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第7回ゲスト 職人技の集大成・日本刀さん

菊木: どうも皆さん、こんばんは、菊木萬太郎です。今宵も、本来なら話を聞くことが出来ない方々に、この菊木萬太郎が……


観客: NEHORI! HAHORI!


菊木: 聞いていきたいと思います。ではゲストを紹介いたしましょう。今やその名を世界に轟かせ、人々を魅了し唸らせる。武器であり、芸術作品であり、武士の魂・剣士の命。職人技の集大成・日本刀さんです!


日本刀: 皆さんこんばんは、ただいまご紹介に預かりました日本刀でございます。


菊木: よ、ようこそおいで下さいました!


日本刀: こちらこそ、お呼びいただいて光栄です。


菊木: お待ちしてました!


日本刀: ありがとうございます。


菊木: えー、この番組の事は……


日本刀: あのー、はい。先ほど知りまして、係の人から説明を受けました。


菊木: そうでしたか。えー、この「菊木萬太郎の根掘り葉掘り」という番組はですね。普段なら絶対に話を聞くことが出来ない方にインタビューをする番組なんです。


日本刀: なるほど。


菊木: ただ、日本刀さんのように有名な方ですと、書籍やテレビ、いまはネット上に情報が溢れているんです。日本刀の歴史から製造方法など、多種多様な情報が。


日本刀: はぁー、そうなんですか。といってもテレビとネットという言葉は初耳なのでよく分かりませんが(笑)。


菊木: あっ、そうなんですか!? 以前に江戸時代さんをゲストにお迎えしたんですが、江戸時代さんはご存知でしたけど……


日本刀: そのようですねぇ。先ほど江戸時代さんのお話のやつを見せてもらいましたけど、何か箱のようなやつで。あれがテレビですか?


菊木: はい、そうです。ネット、インターネットも似たようなものと捉えて頂ければ……


日本刀: 似たような感じなんですか。まぁでもあれですね、私は江戸時代さんと違って、この世界といいますか世の中から隔離された所にいましたからね。完全に遮断されていたんで。なので知らないんですよ。


菊木: 隔離? どこかの施設などで保管されていたということですか?


日本刀: 施設というか、祠の中ですね。


菊木: 祠ですか! ということは御神刀として祀られていたわけですか!


日本刀: いえ封印されてました。


菊木: (笑)


日本刀: (笑)


菊木: ……さぁ雲行きが悪くなってきた所で、えー、質問をしていきたいと思います。


日本刀: (笑)


菊木: それで質問なんですが、先ほども言った通り、日本刀さんの情報が世界には溢れているので、普通にお話を聞くとですね、そのテレビなどと内容が重複してしまうんですよ。なので、別角度から切り込んでいきたいと思います。


日本刀: 斬り込む?


菊木: その斬るじゃありません!


日本刀: (笑)


菊木: まずはですね、武器としての日本刀さんに迫っていきたいと思うのですが、その前に日本刀さんお名前をお持ちだそうで。


日本刀: はい、ありますよ。


菊木: ぜひお名前でお呼びしたいのですが……


日本刀: 構わないですよ(笑)。ただ刀工の銘は打ってはありません。


菊木: 正宗や虎徹といった名前のことですね?


日本刀: えぇ。私の場合は刀工が思いを込めた名前を授かりましてね? その名も……


菊木: その名も……


日本刀: 「ねんごろ」と申します。


菊木: あれ「懇ろ」ですか? 親切丁寧に、というような意味ですけど、それを日本刀につけるとは珍し……


日本刀: 怨念の念に、殺すと書いて「念殺」です。


菊木: あっ、念殺……


日本刀: えぇ、念殺。


菊木: ……雲行きが悪いどころかドシャ降りになってきましたが、質問を続けていきたいと思います。


日本刀: (笑)


菊木: それで……日本刀さんは……


日本刀: いや、菊木さん(笑)。名前で呼んで下さらないんですか!


