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第2回ゲスト 優しき灯火・和ろうそくさん

菊木: 皆さんこんばんは。菊木萬太郎です。今宵も、本来なら話を聞くことが出来ない方々に、この菊木萬太郎が……


観客:NEHORI! HAHORI!


菊木: 聞いていきたいと思います。ではゲストを紹介いたしましょう。


和ろう: あ、どうも皆さん和ろう‥


菊木: ちょっとすみません! あの、ご紹介しますので!


和ろう: あ、あぁ、分かりました、すみませんどうも(笑)。


菊木: えーそれでは……その身を燃やし、人々の日常を照らし続けてきた文明発展の立役者。優しき灯火(ともしび)・和ろうそくさんです!


和ろう: どうも、皆さんの優しき灯火・和ろうそくでございます! えー、ワロちゃんとでも呼んで下さい!


菊木: あ、あの、本日はよろしくお願いします。


和ろう: はい、こちらこそお願いします。


菊木: いやぁ、私、勝手ながらですね、和ろうそくさんは物静かな方なのではと想像していたんですが、非常にその‥


和ろう: 明るい性格なんですよ! でも自然なことでしてね。やっぱりこう、暗い性格のロウソクだとマズイですからねぇ。ロウソクなのに暗いのかよって(笑)。


菊木: なるほど確かに(笑)。そういえば今は火を灯していらっしゃらないんですね?


和ろう: まぁ私は新品じゃなく、二度三度と火をつけられている身なので火をつけられるのは構わないんですけど、火をつけちゃうとインタビュー中にどんどん小さくなっていっちゃますから(笑)。


菊木: あ、そうですよね(笑)。えー、それではですね……


和ろう: はい。


菊木: 先程「人々の日常を照らし続けてきた」と紹介の中で触れましたので、まずはロウソクの歴史について伺っていきたいと思うのですが、誕生したのはいつ頃なんでしょうか?


和ろう: あのー、諸説あるんですけど、一応はですね、紀元前3~4世紀頃には使われていたようなんですよ。


菊木: 紀元前ですか! それは驚きですねえ!


和ろう: 私も聞いた時はビックリしましたよぉ。


菊木: え?


和ろう: いや、なんでもないです(笑)。


菊木: あ、そうですか(笑)。それで、今のは「ロウソク」のということでしたが、和ろうそくさんはいつ頃……


和ろう: 私はですねぇ、これも細々した違いはあるんですど、奈良時代にはあったということです。


菊木: 奈良時代ですか。当時はやはり貴重品だったわけですよね?


和ろう: そうですね。大量生産出来るわけではないですし、原料の調達などの問題もありますから。


菊木: たしか原料はハゼの実などから採れる木蝋(もくろう)でしたね。


和ろう: そうなんですよぉ!


菊木: 灯芯(とうしん)もイ草の茎の皮を向いたものを使用されているんですよね?


和ろう: そう! そうなんですよぉ! いやぁ嬉しいですねぇ、和ろうそくについて詳しく知っている方って少ないもんですから。


菊木: 日本の誇れる文化の一つだと思うんですけどねぇ、和ろうそくさんは。


和ろう: ありがとうございますぅ、本当にぃ! なんでしたら火つけましょうか?


菊木: いえいえ! お話を聞いている間に小さくなっていったら困っちゃいますよ!


和ろう: でも小さくなったらなったで少し性格が変わっていくんですよ、我々ロウソクは。


菊木: えっ、そうなんですか!?


和ろう: 私の先輩方がそうでしたけど、我々の寿命というのは目に見えるものですし、始めからおおよその時間が設定されてますからね。最後の方になってくると全てをこう、悟ってくるような感じになるんですよ。


菊木: なるほど、ロウソクならではという……


和ろう: そうですねぇ。知り合いの鉛筆さんは短くなっていくと悲観的になる方もいますので……


菊木: あ…………


和ろう: まぁロウソクも鉛筆も最終的に吹っ切れて「よく分からねぇけど、とにかくかかってこい」みたいな感じに落ち着きますんで(笑)。


菊木: それ落ち着いてるんですか(笑)。


和ろう: 落ち着いてます落ち着いてます(笑)。


菊木: それで、原材料の話が出たので少し掘り下げたいんですけど、和ろうそくさんの製法・作り方はどういったものなんですか?


