噂話
「やっほー、お店であって以来だね」
歓迎会の開会式が終わった後、壇上の上に見えた人影が俺たちの元へやってきた。壇上から見ても目立っていたようで、あちらと目が合った様な気はしていたがまさか話しかけてくるとは思っていなかった。
「お久しぶりです……って程でもないですね。おはようございます」
「うんうん、覚えていてくれて嬉しいよ。アリシアちゃんも元気にしてたかな?」
彼女は以前、街のアクセサリー店にて俺たちの接客に当たってくれたお姉さんだ。同じ学園の上級生とは聞いていたが、この広い学園ですぐに再会するとは思っていなかった。
「おはようございます。この間は、その…ありがとうございました」
この間と言うのはアクセサリーを選んでもらった事だろう。おかげで俺はアリシアから指輪を貰う事が出来たのだ。因みにアリシアも俺が贈ったネックレスを身に着けてくれている。
元々【念話】を使用するために探していたのだが、今では別の意味もあったのではないかと感じているが。
「にへへ~、困った事があったらなんでもお姉さんに聞いてね」
「はい!」
店にいた短い時間で彼女達が何を話したのかわからないが、仲良くしているようで安心した。
「メディ君、この方は…?」
様子を伺っていたクラーがタイミングよく話しかけてきた。クラーとクローサさんにも紹介しておこう。
「この人はー…えっと、俺たちがお世話になった人だ」
やばい、そう言えばこの人の名前知らないわ。お店の名前がすごく個性的だったのは覚えている。確か……そう!『ジュエリー☆キアラ』だ!って、店名を思い出しただけで彼女の名前を聞いていないのには変わりないじゃないか。
「初めまして!Sクラス2年のキアラです。よろしくね」
「はい、私はクラーと申します」
「わ、私はクローサです。よろしくお願いします」
両者共に簡単な挨拶を済ませる。キアラさんって言うのか。…ん?それって店の名前と一緒なんじゃ…。
まぁそういうこともあるか。
「キアラさんは壇上に立っていましたが、何か役員をやっているのですか?」
「そうだよー。Sクラスの下級生指導部なんだ」
「指導部?」
指導部、と聞いてピンとくる者は俺を含めいない。歓迎会に関与しているという事は学外の組織ではないと予想できるが、逆にそれしかわからない。
「簡単に言うとね、新しく入ってきた子たちに、あれこれ横から口出すところだよ~」
自分の所属している組織をそんな風に言っていいのか?と思っていると、彼女の後ろから見知らぬ影が姿を見せた。
「キアラ、もう少しマシな説明をしたらどうだ」
姿を見せたのは、先程壇上で歓迎会の開催を高らかに宣言していた上級生だった。
ピンと伸ばした背筋にキリっとした眼鏡。いかにも優等生の雰囲気が出ている。周りで会話をしていた上級生がこちらを気にしたような目線をチラチラと送ってきており、注目を浴びる人物の様だ。
「先程壇上でも言ったが、改めて自己紹介をしよう。私はコンス・モヒート。Sクラス3年で下級生指導部のリーダーを務めている」
想像通り、彼は容姿だけではなく肩書も優等生であった。学園生活早々、上級生のリーダーに目を付けられるとはあまり嬉しくないイベントだな。
「指導部とは、この国立カルスニア学園に於いて生徒のあるべき姿を示す部だ」
あぁ、やはりあちらの世界でいう風紀委員みたいなものか。この学園内で貴族の権力を振りかざしている奴は彼らが取り締まっているのだろう。
そういった意味ではアリシアやクラーに話しかけることで他の貴族を牽制する狙いがあるのかもしれない。
「とは言え、あまり厳しく指導しても反感を買ってしまうだけだ。そこで親しみを持ってもらうため、」
「私達、指導部で今回の歓迎会みたいなイベントを開催してるんだ〜」
なるほど、確かにここにいる上級生をみれば、イヤイヤ参加している人は見当たらず、恐らく強制参加などではないのだろう。それに先生の姿もチラホラと見受けられるので学園側も承知しているみたいだ。
「日常的な活動としては、どういった事を?」
「そうだな、学園内や街の見回り。素行が悪い者への指導だったりクラス毎の問題共有等様々だ」
へぇ〜、学園内だけでなく街の見回りも行っているのか。毎日見回りしている訳ではないと思うが、かなり大変そうだな。
「最近だと、魔物が脱走した騒ぎがあったが、近くにいた指導部員がそれの避難誘導を行ったぞ」
「脱走…?」
直近でそんなイベントが発生していたかな?と思考を巡らせる。
「ほら、アリシアちゃんとメディ君がウチの店に来てくれた日だよ~」
あの日は確か、必要な物をアリシアと一緒に買い出しに行ったんだよな……。その後、街を散策していたら街の人が騒いでいて……あっ、もしかして白目剥いた犬の事かな?