菊木: 念殺でいきます? 音的には良いんですけど、字となると「殺」の文字が溢れちゃう……


日本刀: 日本刀でいきましょう!


菊木: (笑)


日本刀: さぁ、どんな質問でしょう?


菊木: え、えーっと……長らくですね、武器としてご活躍されてきた日本刀さんですが、なんでも合戦のような大人数の乱戦ではそこまで使用されていなかったとか?


日本刀: あー、確かにそうかもしれないですが、これはあれですか、歴史が変わるような事は言ってはいけないんですよね?


菊木: は、はい。でも、ということは違うんですか?


日本刀: 違うわけではないですが、実際に合戦に出て、命がけで戦わないと分からないこともあるといいますかねぇ。


菊木: 確かにそういうこともあるでしょうね。


日本刀: 合戦などの戦場ではそれほど使用されていないことぐらい、少し考えれば分かることですよね? 自分が無傷のまま相手に勝つことが理想なわけですから、刀のような攻撃範囲が狭い武器は危険度が増すわけですよ。至近距離の戦いですからね、刀の戦いは。


菊木: 必勝を掲げて戦をするわけですから、不必要な負傷は戦力低下にもなりますものね。


日本刀: そうなんです。あえて危険を犯す必要はないですよね。それなら槍や矛、弓や火縄銃など、攻撃・射程距離が広くて長いほうが良いですから。ただですよ?


菊木: はい。


日本刀: 矢が尽きた。弓が壊れた。槍が折れた。銃の弾が出ない。敵は目の前。菊木さんならどうします?


菊木: 素直に謝ります。


日本刀: (笑)


菊木: (笑)


日本刀: 謝って済むなら戦争になってないんですよ(笑)。


菊木: すみません(笑)。……あの、あれですよね? 最終的には日本刀の出番というわけですよね?


日本刀: そういうことです! ただまぁ、本当に強い人は始めから日本刀でしたけどね。


菊木: やはりいるんですね、剣豪が!


日本刀: そりゃいますよ。というか私の最初の持ち主が剣豪でしたから。


菊木: そうだったんですか!


日本刀: いやぁ、互いに血を浴びながら戦場を駆け抜けたもんです。持ち主の「敵の防具の隙間を狙う的確な突き」は素晴らしかったし、誘いからの右手首狙いも見事だったな。本当、血が懐かしいですよ。


菊木: あ、あぁ………………


日本刀: 当時、持ち主は朱殷(しゅあん)の鬼と呼ばれてましてね。


菊木: 朱殷? 確か色の名前でしたよね?


日本刀: さすが菊木さん。そうです、色の名前です。茶色といいますか、暗い赤・朱色といいますか。とにかく、乾いた血のような色です。つまり戦が終わったあと、体中に付いた返り血が乾いて、朱殷に染まるわけですよ。


菊木: ……えー、雲行きどころか血の雨が降り出してしまいましたが、日本刀さん、つまりは念殺さんが活躍・現役だった頃というのはいつ頃なんですか?


日本刀: 戦国時代後期に生を受けましてね。特に活躍したのは戦国時代の合戦、そして幕末辺りは忙しい日々を送ってましたね。


菊木: 幕末ということは新しい持ち主の方になってるんですよね? その方もまた腕の立つ武士……


日本刀: 武士というのより剣士ですかね。剣に生きる、刀に生きるという感じで。


菊木: なるほど。


日本刀: 武士もピンキリでしてね。幕末には写真というものを撮るのが流行ってたんですよ。その時に椅子なんかに座るもんですから、我々日本刀を杖のようにしてるわけですよ。信じられますか? 自分の命を預ける日本刀に対して、杖と同じような扱いをするなんてことが!


菊木: では日本刀さんは武士よりも剣士に使ってもらいたい……失礼しました、剣士と共にありたいというお考えですか?