和ろう: えー、まずですね、全てが手作業なんですね。


菊木: 全てですか!?


和ろう: そうなんですよ。そりゃなんとかすれば機械化出来るんでしょうけど、情緒がないもんですからねぇ。なぜ人の温もりを忘れられるのかということですよ。


菊木: やはり和ろうそくさんは機械化という近代文明に危惧を覚えますか?


和ろう: 機械化の全てにということではないですけどね。機械化に移行、または科学を積極的に取り入れたことによって、人への害が減ったり、自然・環境を守ることに成功した例もありますからね。ただ今言ったことの真逆のことの方が多いわけですし……


菊木: 確かに公害というのは大きな問題ですね。


和ろう: 需要を明らかに上回っている過剰な大量生産と、それによる廃棄処分は目に余りますよ。品質の低いものを大量に作って安く売り、すぐに壊れるがために買い直す。これは恥ずべき習慣だとさえ思っていますよ。


菊木: 目先の利益・利便を優先した結果ですからね……


和ろう: 店のすみでホコリを被っている商品がそれを物語っていますし、握手がしたい、シールが欲しいと言って商品を買っただけで捨てるなんて罰当たりもいますしね。この世に無限のものなんてないんですよ。限りある資源の中で生きているということ忘れている方が多いと思うんです。身を燃やし生きてく僕らは敏感に感じますね。


菊木: …………「よく分からねぇけど、とにかくかかってこい」からの差がありすぎて、全然頭に入ってこないんですけども(笑)。


和ろう: (笑)。


菊木: もちろん! もちろん大切なお話だと私も思ってます。しかしその‥


和ろう: すみませんすみません(笑)。いやちょっとあの、なかなか自分の意見を皆さんにお伝えする機会がないものですから、少し慌てちゃって(笑)。


菊木: 大丈夫です、構いませんから(笑)。


和ろう: 途中で話を戻そうと‥


菊木: それ感じました。


和ろう: あっ(笑)。


菊木: では話を戻しまして、全て手作業ということですが……


和ろう: そうなんです。まぁ簡単に工程を説明しますと……


菊木: お願いします。


和ろう: えー、まず、木の棒や竹の棒に和紙巻きつけて、その上から灯心となるイ草の、まぁ(ずい)といいますか、それを巻きつけていくんです。これは女性が多く担当されてます。


菊木: なるほど、もっとも大切‥


和ろう: あっ、最後にあの、うすーく真綿を巻きつけて固定します!


菊木: 忘れてました?


和ろう: えー、次にですね(笑)。


菊木: (笑)


和ろう: 40~45度に温めて溶かした木蝋に、先程の棒をさっと入れまして、蝋を馴染ませます。こうすることによって程よく固定され、作業中は棒から抜けにくくなり、完成の際には棒から外しやすくなるわけです。


菊木: 40~45度と、かなりの温度になるわけですねぇ。


和ろう: あぁ、確かに人間の方ですとそうなりますかねぇ。


菊木: あっ、和ろうそくさんは火をつけるんですもんね(笑)。

和ろう: えぇ、もうアッツイアッツイですから、40度に比べれば(笑)。でもあれですよ? 先程の馴染ませた棒に何度も蝋を重ねて乾かせてを繰り返すわけなんですが、職人さんは素手で作業しますからね。


菊木: 素手ですか!? 45度にもなると熱いと思うんですけど……


和ろう: そうですね。たぶん、長年の修業と作業で慣れていくものなんでしょうけどねぇ。


菊木: これ、木蝋はただ掛けていく訳ではない……


和ろう: はい。一度に6・7本の棒を持ちまして、蝋の入った(おけ)の上で作業するんですけど、桶の脇に小さな台がありまして、そこで灯心の巻きついていない棒の部分を乗せて片手で押すように回していくんですよ。


菊木: 回転のイメージとしては、蕎麦やうどんの生地を伸ばす時のめん棒のような回転のさせかたですか?


