えっ、寝るの?
菊木: (笑)
鉛筆: 急に反応が鈍くなってきたと思っ、えっ、寝るの?
菊木: 寝ないですよ! ただ話の濃度が上がってくると、目をつむる癖がありましてね。
鉛筆: ありましてね、じゃないんですよ(笑)。
菊木: それでつまりはどういうことなんですか?
鉛筆: えっ? あぁ、ですから、PCやスマホなどの端末でサラサラっと手軽に描くのもいいですが、たまには過程を楽しみましょうよ、ってことです。鉛筆を削るところから始めて欲しいんですよ。
菊木: 無駄をなくして「時間の節約」をするのではなく、たっぷりと使って「時間を楽しむ」ということですか?
鉛筆: 時間を楽しむ為の時間の節約はもちろんありますが、ひとつひとつの動作から楽しんでもらいたいんですよね。コーヒーなんか良い例ですね。
菊木: なるほど。普段の忙しい時はインスタントや缶コーヒーで手軽に済ませる。そして「時間を楽しむ」時にはコーヒー豆を挽くところから始めるわけですね。
鉛筆: そういうことです。つまり、鉛筆を削り、紙に描き、ペンを入れ、色鉛筆や絵の具、マーカーなどで色を塗る。この各作業の際に出る音や香りまでも楽しんでもらいたいんです。
菊木: 最近は、といっても忙しい時代が長らく続いてますが、そろそろ鉛筆さんの言う「時間を楽しむ事」が増えてきて欲しいですね。
鉛筆: そうですね。そのために進んできた科学力や技術力を使うべきなんですよ。より多くの仕事をこなす為ではなく、ゆっくりと過ごせる時間を作り出す為に使って欲しいんです。
菊木: いやぁ、私もそう思います! なんだか眠気が覚めてきましたよ!
鉛筆: やっぱり眠かっただけなんじゃないですか!
菊木: …………さて(笑)。
鉛筆: (笑)
菊木: そろそろ時間もなくなってきました。
鉛筆: えっ、もうですか?
菊木: 時間を楽しんだということでしょうか?
鉛筆: あー、何を言ってるかちょっとわからない……
菊木: いや、なんでですか(笑)。
鉛筆: それで?
菊木: はい、あの、鉛筆さんが思う「してほしくない事」ってありますか?
鉛筆: してほしくない事?
菊木: はい。取り扱い方などで。
鉛筆: あっ、あります! そりゃもうあります! あのですね……
菊木: はい。
鉛筆: 基本的な事ですが、落とすのはやめてもらいたいですね。わざと落とす人はいないでしょうが、中で芯が折れちゃうんですよ。だから削っても端からポロっと芯が取れちゃうんですよね。
菊木: あー、よくあります。
鉛筆: よくあるってことはそれだけ落としてるってことにな‥
菊木: い、いや、よくある話ですよねっていうことですよ。ねっ、皆さん鉛筆さんを落としちゃいけませんよ! はい、それでお次は……
鉛筆: …………あのー、芯を取り出そうとして木の部分だけ削り取るのもやめてもらいたいです。何がしたいんだがよくわかりませんが、あの行為は最悪な行為ですよ、本当に!
菊木: 難しいんですよね。芯を傷つけずに取り……
鉛筆: それはあれですか、やったことがあ‥
菊木: そ、そんなこと思いついたことすらないですよ! ねっ、ダメですよ皆さん、そんな事をしちゃ! はい、それでお次は……
鉛筆: 年配の方でたまにいらっしゃるんですが、書く前に芯の部分をペロッと舐める方が‥
菊木: ついついやっちゃうん‥
鉛筆: 3つ全部かコラ!
菊木: いや、あの(笑)。
鉛筆: あぁ!? 漏れなく3つ全部やってるのかコラ! 菊木さん、本当に何をしてんの(笑)。
菊木: 落としたり削ったりは、まぁ、子供の頃に少しあった感じで……
鉛筆: 舐めるのは?