日本刀: そうですねぇ。でも持ち主遍歴といいますか、そういうのを思い出してみると、純粋な剣士は少なかったですね。主に江戸時代を生きてきたわけですが、持ち主の変わりようといったらなかったですね。幕末の頃には一人の剣客がずっと所持していたんですけどね。


菊木: 最終的にはどのくらいの方々の元に渡ったんですか?


日本刀: えーっと、そうですね……二百人ぐらいですかね。


菊木: 二、二百人!?


日本刀: えぇ。特に江戸中期は頻繁に変わってましたね。


菊木: 変わるというのは、やはり持ち主の方が、その、まぁ、あの、命を落とされてという……


日本刀: ほとんどがその理由ですね。その、江戸時代に入る頃にはですね、あの朱殷の鬼が使っていた刀として広く名が知れ渡ってしまっていたので、様々な剣士や武士、また収集家たちが私を求めましてね?


菊木: その江戸の初期の頃は、朱殷の鬼と呼ばれた方の子孫の方が念殺さんを管理といいますか、保管していたんですか?


日本刀: そうです。非常に良くして下さって。少し生活に困るような具合だったんですけれども、私の事を大切に扱ってくださいまして。質にもいれず、大金を積まれても売らず、丁寧な手入れも。それにお茶などの供え物も頂きまして……


菊木: 言ってみれば念殺さんは先祖と共に生きた存在、というより先祖の一部という認識でいらしたんですかね。


日本刀: そうだと思います。ただ、私を狙った賊の凶刃(きょうじん)に……


菊木: そ、そんなことがあったんですか……


日本刀: …………嘘です。


菊木: はっ? 嘘!?


日本刀: はい、嘘ですね。


菊木: はい、嘘ですって……はい嘘ですじゃないですよ、バカ(笑)。


日本刀: あれ、ちょっと(笑)。あれ? 今バカって(笑)。


菊木: (笑)


日本刀: この念殺に向かってバカって言いましたか?


菊木: 嘘です。


日本刀: いやいや、違う違う(笑)。言ったことは嘘じゃないでしょ!


菊木: いや念殺さん、人の生死の嘘をついちゃダメですよ。


日本刀: でもまぁ、日本刀の冗談ということで、ついちゃったんですよ。もう、ついちゃったものはねぇ、なんというか……


菊木: ついちゃったついちゃったって、餅じゃないんですから。


日本刀: (笑)


菊木: それで本当の所はどうなんですか?


日本刀: いや本当に私を狙ってどうしようもない輩が来たんですが、そこは朱殷の鬼の子孫、全員返り討ちですよね。


菊木: それはそれで凄いお話ですね……でも結果的にその子孫の方の元から離れてしまったわけですよね?


日本刀: まぁ、これがあの、天災が原因でして。


菊木: あっ、地震だとか台風で?


日本刀: 台風ですね。とてつもなく強い台風が、子孫の住む村を直撃しまして、その際に家ごと吹き飛ばされたんですよ。それで他の人がたまたま私を見つけて拾ったんです。


菊木: そこから、約二百人の持ち主の元への旅が始まったんですか。


日本刀: はい。


菊木: なるほど。しかしですね、二百人といいますと、一人が一年使ったとしても二百年の歳月が流れてしまうわけですよね。これ相当な頻度で持ち主が変わらないと二百人には届かないと思うんですが。


日本刀: えー、基本的には一ヶ月半もたないくらいでしたね。まぁ最短で、つまり私を手にした時から手放すまでの最短の時間は一刻ほどでしょうかね。ですから、まぁ三十分ぐらい……


菊木: 三十分! それは争いが原因で?


日本刀: その一刻の時はそうでしたね。


菊木: それほどまでに念殺さんの名前が知れ渡っていたんですか?


日本刀: いや、江戸中期前ぐらいにはもう私の事を知っている人はほとんどいなかったと思いますよ。


菊木: あれ、じゃあ一体何が念殺さんを手に入れようと人々の心を動かしたんでしょうか?