和ろう: イメージとしてはそうですね。えー、そして木蝋を掛けて、回転させながらもう片方の手でまんべんなく木蝋を密着させて厚み・層を均一にしていくわけなんです。


菊木: これ、和ろうそくさんはですね、意識的にはやはり灯芯作りの段階で……


和ろう: ほんのりとあります。ただハッキリしてきた時にはもう、とんでもない速度で回転してますから(笑)。


菊木: あ、そうですよね(笑)。そして、なんども自分を塗り替えられる訳ですからねぇ。


和ろう: いやもうね、自分が何だとかそんな考えなんてないわけですよ(笑)。新しい自分を掛けられて、グルグル回されてですよ、乾かす間に少しずつ落ち着くんですけど、完全に落ち着く前にまた新しい自分を掛けられてグルグルですから!


菊木: (笑)


和ろう: ただ、手で回しているので一瞬だけ回転が止まるんですよ。


菊木: えぇ、えぇ。


和ろう: その時に回転が合えば、職人さんの真剣な眼差しを感じますね。


菊木: なるほど、ということはご兄弟といいますか、複数本同時に作られているわけですから……


和ろう: そうなんですよ、私の時はバカ兄弟がいましてね。ある一本はずっと「グルグルグルッ」って叫んでるんですよ。


菊木: ずっとですか?


和ろう: ずっとなんですよ(笑)。乾かされてる時は「グルグルまだ? グルグルまだ?」ってずっと言ってるんですよ。


菊木: (笑)


和ろう: ただですね、繰り返していくうちに静かになっていくんですよ。


菊木: あれ? どうしちゃったんですか?


和ろう: まぁ本人いわく、悟りを開いて、いわゆるその、瞑想状態に入ったらしくて……


菊木: ええっ!? グルグルッからですか!?


和ろう: その反動だと思うんですけど、決められた大きさになったら芯出しってのをするんですよ。


菊木: えぇ。


和ろう: 火をつける芯まで蝋が覆い被さってますから、温めた専用の刃物で蝋を取り除くんですが、その途端ですよ。芯が出た途端……


菊木: あ、先程のグルグルさんですか?


和ろう: なんて言ったと思います? 「我々は燃え尽きようとも、和ろうそくという誇り高き文化の灯火は絶やしてはならない」って言いましたからね?


菊木: いや、あの……和ろうそくさんもご兄弟のグルグルさんも、発言内容の差がありすぎて全然頭に入ってこない……


和ろう: どうもすみません(笑)。


菊木: それにしても道具は使用しても、機械などには全く頼らずに作るんですねぇ。


和ろう: そうなんですよ。成形の最終段階には仕上げ用の木蝋を掛けて馴染ませるわけなんですけど、その時の木蝋の温度は50度近いですからね。


菊木: えっ!? その際も素手ですか!?


和ろう: はい!


菊木: なるほど……何と言うんでしょうか、和ろうそく独特の美しさの秘密が垣間見えたようですね。やはり手作りの成せる技と言いますか……


和ろう: もちろん、西洋ロウソクを作る際にも、多くの方がプロの技を駆使して、機械と共に良質な西洋ロウソクを作ってらっしゃいますが、あまりに和ろうそくというものが過小評価されている気がするんですよね。


菊木: 確かに。そうしましたらここで、和ろうそくさんと西洋ロウソクさんの違いに触れていきたいと思うんですけど……


和ろう: はい、分かりました。


菊木: まずは……えー、和ろうそくさんはハゼの実から採れる木蝋ということで、植物性のものから作られているわけですね?