一匹逃げてきた魔物がいたから、危険だと思って倒しちゃったんだよな。誰かの所有物だったり……?
「近くに勇者がいてくれたおかげで被害は全く無かったんだけどね」
「勇者?!勇者がこの街にいるんですか?」
俺が驚くよりも先に、クローサさんが慌てふためく様子で聞き返した。
それも無理はない。なんて言ったって、勇者は【聖都ホートラウン】に本拠地を置く、ホート教に所属しており、ホート教こそが魔族を目の敵にしている総本山だからだ。
信者は世界の半数を占めていると言われており、流石に熱狂的な信者こそ少ないものの、この国、この学園にも多くの信者がいるであろう大規模な宗教だ。
その代表的存在である勇者が街にいるのは、魔族であるクローサさんとっては厄災でしかない。
彼女と一緒に街へ来ていた魔族達は無事なのだろうか。勇者が居る事を知らなかったのは彼らが全滅しているから……とか無いよな?
「う、うん。あれ?もしかしてクローサちゃん勇者の追っかけだったりする?」
「いえ……勇者の噂は時折聞いていたものですから、少し、驚いてしまって」
「うんうん。伝説のSランク級に到達するって言われてる方だからね〜」
Sランクだって?ステータスの上限はAじゃないのか?アリシアのステータスでもSランクなんて表記は無かったぞ。純粋なステータスではランクは決まらないって事か?
どちらにせよ、街に出るときは勇者に気を付けよう。また渡り人の時みたいに面倒なことに巻き込まれたくないしな。
「周りが自分と同じく勇者に熱狂的だと思うなよ……それと、お前が出した報告書に勇者が現れたなんて記載無かったよな?」
「えっと…あはは」
「報告書は作り直しな。と言う訳で私とキアラは少々席を外す。少しばかりだが軽食も用意しているので、楽しんでいってくれ」
コンス先輩は半泣きになっているキアラ先輩を引きずりながら会場を後にした。そうすると、今までチラチラと様子を伺っていた他のグループからの視線が和らいでいくのを感じた。
先輩たちがいなくなった事で俺たちへの興味が薄れたのだろう。絡んでくるグループが少なくなるのは良いことだ。そして、先輩が去り際に言った軽食という言葉に反応した人物がいた。
「クローサさん、こちらのお菓子は食べたことはありますか?」
「いえ……不思議な見た目をしていますけど、美味しいのでしょうか?」
「もちろん。ああ、それでしたら僕が色々取ってきますよ」
「そんな、私も行きますよ!」
意外な事にクラーだった。やはりクラーはどこかおかしい様な気がする……。クローサさんに構い過ぎと言うか気にし過ぎている節がある。アリシアはそんな二人を見てなるほど、と小悪魔的な表情を浮かべていた。
「朝食を取ったばかりなので軽食までは頂けませんが、お菓子位なら問題無いでしょう。私たちもいきましょうか」
「そうだね」
その後、数名の先輩方と挨拶を交わしたところで、活動紹介と称したクラブの紹介が始まった。もちろんアリシアが参加しない限り参加するつもりは全く無いので右から左へ聞き流していたが、一つだけどうしても反応してしまったクラブがあった。
魔ッスルクラブ……まさか実在しているとは……。