日本刀: 私の体に染み込んだ怨念が人を呼び寄せるんでしょうね。


菊木: ……大根とか美味しいですもんね。


日本刀: 染み込んだおでんじゃないですよ! 染み込んだ怨念(笑)。


菊木: ね、念殺さんに怨念が染み込んでるんですか?


日本刀: そりゃ菊木さん、私が切り伏せてきた人の数を考えれば当然のことですよ。志半ばで倒れた剣士もいましたしね。怨みが染み込んだって不思議じゃないですよ。


菊木: まぁ確かに、面倒臭がらずに出汁を取って煮込めば、大根にも旨味は染み込みますけど……


日本刀: だからおでんじゃないっての(笑)。旨味じゃなくて怨み!


菊木: 旨味か怨みかは私が決めることでしょ!


日本刀: 違うでしょ!


菊木: (笑)


日本刀: 変なところ強気だもんな、菊木さん(笑)。


菊木: でもそれはどういうことなんですか? 怨みが人を引きつけるというのは。


日本刀: なんと言いますかねぇ、こう、何人もの人たちの怨みが集まると、とても強い力になるんです。その力がですね、私の刀身から放出され続けるんですよ。そうすると、善人だろうがなんだろうが、心の奥底にある小さな怨み辛みを増幅させるんです。


菊木: 人を凶暴化させてしまう力があるということですか?


日本刀: その通りです。そして人だけでなく、私自身も凶暴化といいますか、性格が変わってしまうんですね。


菊木: 念殺さんも怨みの影響を受けてしまうんですか。


日本刀: 受けます受けます。影響を受けてた時はとにかく血が見たかったですね。


菊木: 血……ですか?


日本刀: はい。とにもかくにも血でしたね。特に影響を受けていた頃は、毎日のように持ち主が変わっていましたね。倒し倒されということもありますが、あまりに強くなった怨みや私の念に押しつぶされて逃げ出したりもしてましたよ。


菊木: 手にするだけで怨みや念を感じるのはすごいですね。


日本刀: 私を手にした瞬間に、辻斬りのような行動を取ってしまうんですよ。私の持つ怨念が、手にした人間の凶悪な部分や、憎しみの思いなどを増幅させてしまうんです。


菊木: な、なるほど……


日本刀: 私自身、日に日に増していく念や力に恐怖を感じていました。制御することの出来ない負の感情が、私の中で渦を巻いていました。私を手に取ったが最後、短い修羅の道を歩み絶命するしかない……


菊木: …………


日本刀: 菊木さん、私を持ってみますか?


菊木: もう一度私の事を誘ったらダイナマイト……爆薬でいきますから。


日本刀: なんですかなんですか? 爆薬? 爆薬でいくというのはどういうことですか(笑)。


菊木: 専門の機関に頼んで、爆薬でいくということですよ(笑)。


日本刀: 爆薬でいく、という部分が何も説明されてないですけど(笑)。


菊木: いやね念殺さん、そんな話を聞かされた後に「持ってみますか?」と言われて「えっ、良いんですか?」なんていうバカいないでしょ! いたとしたら話を聞いてないんですよそいつは!


日本刀: あー、じゃあアイツは話を聞いてなかったんだな。


菊木: おっかない前例を出さなくて良いんですよ(笑)。


日本刀: (笑)


菊木: それで最終的には祠の中に封印されていたわけですよね? そこまでの経緯というのは……


日本刀: まぁ、高名なお坊さんが私の話を聞きつけて、私の念などを取り除く作業をして下さったんです。半年以上は掛かりましたね。その間、付きっきりで清めてくださいまして。


菊木: お清めをして頂いたんですか。それならなぜ封印ということになってしまったんですか?


日本刀: どうやら人の念を吸い込みやすいらしいんですよ、私は。ですから誰も使うことが出来ないように封印されたんです。また豊かな自然の中の祠に封印することで、自然の優しく穏やかな念が、更に私を浄化してくれるということで……まぁ、そんな感じですかね。


菊木: ちょっとあの、今ですね、念殺さんのお話を聞いていていくつか疑問が湧いてきたんですが……


日本刀: なんでしょうか?