和ろう: そうですね。で、西洋ロウソクさんはですね、基本的には石油を作る時に析出(せきしゅつ)するパラフィン、パラフィンワックスというものが原料になりますね。なので芯に火を灯すと我々よりも油(すす)が多く出てしまうんですね。


菊木: そういえば、消した際に少し臭いを感じますね。


和ろう: えぇ、また空気も少し汚れてしまうんですね。まぁ元が石油なのでいたしかたないですけど。


菊木: あの、火を灯す芯にも違いがあるようですけども……


和ろう: 西洋ロウソクさんの場合は芯に糸を使用しているものがほとんどですね。我々は先ほど言った通りなんですが、まだ特徴がありまして。


菊木: おっ、特徴ですか。


和ろう: そうなんですよ、ちょっと失礼して……どうですか菊木さん、私の胴体を下から見ると……


菊木: あっ! 芯の先端の方まで空洞が続いているんですねぇ! これは棒から抜き取った際に出来たものですか!


和ろう: そうなんです。この空洞が、我々が見せる独特な火のかげろうを作り出しているんですよ。


菊木: かげろう、つまりはあの火の柔らかな揺れですね?


和ろう: まぁ、落ち着きが無いなんて言われることもありますけど(笑)。あとサイズなんですが、西洋ロウソクさんは「号」を使用しますが、和ろうそくの場合は「(もんめ)」を使用します。


菊木: 日本は本当に単位といいますか、物の数え方が多いですよね(笑)。さぁ、いよいよお値段なんですけども……


和ろう: お金の話します?


菊木: (笑)


和ろう: なんでそんなに楽しそうに笑ってるんですか!(笑)


菊木: いやぁ、避けては通れないですからねぇ。前回のゲストのピーマンさんには聞きそびれちゃいましたし。


和ろう: 酷かったですね、あれは(笑)。


菊木: (笑)


和ろう: この番組は二回分を一気に撮ってるんですよ皆さん。ですから前回のピーマンさんの回を僕は控室で見てたんですけど、まぁ酷いですね。遠回しにピーマン嫌いと告白するような「お久しぶり」という挨拶から始まって、ピーマンの刺し身だお造りだとね?


菊木: 嫌いというわけじゃないんですよ?


和ろう: じゃないとしても「野菜界の重鎮」を「刺身界の重鎮」って間違えますか? 最後の最後で?


菊木: ちょっともう和ろうそくさん! いいですからお金の話をしましょうよ!


和ろう: 何ですかその下衆(げす)発言は(笑)。


菊木: (笑)


和ろう: 「いいから金の話を」じゃないんですよ(笑)。


菊木: しかし消費者の皆さんは気になりますから。お願いします。


和ろう: えー、5本セットで四億です。


菊木: また雑な嘘を……


和ろう: (笑)


菊木: ウォンで考えたって高いですからね? それでおいくらなんですか?


和ろう: いやあの、お店によっても値段は違いますから、ここで大体の値段を言っちゃうと「この店は高い」だの「この店は安い」だのと騒ぎますからね? (いや)しい人間の皆さんは。


菊木: (笑)


和ろう: とにかく百円均一には売ってませんよ、我々は! 良いものを安くというのはわかりますけどね、良いものを適正価格で買っていただかないと、そのうち良いものは無くなりますからね!?


菊木: どうも、すみません。それでは、和ろうそくさんと西洋ロウソクさんとの冷えた関係についてなんですが。


和ろう: いよいよ化けの皮が剥がれますか?


菊木: な、何がですか?(笑)


和ろう: 冷えた関係と決めつけてね? 脈絡もなく値段の話から捻じ曲げて話題を変えていきましたけど。というかですね、ロウソク同士ですから冷えたなんてとんでもないですよ。


菊木: あ、バチバチと火花を散らす……


和ろう: わけないだろバカ。


菊木: すみません(笑)。


和ろう: 前回ゲストのピーマンさんの気持ちが手に取るように分かりますね(笑)。気の短いゲストなら張っ倒されてますよ? 本当に(笑)。


菊木: いや、あの、本当に申し訳ないと思っているんですけど、やはりインタビュアーとしましては、ぐっと踏み込んでお聞きしなければならないこともあるわけですよ。


和ろう: あぁ、なるほど。だとしても踏み込む一歩が大きすぎる。


菊木: あっ、申し訳ありま‥


和ろう: いいですいいです、もうグチグチ言ってると先に進まないんで(笑)。


菊木: それでは改めてお伺いしますが、西洋ロウソクさんとはどういった?


