第1回ゲスト 野菜界の重鎮・ピーマンさん
菊木: それでは、記念すべき第一回のゲストを紹介いたします。甘さや鮮やかさばかりを追い求める現代野菜社会に睨みをきかせる、いや苦味を効かせる野菜界の重鎮、ピーマンさんです!
ピーマン: あ、どうもピーマンです。
菊木: ようこそおいでくださいました。
ピーマン: いえいえ、今日はよろしくお願いします。
菊木: いやぁ、ご無沙汰し、あの‥
ピーマン: ご無沙汰?
菊木: いえ、あのお久しぶり……
ピーマン: 同じような意味じゃないですか(笑)。 私のことお嫌いですか?
菊木: とんでもない! 食べてますよ私は! 例えば……
ピーマン: お、例えば?
菊木: えー、ピーマンの刺し身。
ピーマン: い、いや……
菊木: 他には、えー、ピーマンの入り浸り。
ピーマン: 入り浸ってどうするんですか! 煮浸しでしょ!
菊木: あ、そうでした! すみません! それと後は…… まぁでもそのくらい……
ピーマン: だからお嫌いなんでしょって(笑)。 開口一番の「ご無沙汰」といい、続いた「お久しぶり」といい。野菜界の重鎮と紹介しておきながら、やれピーマンの刺し身だの入り浸りだの……
菊木: 申し訳ありません。しかし、しかしですよピーマンさん。ここからですよ!
ピーマン: いや、ですから(笑)! ここからもなにも、始まったばっかりなんですよ!
菊木: もうピーマンさん。ピー・マン・さん! 冗談ですよ! ピーマンさんの緊張をほぐそうと思って言ったんですよ。肩の力を抜い、まぁピーマンさんに肩は無いですけど、リラックスをしてもらおうと思いまして。
ピーマン: あっ、なんだそういうことだったんですか! すみませんどうも、考えがいたりませんで……
菊木: いえいえ、お気になさらないで下さいよ。ピーマンさんは空っぽなんですから……
ピーマン: 先に決着つけるか(笑)。 記念すべき第一回のゲストの扱いとは到底思えないね!
菊木: おっ、苦味が効いてますねぇ。
ピーマン: もう好きにして下さい(笑)。
菊木: えー、それでは早速なんですが……
ピーマン: かなり間がありましたけどね。
菊木: 先程、ご紹介の時に少し触れたんですが、甘みを追い求める現代野菜社会はいかがですか?
ピーマン: また急な舵の切り方ですね。あのー、まぁ、甘さ・甘味の追求というのはやはり自然な流れであって、食物として捉えられている野菜にとって、甘みというのは美味しさに関わる事ですので良いとは思います。
菊木: なるほど。
ピーマン: 一方でね、甘さというものを理解しないまま、単に追い求めているところもあるわけですよ。甘さとは一体なんなのか。これを考えずしてね、ただ糖度が高ければいいというのは可笑しな話ですよ。
菊木: 確かに甘ければ良いだろうという風潮や流れがありますね。
ピーマン: また、甘さを考える上で欠かせない要素である「苦味」に対して、著しく理解度が低い点も、甘味追求の質の低下に拍車をかけているわけです。
菊木: 甘みをより鮮明に理解することが可能な「苦味」への意識低下ということですか。
ピーマン: そういうことですね。苦味があるからこその甘み、失敗や苦労あっての成功なわけですよ。また料理というのは様々な味があってこそ完成します。甘みだけではとてもとても……
菊木: つまり苦味は甘さにだらけそうな野菜界に『締り』を与えていて、同時に甘み探求のツルハシになっていると……
ピーマン: まぁ、そうなります。
菊木: なるほど…… あの好きな色ってあります?
ピーマン: 藪から棒。これは藪から棒。な、なんですか?
菊木: ピーマンさんの好きな色です。いや、なければ別に‥
ピーマン: あります、あります! ありますよ!
菊木: 何色ですか?
ピーマン: もちろん緑ですよ。何と言っても緑。これは愚問ですよ菊木さん。
菊木: あぁ緑ですか…… あの、好ましい色ってあります?
ピーマン: 一緒ですよね!?
菊木: そんなことありませんよ! あなたの事が「好き」です、というのと、あなたの事が「好ましい」ですというのでは違いますからね。
ピーマン: そりゃそうですけど、あなたの事が好ましいとは言わないでしょう!
菊木: 好ましい色は無しという‥
ピーマン: あります、あります! というか今作りますから…… えー、茶色ですかねぇ。やっぱり大地の色ですから。
菊木: あぁ茶色ですか…… あの好印象を覚える色‥
ピーマン: 何色を言って欲しいんだ! えぇ!? お目当ては何色なんだ(笑)!