菊木: それだけ長い間、そして多くの人に使用されてきたわけですよね? なのに念殺さんはサビや刃こぼれ、そういったものが一つもない。これはどういうことなんでしょうか? そもそも合戦の激しい戦いも経験されているわけですから、もう少し傷などがあってもいいかと思うんですが。


日本刀: これは刀匠の差ですかね。その刀匠は命と引き換えに私を作りあげましたから、そこらの日本刀とは違いますよ。


菊木: き、聞けば聞くほど恐いお話が出てきますね。えー、それで、まぁ、あの、二つですね、あのー、どうしてもお聞きしたいことがありまして……


日本刀: 遠慮しないで聞いてくださいよ。


菊木: ではお聞きしますが……鍔元にある茶色い染みは、そのやっぱりアレですか?


日本刀: えー、これはやっぱりアレでございます。


菊木: …………


日本刀: でも落ちないもんですね、コーヒーの染みは。


菊木: コーヒー!? 豊かな豆の香り!?


日本刀: なんですかそれ(笑)。


菊木: いや、私のセリフですよ! なんですかコーヒーの染みって!


日本刀: 山間に佇む村の奥に私の祠があるんですけど、そこに酔っ払ったおじさ……酔っ払ったジジイが入ってきまして。


菊木: 酔っぱらい? 村の方ですか?


日本刀: いや、あそこの村の人は、いま菊木さんが来ているような服は着ませんから、恐らく違うでしょう。


菊木: えっ、その酔っ払った方はスーツ姿だったんですか!?


日本刀:そうですよ。「俺の家はいつからこんなに狭くなったんだ!」って怒ってましたよ。


菊木: 自分の家だと勘違いしてるんですか……


日本刀: それで私を見つけるなり話しかけてきて。


菊木: 日本刀さんのことも何かと勘違いしてるんですね。何と間違われたんですか?


日本刀: いや、「なぁ、知ってるか日本刀ちゃん」って言われましたから(笑)。バカなんでしょうね(笑)。


菊木: だからって斬っちゃダメですよ!


日本刀: 斬ってないですよ! 斬ってないですよ!


菊木: 本当かなぁ……それでそのバカがなんて言ったんです?


日本刀: 菊木さんもバカって言っちゃって良い‥


菊木: そういうのはもうバカですから、しょうがないですよ。それで?


日本刀: そうしたら「コーヒーってのは酔いに良いんだよ」っと言って、何かパカっと開けて飲み始めたんですよ。


菊木: たぶん缶コーヒーですね。まぁ水筒のようなものです。


日本刀: あっ、そうなんですか。いや、そしたらですよ、その酔っぱらいが、もう全然飲めてないんですよ。そのコーヒってのを。全部こぼしてるような感じで。なんだコーヒー浴びてるのか、って言いたくなるような。


菊木: 酷いですね。あっ、その時にはねたコーヒーが……


日本刀: はい。鍔元のところについちゃいまして……


菊木: あのー、コーヒーをそれだけこぼしたということは、祠の中も汚れて、虫とかが‥


日本刀: あぁっ! もうその通りです! 酷かったですよ! 村の方が定期的に掃除に来てくれていたので良かったですけど。でも夏場の出来事だったので酷かったです。


菊木: でもだからって真っ二つに斬っちゃダメですよ。


日本刀: だから斬ってないっての! 真っ二つにはしてません! 三枚におろしただけ‥


菊木: 三枚におろ‥


日本刀: だから冗談! 冗談ですよ! 日本刀の冗談!


菊木: 恐いんですよ! その日本刀の冗談が! ただでさえ恐いのに!


日本刀: ただでさえ恐い? ど、どうしてですか?