和ろう: いい関係だと個人的には思ってますよ。寄り合いの時なんかに話しますけど、なんといっ‥


菊木: すみません、寄り合いがあるんですか!?


和ろう: たまにありますよ。ロウソク業界全体で行うものですけどね。ロウソクの魅力を知ってもらおうということで。あのー、幕張とかであの……


菊木: 本当ですか?


和ろう: え? 何がですか? 本当ですよ。幕張は嘘ですけど(笑)。


菊木: ちょっと!(笑) 嘘は勘弁してくださいよ!


和ろう: 希望を言ったまでですよ。ロウソクという枠組みだけでね、幕張かなんかでドーンとやりたいわけですよ。


菊木: それ分かります! 私もインタビュアーという枠組みだけで、幕張とかでドーンと開催したいんです!


和ろう: 聞き手だけが集まって何をどうドーンとやるんですか(笑)。


菊木: いやあの……(笑)


和ろう: いいですか、西洋ロウソクさんとの関係を話しても?


菊木: すみません、どうぞ。


和ろう: やはりね、お互い得意分野が違うわけですよ。先程ね、少し我々と西洋ロウソクさんとの違いを出しましたけど、つまり我々は照明という点で優れていて、西洋ロウソクさんは違う点で優れているわけですよ。例えば成形技術なんかですね。


菊木: なるほど成形ですか。


和ろう: 溶かしたパラフィンを型に流し込むことで、様々な形を作ることができますからね。また同時に様々な色のロウソクも作れるわけですよ。そうなったら無限に広がりをみせますよね。


菊木: キャラクターをかたどった商品などありますし、最近は仏壇に供えるためのユニークなロウソクもありますし……


和ろう: ここ数年で一気に増えましたね。和菓子などの食べ物や、ビールやお茶などの飲み物の形をした西洋ロウソクさんは本当に人気が出ましたよ。


菊木: そのユニークなロウソクのおかげで、亡くなった方と過ごした楽しき日々が、灯火と共によみがえって来るようですよ。


和ろう: いやぁ、嬉しいお言葉です。何十年も先の話ですけど、菊木さんは何か要望ありますか? ろうそくの形の。


菊木: そうですねぇ…………


和ろう: あっ、わかりましたピーマンですね?


菊木: 言ってないです! いやまぁ、言ってないですというのもあれですけど! なぜだかピーマンさんが控室に戻らず、観客席にいらっしゃるものですから……


和ろう: それじゃ知り合いの西洋ロウソクさんに伝えておきますから。


菊木: 確かに思い出深いですけどね、ピーマンさんは……ちなみに、和ろうそくさんは何がいいんですか?


和ろう: 私ですか!?


菊木: やるとしたらといいますか、和ろうそくさんの仏壇があるとしたらです。


和ろう: そう……ですねぇ……やっぱり和ろうそくですかねぇ(笑)。


菊木: えっ(笑)。ご自身ですか?


和ろう: 違います違います。和ろうそくの形をした西洋ロウソクさんですよ。


菊木: あっ、なるほどそういうことですか(笑)。ところでどうですか、ドクロの上で火を灯されるお気持ちは?


和ろう: な、なんですか? ちょっと、もう一回言ってもらえますか(笑)。


菊木: あの、(しょく)台や蝋燭立てではなく、ドクロの上で火を灯されるお気持ちはどうですか?


和ろう: また節操(せっそう)のない質問を……そりゃ嫌ですよ!(笑)


菊木: (笑)


和ろう: また、バカ笑いをしてますけどね菊木さん。というかこの機会にハッキリと言わせていただきますけどね?


菊木: えぇ、どうぞ。


和ろう: ロウソクをね、いかがわしい事に使うんじゃねぇよバカ、と言いたいんですよ我々は! 口調も言葉使いも荒くなっちゃいましたけど。


菊木: いえ、あの、私も同じような考えですよ和ろうそくさん!