菊木: そういう訳ではないんですけど(笑)。
ピーマン: じゃあどういう訳なんですか!
菊木: いやもう、質問を変えます。あの、情熱的な色って何色を思い浮か‥
ピーマン: 赤だな! 赤を言わせたかったんだな!
菊木: 赤で思い出しましたが、なんでもピーマンさんも赤くなるとか?
ピーマン: …………えっ?
菊木: 現在は緑でいらっしゃるピーマンさんも、情熱的な赤色になるとか?
ピーマン: ……えぇ、まぁ、赤くなります。
菊木: 赤くなるとどうなるんでしょうか? 野菜界に苦味を効かせる重鎮であるピーマンさんは?
ピーマン: ……くなりますかね。
菊木: えっ?
ピーマン: ……まくなります。
菊木: すみません、ちょっと聞こえ‥
ピーマン: 甘くなります! 今の私からは想像できないほど甘くなるんですよ! それはもうね!
菊木: つまりこれはどういう事なんですか?
ピーマン: いや、ですから、日本のピーマンってのは若採りなんですよ。
菊木: えぇっ!? ピーマンさん鳥なんですか!?
ピーマン: ここへ来てバカかよ! んなわけないでしょ! 収穫するのが早いってことですよ!
菊木: あっ、なるほど。なぜ収穫するのが早いんでしょうか?
ピーマン: それは農家さんに聞いて下さいよ。私にはちょっと……
菊木: そうですよね…… ところで日本のピーマンというワードが出ましたが、ピーマンで有名な都道府県といいますと茨城県や宮崎県ですが、ご出身は?
ピーマン: 私は茨城です。
菊木: そうですか茨城ですか! それじゃ雄大にそびえる筑波山のふもとで育ったんですか。
ピーマン: ま、まぁそんなとこですよ。
菊木: 筑波山は良いですよねぇ。ロープウェーだけでなく登山道もあって。夏や秋の頂上ではトンボが飛び交いますもんね。陽に照らされる姿も美しいですしね。
ピーマン: え、えぇまぁ……
菊木: 筑波山には行かれたことありますか?
ピーマン: ないですよ、ピーマンですから。
菊木: ご旅行には行かれます?
ピーマン: いやだから、ピーマンですから旅行には行かないですよ! 出荷とかはありますけど。
菊木: ちなみに原産地はどちらなんですか?
ピーマン: 原産地はあのー、南アメリカですね。
菊木: ということは、ピーマンという名前は南アメリカのほうの言葉ですか?
ピーマン: いえ、まぁ諸説あるんですけど、フランス語のピマンが変化したらしいです。まぁ元はトウガラシとかっていう意味なんですけど……
菊木: トウガラシ! ということはピーマンさんはトウガラシなんですか!?
ピーマン: 一応あの、ナス科トウガラシ属です。
菊木: え、どっちですか?
ピーマン: どっちも何もないんですよ、ナス科のトウガラシ属なんですよ!
菊木: あっナス科ですか。いや意外ですねぇピーマンさんがナス科というのは。トウガラシというのはなんとなく色や形が似ているので想像は出来るんですけど。
ピーマン: えぇそうなんですよ。
菊木: ねぇ意外ですよねぇ、色の話に戻りますけど‥
ピーマン: 戻ります?! 色の話?!
菊木: ピーマンさんのご親戚の方の話なんですけど、結構カラフルな、鮮やかな色をした方が多いですよね、パプリカさんは有名ですが……
ピーマン: そう…… ですね…… パプリカ兄さ、じゃなくてパプリカさんは先ほど話に出た赤を始め、黄色やオレンジといった色もありますね。肉厚で甘いですし……
菊木: 噂によるとフルーツのようなピーマンもあるとか?
ピーマン: あのー、バナナピー…… バナナピーマンさんとかは比較的に甘いですし、フルーツピーマンさんは糖度も高くて鮮やかで、スイートペッパーさんも甘いですね。
菊木: そこで改めて野菜界に苦味を効かせるピーマンさんにお伺いしたいんですが、フルーツピーマンさんはどのくらいの糖度が‥
ピーマン: 苦味を効かせるってところをなんで言ったの?
菊木: (笑)
ピーマン: いやいや、うつむいて肩揺らして笑ってる場合じゃないんですよ。糖度の話の前に何を改める事があったんですか?! どのくらい甘いんですかねぇ、くらいでいいでしょ? 苦味を効かせるピーマンさんにお伺いを、じゃあないんですよ(笑)。
菊木: でもあれですよ? 苦味を効かせているピーマンさんが認める甘さということで、糖度がどのくらいのものかを聞きたかったんですよ。それでは質問を変えまして……
ピーマン: 次はなんですか?
菊木: 成分についてなんですが、なんでもレモンさんに匹敵する、いやそれ以上のビタミンCを持っていらっしゃるとか!