菊木: いやそれがもう一つの質問なんですけどね?


日本刀: いいですよ、してくださいよその質問。


菊木: …………日本刀さん、なんで抜き身なんですか?


日本刀: あぁ、エビの?


菊木: それは剥き身! 抜き身ですよ!


日本刀: あぁ、家の裏に廃病院とかあると嫌ですよねぇ……


菊木: 不気味だよそりゃ! いま念殺さんに抱いてる私の気持ちなんですよそれは! 抜き身だって言ってるんですよ私は! 鞘はどうしたんですか!


日本刀: 鞘なんて始めから無いですよ。


菊木: 始めから無い? そんなわけ‥


日本刀: あるんですよ、これが。


菊木: 詳しくいいですか?


日本刀: いいですけど、詳しくといっても簡単な理由ですよ?


菊木: 構わないです!


日本刀: それじゃ説明しますけど、始めから鞘に納める気などない、という思いを込めて刀匠が私を作ったので、鞘が無いんです。


菊木: …………なぜそういう思いが込められたのでしょうか?


日本刀: ここで言うと番組が終わりかねないですけどいいですか?


菊木: 言わないで! 言わないでください! 危ないなもう!


日本刀: そりゃそれだけの理由がありますよ。鞘に納める気がないということは、常に刀を振り続けるということなんですから……まぁ、私の刀匠は世の中と大切な人に裏切られたと、いうことなんですよ、柔らかく言えば。


菊木: 終始恐いですね……


日本刀: まぁ武器というのはそんなものですよ。やはり人を傷付ける為に生まれてくるのが武器ですからね。もちろん、武器を使って人を助けることも出来ますが、それは我々がしていることじゃなく、人間の皆さんの優しい心がしていることですからね。

 武器はあくまでも人を傷付けることしか出来ないんですよ。ただ、持ち主の心に従うのみなんです。


菊木: なんだか悲しい運命ですね……


日本刀: えぇ、まぁ……


菊木: 念殺さんも一度は鞘にと思ったことはあるんですか?


日本刀: もちろんあります。今でも鞘に納まりたいと思ってます。やはり、抜き身でいるということは常に戦闘状態といいますか、臨戦態勢なわけなんですよ。ですから祠の中で静かな時を過ごしていても、どうにも落ち着かず、拭いきれない血の過去が一瞬蘇ることもあるわけです。


菊木: 鞘に納まることで、真の浄化が出来るということですか?


日本刀: そうです。鞘に納まることでようやく私も静かに眠ることが出来るわけです。しかし、それは難しいことなんです。そんじょそこらの鞘職人が作った鞘では、私を納めることなど出来ません。私を納めたが最後、一瞬で粉々に砕け散ります。


菊木: えっ! それは……


日本刀: 私の剣圧に耐えられないんですよ。もちろん、怨念の類いはほぼなくなっていますが、常に抜き身の状態でいましたし、なにより刀匠の命と引き換えに生まれた私です、日本刀としての「気」が違います。


菊木: 本当は念殺さんも平穏な生活を望まれているということですね?


日本刀: ……はい。


菊木: 爆薬を用意できますが、どうします?


日本刀: (笑)


菊木: (笑)


日本刀: どうします? じゃないんですよ菊木さん(笑)


菊木: (笑)


日本刀: どうにか爆薬で私を粉々にしようと考えている菊木さんの方が恐いですからね!


菊木: 冗談ですよ。


日本刀: 菊木冗談も十分に恐いじゃないですか!


菊木: ただ、冗談はここまでです。実は念殺さんに会っていただきたい方がいまして。


日本刀: えっ、私にですか?


菊木: こちらの方です、どうぞ!


日本刀: ……………………えっ?


鞘: 初めまして、鞘と申します。


日本刀: …………鞘さん?