菊木: 今日の打ち合わせの時……
鉛筆: (笑)
菊木: 二度三度と……
鉛筆: おいコラ! 二度三度じゃないんですよ(笑)。
菊木: まぁだから3ペロ鉛筆ってとこですか(笑)。
鉛筆: いや、体にも悪いんでやめてくださいよ?
菊木: はい、気をつけます……ではですね、最後に今後の活動や展望などをお聞きしたいと思います!
鉛筆: 3ペロ鉛筆の後に?
菊木: 4ペロ鉛筆にしておきますか?
鉛筆: ペロ数の問題じゃないんだよ!
菊木: (笑)
鉛筆: 本当にもう(笑)。それじゃいいですか?
菊木: お願いします。
鉛筆: まぁ、僕らですね、言ってみれば寿命が目に見えるわけですよ。書くということを続けて削られていくうちに、どんどんと短くなって鉛筆としての一生を終えます。
菊木: 和ろうそくさんをゲストにお迎えしたときも、そのお話になりました。
鉛筆: あっ、そうでしたか。確かに、和ろうそくさんも灯し続ければ続けるほど短くなっていきますもんね。
菊木: えぇ、そうなんです。
鉛筆: ですからまぁ、私たち鉛筆は筆記具でもあると同時に消耗品でもあるんですね。その限りある鉛筆生活の中で、文字通りね、体を削りながら仕事をしてます。
菊木: …………
鉛筆: 硬度によって仕事の内容の違いはありますが、全員が懸命に取り組んでいますので、是非今一度ね、私たち鉛筆のことを見つめていただけたらと思います。そして、共に良いものを作っていきたいと思っています。
菊木: …………もう絶対に舐めません。
鉛筆: なんの宣言ですか(笑)。
菊木: いやもう、本当に、物が溢れる現代社会に危機感を覚えている私としましては、非常に心打たれる言葉です。限りある資源の中で、そして限りある時間の中で「大切に楽しむ」というのは、今の人類にとって非常に重要なことだと思いました。
鉛筆: いやぁ、ファンタジーメモリーさんに分かっていただけて嬉し‥
菊木: 菊木です! 菊木萬太郎!
鉛筆: ファンタジー木メモリー太郎さん?
菊木: 語呂が悪すぎでしょ(笑)。
鉛筆: (笑)
菊木: はい、それではBの横に2を書き足してお別れです。
鉛筆: えっ! 本当に書くんですか!
菊木: 書きますよ! はい、それじゃ書きますよ?
鉛筆: 別に2Bになりたいわけじゃない……(笑)。
菊木: ………………はい、書きました! どうですか!
鉛筆: いや…………いやこれ菊木さん、この書き方だと2BじゃなくてB2になっちゃうんですけど。
菊木: ……………………
鉛筆: ……………………
菊木: ……………………えっ?
鉛筆: はい。菊木さん額を出して。FMって書くから(笑)。
菊木: えぇっ! ファンタジーメモリーですか!?
鉛筆: はい、いいから出す!
菊木: ……優しくお願いします。
鉛筆: ……………………
菊木: ……………………
鉛筆: はい! 出来ましたよ!
菊木: フッ(笑)。また驚くほど達筆なFMですね(笑)。
鉛筆: 気合い入れました(笑)。
菊木: さっ、今回はいろいろありましたが、鉛筆さん本当にありがとうございました!
鉛筆: とんでもないです。
菊木: 木と黒鉛のアポローン・鉛筆さんでした!
鉛筆: いえ、こちらこそありがとうございました! 楽しかったです!
菊木: さて番組をご覧の皆さん、次回はこの菊木萬太郎が、いや、ファンタジー木メモリー太郎がアナタの事を!
観客: 『NEHORI!』 『HAHORI!』
菊木: 聞いちゃうかもしれませんよ。それではまた次回、ごきげんよう! さよなら!