和ろう: そうですよねぇ! いやね、おかしいんですよ、とにかく! 製作工程の際に説明しましたけど、全てが心のこもった手作業なんですよ! 優しく暖かな光を、灯火を届けたいという一心で我々を作っているんですよ職人さんは! そんな思いの詰まった我々をね、ドクロの上に設置してる場合じゃないんですよ!


菊木: 全くその通りだと思います。しかもわざわざ赤い和ろうそくさんを使用して‥


和ろう: そう! 全くね、理解に苦しみますよ。あと詳細は省きますけどね、もっといかがわしい使い方をしてるのもいるんですよ!


菊木: 詳細を省いていただいてありがとうございます(笑)。


和ろう: 本当にね、バカなんですよ! きゃつらは(笑)。


菊木: ちょっとすみません! ちょっとすみません(笑)。あまりその、バカバカ言うのは、あの……


和ろう: あ、すみません。少し感情的になっちゃいまして……いやぁ、でもダメですね。この話を続けていくと罵詈雑言が飛び交いそうですから‥


菊木: 話題を変えます。


和ろう: あっ、ありがとうございます。あのまま話をしていたら品位を疑われかねませんから(笑)。


菊木: えーそれでは(笑)。和ろうそくさんや西洋ロウソクさん以外にも、ロウソクさんがいらっしゃるようですけども……


和ろう: あぁ、良い質問ですねぇ。実はご紹介したいロウソク仲間がいるんですよぉ!


菊木: いいですねぇ。明るく元気な和ろうそくさんが好きですよ私は。それでどんなロウソクさんなんですか?


和ろう: ボタニカルキャンドルさんです。


菊木: ボタニカル? 植物由来ですとか、植物から採取した、などの意味ですけど、この場合は薬草・香草などの意味合いも含まれそうですね。


和ろう: おっ、ご存知で?


菊木: 私の好きなお酒、ジンの香り付けなどに使用される植物もボタニカルと呼ばれているのでわかったんですよ。


和ろう: ジンをお飲みになられるんですか?


菊木: たしなむ程度ですが。


和ろう: 生意気ですねぇ。


菊木・和ろう: (大笑)


菊木: な、なんで……なんで私に毒づいたんですか!(笑)


和ろう: すみません(笑)。まだ先程の、なんといいますか、良くない心がくすぶってたんですかね?


菊木: もう、話を戻しますけど……


和ろう: はい。


菊木: ボタニカルキャンドルはアロマキャンドルとは違うんですか?


和ろう: そうですね。アロマキャンドルはですね、香りを楽しむことをメインに据えたキャンドルの総称ですので、植物性のものもあれば、パラフィンを使用したものもあるんです。


菊木: つまり、植物由来のものであればボタニカルキャンドルということですか。ということは、和ろうそくさんもボタニカルキャンドルですか?


和ろう: 大きな枠組み、大きな意味で捉えればそうですね。ただ、ボタニカルキャンドルの中でもソイワックスを主原料にしたキャンドルは一味違いますよ?


菊木: ………………


和ろう: 今「食べられるんですか」って言葉を飲み込んだでしょ?


菊木: あれ(笑)。ちょっと、心を読まないでくださいよ。


和ろう: 読んでませんよ! 顔に出てるんですよ! えー、それでソイワックスなんですが、ご察しの通り大豆から作られているキャンドルでして、非常に個性的なキャンドルなんです。今回はいくつかの特徴を紹介しますね。


菊木: お願いします。


和ろう: 一つは(ゆう)点が低い。つまり一般的なロウソクに比べ、熱に敏感で柔らかくなりやすいんですね。ですから火を灯しますと素早く蝋が液状になって燃焼時間も長くなるんですよ。そうそう、アロマ入りの場合は香りも広がりをみせますし。


菊木: これは面白い特徴ですね。家でのリラックスタイムにはもってこいですね。


和ろう: しかもですね、純粋なソイキャンドルは燃焼時に空気をキレイにしてくれる効果もあるんですよ。中には防虫効果のあるキャンドルなんかもありますよ。


菊木: いやー、お見逸れしました。ロウソクには実に様々な効能や働きがあるんですねぇ!