鞘: はい。爆薬でなくて申し訳ありません。


菊木: (笑)


日本刀: (笑)


菊木: いやぁ冗談に乗っていただいちゃいまして、どうもすみません。


鞘: いえいえ、とんでもないです(笑)。


菊木: えー、ご紹介します。念殺さんをお作りになった刀匠の盟友であった鞘師の方がお作りになった鞘さんです。


鞘: どうも鞘です。


菊木: 念殺さん、実は念殺さんの刀匠さんの最期を知ったその鞘師の方が、念殺さんを納めるために作った鞘がこの鞘さんなんですよ。


日本刀: えっ! そんなまさか!


菊木: 本当なんですよ。本当は私、念殺さんの過去を知っていたんですよ。それで詳しく調べているうちに鞘さんの存在を知りまして。


日本刀: …………菊木さんも人が悪いなぁ(笑)。


菊木: すみません。でも本当の話なんです。この鞘さんは、とある神社で祀られていたんです。人々の悪しき心を納める鞘として。ですが、本当は念殺さんを納めるために作られた鞘だったんですよ。


鞘: 運命の悪戯により、長い年月の間すれ違いをしていましたが、ようやく今日という日を迎えられました。


日本刀: 鞘さん…………


鞘: これからは私と共に過ごしましょう。平穏で豊かな時間を。


日本刀: ありがとうございます。ありがとうございます! ……菊木さん、ありがとうございます!


菊木: いいんですよ念殺さん。あなたは十分に戦い、傷付いてきた。これからは争いのない、静かな時をお過ごしください。


日本刀: ありがとうございます……では菊木さん、申し訳ありませんが私を鞘さんに納めていただけますか?


菊木: お断りします。


日本刀: なんでですか(笑)!


菊木: (笑)


日本刀: 納めてくれてもいいでしょ!


菊木: 納めるには念殺さんを持たなきゃいけないでしょ! その時に残ってる怨念に呪われたらどうするんですか!


日本刀: 持てよ(笑)。


菊木: なんだ爆薬か(笑)。


日本刀: (笑)


菊木: (笑)


日本刀: だから、残ってないって言ってるでしょ! 今は武器としての戦闘本能が強くて大変だと言ってるんですよ!


菊木: わかりましたよ……まったく、これがインタビュアーの仕事な‥


日本刀: ブツブツ言わないで下さいよ(笑)。


菊木: 冗談ですよ。ではいきますよ? 鞘さんも準備はいいですか?


鞘: はい、もちろんです!


菊木: では…………


日本刀: お願いします。


菊木: …………………………はい、納めました! どうですか?


日本刀: …………大変に清々しい気持ちでございます。今まさに生を受けたという感じがいたします。


菊木: あの、話しているのは念殺さんですか? それとも……


日本刀: いえ、もう一心同体。今は一振の日本刀として話しています。


菊木: ……良かったですね。


日本刀: はい、菊木さんにはなんとお礼を言ったらいいか……


菊木: いいんですよ、日本刀さん。本日は本当にありがとうございました!


日本刀: こちらこそ、ありがとうございました。


菊木: さて番組をご覧の皆さん、次回はこの菊木萬太郎が‥


ピキッ…………


菊木: えっ? 今ピキッて聞こえましたけど?


日本刀: 聞こえました! えっ、鞘ですか?


菊木: ちょっと見てみます!


日本刀: お願いします!


菊木: …………いや、これといって…………あっ。


日本刀: えっ! あっ、って言いました!? 今、あっ、って言いましたよね!?


菊木: 言ってないです、言ってないです! ただ専門家の方と鞘師の方に来ていただいているので、直ぐに見てもらいましょう!


日本刀: 何にもなってないのに直ぐに見てもらう必要があるんですか!?


菊木: もう大急ぎで見てもらいますから! は、はい、それでは番組をご覧の皆さん、次回はこの菊木萬太郎がアナタの事を!


観客: 『NEHORI!』 『HAHORI!』


菊木: 聞いちゃうかもしれませんよ。それではまた次回、ごきげんよう! さよなら! 


…………ピキッ


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