ピーマン: どうも皆さん、野菜界の重鎮でございます(笑)。
菊木: 自分で言うんですか(笑)。
ピーマン: 今回タイミングが変な人がいらっしゃるので、自分で言っていかないと酷い目に遭わされますから。
菊木: (笑)
ピーマン: 大口開けて笑ってる場合じゃないんですよ! 一人楽しそうにしてますけど(笑)。
菊木: すみません。それにしても失礼ながら意外でした。あの、苦いピーマンさんにビタミンCが豊富とは。
ピーマン: 知っている方も多いかと思いますが、ビタミンCは酸っぱくないですからねぇ。レモンさんの酸味というのはクエン酸によるものですから。まっ、レモンさんより私のほうがビタミンCは多いですかね。
菊木: なるほど。ほかにもビタミンなどの成分でいいますとビタミンAやE、カリウムや葉緑素など、実に豊富なんですね。
ピーマン: (笑)
菊木: また、嬉しそうに笑いますねピーマンさん。
ピーマン: ようやく良さを皆さんにお伝えできたかなと思いまして。
菊木: ただこれ、完熟した赤ピーマンになりますと、いま言った成分が二倍以上に上が‥
ピーマン: 花は白いんです! 色の話で言いますと!
菊木: は、はい?
ピーマン: 緑だ赤だ言ってますけど、花はねぇ、可愛らしい白い花なんですよ。
菊木: これも意外ですね。それであの完熟‥
ピーマン: 露地栽培では6月から9月ですかね収穫・旬というのは。ただハウス栽培なども盛んに行われているので通年ピーマンを楽しめますね。
菊木: ピ、ピーマンさんすみません、ちょっと‥(笑)
ピーマン: 最近ではピーマン柄の布地などもありますし、ピーマン型の文鎮などもありますし、幸せな男にピーマンあり、とも言いますから。
菊木: はい?
ピーマン: ハッピーマンなんつってね!
菊木: すみません! ピーマンさん!
ピーマン: ……なんでしょう?
菊木: すみません、完熟したピーマンの話がまだ途中でして……
ピーマン: 完熟したピーマンの話は完熟したピーマンを呼んだ時にすればいいでしょ! それともあれですか、私を未熟者呼ばわりするつもりですか!?
菊木: そんな、とんでもない!
ピーマン: そりゃね、パプリカ兄さんやフルーツピーマンさんは甘くて美味しいですよ。バナナピーマンさんもこどもピーマンさんって方も甘みがあって肉厚で美味しいですよ。しかし、しかしですよ! わたしだってね、若採りされなければ赤く熟れることが出来るんですよ! 未熟者だ青二才だ言われても、苦いだ青臭いだ言われても、私たちは懸命にピーマンになるだけなんです! 嫌いな野菜ランキングの上位に選ばれても、直向きに栄養を皆さんに与え続けていかなければならない、それは私たちピーマンだけの誇りじゃない、嫌われている野菜…… 嫌われている野菜たちの誇りであり、活力なんですよ! 希望…… なんですよ……
菊木: …………実はそんなピーマンさんにお便りが届いているんですよ。
ピーマン: ……えっ?
菊木: えー、6歳の男の子からのお便りです。
ピーマン: ……男の子から手紙?
菊木: それでは読みます。『ピーマンさん、こんにちは。ぼくはピーマンがだいっきらいです』。
ピーマン・菊木: (笑)
ピーマン: 私に目があったら涙が溢れてますよ本当に(笑)。なんでそのお便りだよ! えぇ? 哀しみに暮れてるピーマンに「お便りが届いて……」なんて元気づけてくれるのかと思ったら『大嫌い』って!
菊木: しかも『だいっきらい』って小さい「っ」が入ってますからねぇ。
ピーマン: そうそう力がこもってるよね! じゃないんだよバカ! とうとう「バカ」という言葉を選んだよ私は!
菊木: 申し訳ありません(笑)。
ピーマン: って笑いながら言ってるだろ、だから(笑)。
菊木: さぁ、ここで美味しいピーマンの見分け方なんですが。
ピーマン: 何がどう「ここで美味しいピーマンの見分け方」なんだ!
菊木: なければ別にあの‥
ピーマン: あるよ! その急かすやり口ばっかだな本当!
菊木: ではお願いします。
ピーマン: まぁ、何と言っても張りのあるものが新鮮で美味しいですよ。表面がツルツルテカテカ光ってる感じのものが。また同じサイズなら重い方が肉厚で水分もあって美味しいですし、ヘタの切り取り部分がみずみずしいものがいいですよ。
菊木: なるほど参考になります。
ピーマン: ピーマンを食べない菊木さんにどう参考になるんだ(笑)
菊木: 食べてますって!