和ろう: まぁこれはですね、おそらくロウソクに限ったことではなく、様々な「モノ」に対して言えることだと思いますね。固定観念などにとらわれすぎてしまうと、真実や(ことわり)を見失ってしまうこともあります。臨機応変。何でもかんでも新しいものが優れてるわけではありませんし、その逆もまた(しか)りです。


菊木: 柔軟な心構えが大切なんですね。


和ろう: そうですね。そんな心を取り戻してくれるのが、ロウソク・キャンドルだと思ってます。


菊木: もう目からウロコで、大変勉強になりました。


和ろう: いえ、とんでもありません。


菊木: そろそろ、お別れの時間になりましたが……


和ろう: あ、それじゃ私に火を灯してみますか?


菊木: よろしいんですか?


和ろう: やっぱり、和ろうそくの火を、灯りを感じてほしいですから。


菊木: では、失礼して……


和ろう: はい。


菊木: ………………


和ろう: ………………


菊木: いやぁ、これは美しい……


和ろう: ありがとうございます。


菊木: 清らかであり、親しみを感じるあたたかな灯りですねぇ……火の揺れにも情緒があって……


和ろう: どうですか菊木さん、芯切りをしてみませんか?


菊木: 芯切り……ですか?


和ろう: 大きなサイズの和ろうそくの場合、灯芯が燃え残るんですね。そうなるといたずらに火が大きくなってしまうんですよ。ですので、芯切りハサミというものを使用して切るんです。目安はサイズによって違いますので、皆さんは個々にお調べになって下さい。


菊木: あ、このハサミですね? これ、和ろうそくさんの場合はどのくらいの位置で切ればいいんでしょうか?


和ろう: 私の場合はですね、いま燃えてます芯の半分くらいの位置で切って下さい。切った芯は落とさないようにお願いします。


菊木: わかりました。それでは……


和ろう: ………………


菊木: ……はい、切りました。


和ろう: はい?


菊木: いや、あの、芯を切りました。


和ろう: えっ? 芯を切った? ……あれ、ということは私いま火ついてます?


菊木: あ、あの、はい。火はついてますね……


和ろう: 申し訳ないんですけど、あそこの「火消し」という道具で消していただけますか? フッと吹いてしまうと液状の蝋が飛び散ることもあるので……


菊木: わか……りました……あの、じゃあ、これは被せればいいんですよね?


和ろう: はい、ちょんとこう……あ、消えました消えました。ありがとうございます。


菊木: い、いえ……


和ろう: いやぁ、火をつけてても構わないんですが、インタビュー中に小さくなっちゃいますからね! それじゃ始めましょうかインタビュー!


菊木: えぇ!? ちょっと和ろうそくさん! 忘れちゃったんですか!?


和ろう: 何がですか(笑)。そんなことより始めましょうよぉ! どうも皆さん、優しく明るい灯火・和ろうそくでございます! 性格はロウソクだけに明るいです! ワロちゃんとでも呼んで下さい!


菊木: …………あの、和ろうそくさん。


和ろう: はい?


菊木: 申し訳ありません、カ、カメラの調子がおかしくなってしまったので、少しお時間いただけますか?


和ろう: それは仕方ありませんねぇ。大丈夫ですよ、待ってますから。


菊木: その間に、観客の皆さんとエンディングのコールの練習をしてもよろしいですか?


和ろう: そりゃもう、あの、よろしいでございますよ!


菊木: 途中、和ろうそくさんにもフリがありますので……


和ろう:分かりました!


菊木: え、えー……そろそろお別れのお時間のようです。第二回ゲスト、優しき灯火、いえ、優しく明るい灯火・和ろうそくさんでした!


和ろう: どうも、ありがとうございましたぁ!


菊木: さて番組をご覧の皆さん、次回はこの菊木萬太郎がアナタの事を!


観客: 『NEHORI!』 『HAHORI!』


菊木: 聞いちゃうかもしれませんよ。それではまた次回、ごきげんよう! さ、さようなら!


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