ピーマン: 例えば?
菊木: ピーマンの刺し身‥
ピーマン: だからどこのバカがピーマン削いでワサビ醤油でいただくんだよ!
菊木: …………あっ!
ピーマン: いちいち手を挙げるな!
菊木: でも刺し身の他にもまだ……
ピーマン: 他には?
菊木: ピーマンのお造り‥
ピーマン: 一緒だよ! 造りも刺し身もよ!
菊木: あとは……
ピーマン: ピーマンの洗いとか言うんじゃないでしょうね?
菊木: 危なかった‥
ピーマン: その言葉もしまっておけ! なんで言っちゃうんだよ!
菊木: すみません! あの、ではオススメの料理をお願いします。
ピーマン: ……はい、それじゃ焼き浸しを紹介します。
菊木: お願いします。
ピーマン: まずピーマンが3・4個。きのこはシメジなら1パックぐらいです。きのこはお好きなものをどうぞ。あとは調味料ですね。醤油が大さじ3くらい。お酢も大さじ3くらいです。だし汁は、えー大さじ1と、いや大さじ2でいいです。だし汁は顆粒のものを溶かしたものでも構いません。あとみりんを大さじ3ですね。
菊木: おっ、それだけで出来る料理なんですか!
ピーマン: えぇ、まあね! はいそれじゃ作り方です。まず、ボウルかバットに先程の調味料を全ていれてよく混ぜ、合わせ調味料をつくります。次にピーマンを幅広の千切りか乱切りにしてください。きのこ類は石づきを落として、汚れを取り除いておいてください。
菊木: パプリカでも可能ですか?
ピーマン: そうしましたらピーマンときのこを焼き網で焼いていきます。ピーマンは焼いた後、先程の合わせ調味料に少しつけておくので先に焼いて下さい。
菊木: (笑)
ピーマン: えーっと(笑)。網がない場合はオーブントースターや魚焼きのグリルでも大丈夫です。網目の広い場合はアルミホイルを敷いてください。そうしましたら焼き色がつくまで火を通すわけですが、強火ではなく、弱火と中火の間くらいでじっくりと火を通して下さい。また途中できのこの向きなどを変えて下さいね。
菊木: ピーマンさんのビタミンCは熱によって減少したり‥
ピーマン: ピーマンのビタミンCは熱に強いんですバカ。
菊木: すみません(笑)。
ピーマン: えー、ピーマンは焼きあがりましたら合わせ調味料に7・8分漬けてから皿に盛り付けて下さい。きのこは味が染み込みやすいので、えー、絡めるといいますか、少し浸す感じでいいです。両方を皿に盛り付けましたら、残りの合わせ調味料を上から少しかけてあげれば、ピーマンときのこの焼き浸しの完成です。
菊木: いやぁ、簡単ですねぇ!
ピーマン:イエイエ、サシミニハマケマスヨ。
菊木: す、すみません(笑)。……さ、さてピーマンさん!
ピーマン: はい。
菊木: 人類史上初となる野菜に、ピーマンさんに対してのインタビューとなったわけですが、いかがでしたか?
ピーマン: そうですねぇ、いくらかは人間不信になりましたかね(笑)。
菊木: (笑)
ピーマン: でもまぁ、今後ね、八百屋やスーパーでピーマンを見かけたときには、ぜひ今日の事を思い出していただいて、ピーマンも頑張ってくれているんだと、好きで苦味を効かせているわけじゃないんだと、優しさで購入していただけたらと思いますね。
菊木: 苦味も1つの経験と捉えていただきたいですよね。
ピーマン: そうですね。ピーマンを食べられるようになったから大人になれるわけじゃないですよ。けどね、苦い経験や体験をした人は、相手のことを思いやれる人になれると思ってますのでね。
菊木: 確かにそうかもしれません。
ピーマン: ですから菊木さんはもう少し苦味を知るように。
菊木: も、申し訳ありません(笑)
ピーマン: まっ、甘み時々苦み。これが人生じゃないでしょうか?
菊木: そうですね、苦みあってこそですね。
ピーマン: まぁ私はピーマンなんで人の人生なんかどうでもいいんですけどね。
菊木: あっ! ピーマンだけに身も蓋もない話ですね?
ピーマン: …………はい?
菊木: そ、そろそろお別れの時間のようです。記念すべき第一回ゲスト、刺身界の重鎮…… ではなくて、えー、野菜界の重鎮、ピーマンさんでした!
ピーマン: …………ありがとうございました。
菊木: さて番組をご覧の皆さん、次回はこの菊木萬太郎がアナタの事を!
観客: 『NEHORI!』 『HAHORI!』
菊木: 聞いちゃうかもしれませんよ? それではまた次回、ごきげんよう! さよなら!