公爵家長男
「へぇー、こんな場所があったのか」
魔力検査の見学をするために闘技場にやって来た俺とアリシアさん。入り口の近くに二階へ繋がる階段があり、その二階が観客席となっていた。
ここに来るまでチラチラと視線を感じることはあったが話しかけてくる者はおらず、スムーズに辿り着けた。
「あっ、ちょうど始まるみたいですよ」
アリシアさんの声で闘技場の中に意識を集中すると今まさに検査が始まろうとしていた。
アリシアさんが座った横に腰を下ろし、場内を見下ろす。
俺と同じく魔力検査を行っている人もいたが、場内の端の方に何やら違う検査を受けている人が見える。見ていてもよく分からなかったのでアリシアさんに聞いてみることにした。
「あれは精霊魔術の方たちですね。精霊たちの力を借りて魔術を行使するものです。他にも闘技場の外では剣術検査などもありますよ?」
ふむ、と頷き精霊魔術の検査を受けている人たちの方を見る。
そして魔法を発動させるような感覚で目に魔力を流し込むと、視界には今まで見えていなかった光がみえるようになった。赤、青、茶、または色のついていない光。
そう、これは魔眼だ。アリシアさんと初めて会った時は勝手に発動していたが、魔眼の先輩でもある彼女に制御の仕方などを教えてもらい今では自由自在に操れるようになった。
因みにだがアリシアさんのそばにはいつも同じ大きさの光がつきまとっており、アリシアさんのことを守っているような素振りを見せる。アリシアさんは精霊にも好かれているらしい。
一通り検査を見終え、試験官たちの休憩時間になった。
アリシアさんもお手洗いに行くと席を立ったので俺は少し肩の力を抜く。
そして魔力検査をみた感想だが…
かなりショボかった。受験者の半分くらいは的まで魔術を放つのがやっとで破壊するなんてレベルの話ではなかった。それでも中には的を壊すぐらいの人はいたが、ごく少数で両手で数えられるほどだった。
あと奇妙な人がいたのだが、その人を魔眼でみると闇の精霊がくっついていた。それもそこそこ上位の存在で周りの精霊たちが萎縮しており、なにやら常時魔術を発動していたがどんな魔術かは遠すぎて理解できなかった。
魔力検査についてまとめていると後ろから足音が聞こえてきた。アリシアさんが帰ってきたのかな?そう思い、振り返ると…
「こんにちは。君は確か…メディ君、だったかな?」
細身で長身の金髪イケメンが話しかけてきた。ニコニコと爽やかな笑顔を俺に向けている。
「はい、こんにちは。メディです。あなたは確か…クラーさん?だったかな」
思い出した!こいつは闘技場の入り口でアリシアさんと話していたやつだ。
立ち振る舞いが貴族っぽいがここは学園の中。わざわざ様をつけなくてもいいだろう。というかつけたくない。
「おや、ご存知でしたか。メイリック公爵家長男、クラー・メイリックです」
笑顔を崩さないまま、衝撃的なことを言ってきた。
公爵家…これは面倒な人に目をつけられたなぁ。
公爵家は爵位の中で上位に位置しており権力もかなりある。というレベルの知識しかないが面倒くさそうなのは事実である。
「これから学友になるのですから、気軽にクラーと呼んでも構いませんよ」
このちょっと上から目線が嫌いだ。貴族だからしょうがないんだけど。
「いえ、まだ入学できると決まったわけではないので…」
やんわりと断ると彼は、俺の隣の席に腰掛けてきた。
「いやいや謙遜することはないよ。あれだけの魔術を構成できるんだ。間違いなく学園は、いや国は放っておかないよ」
今度は真剣な顔で訴えてくる。な…何なんだこいつ…。
貴族ってもっとこう、性格が悪いとか下卑た眼をしてるとか相手を見下してるとか搾取する気満々のやつばかりだと思っていたがこいつは違うのか?実際、学力検査の時は態度の悪い奴等ばかりで気が滅入ってしまった。
「僕が受けたのは剣術検査だけど魔術も少しかじっていてね。あの《火球》は凄かったよ。道理でアリシア様が贔屓するわけだ」
その言葉に、俺は反論しそうになった。
だが…こいつの言っていることは間違ってはいない。俺は運良く魔法や魔術が使えるからアリシアさんの近くにいる、それだけでしかない。
「流石のアリシア様もあんな魔術を見せられたらさぞ驚かれたんでしょうね」
悪びれもなく言うこいつの性格が少しわかったかもしれない。
こいつは素で思ったことをそのまま言っているんだ。だからあんな裏表のなさそうな笑顔ができるのだろう。
「俺なんかよりアリシアさんの方がよっぽど凄いですよ」
ここ数週間でわかったがアリシアさんの魔導のセンスは天才的だ。俺なんかはスキルで補正しているにすぎない。
「ところでメディ君。君はアリシア様のお目付け役なんだよね?」
「えぇっと、まぁそんな感じですかね」
学園に入る目的はアリシアさんを守ることだ。だったら特に隠していることも無いだろう。
「なら剣術も少しは出来るんじゃないかな?」
ん…なんだか雲行きが怪しくなってきたな。
「えぇ、基本は習いましたが…。」
城でエゼとか言うおじさんに基礎となるものは嫌というほど叩き込まれた。初めの頃、あの人と模擬戦をしたがボロボロにやられた苦い思い出がある。
「なら…僕と模擬戦をしないか?」
ああああああ、来てしまった。実力を測るためのよく分からない模擬戦。どうしてこっちの世界の人は血の気が多いのだろう。
「しません」
こういったものはきっぱり断ることが大事だ。少しでも興味があるような素振りを見せない方がいい。
「即答だね…。理由を聞いても?」
爽やかな笑顔で尋ねてくる。どうやらまだ向こうは諦めていないらしい。
「する理由がありませんから」
「ハハ、そうかな?実は僕、アリシア様と…」
「何をしているの?クラー」
アリシアさんが帰ってきた。それも後ろに恐ろしいオーラを纏って。
「これはこれはアリシア様。もうご用事は済まされたので?」
そんな怖い様子のアリシアさんを目の前にしてのほほんとしているクラー。
「ええ、今は魔力検査の見学をしていたところです。それで…何をしているのかしら?」
やはり俺といる時よりも冷静な口調。…もしかしてこれはキレてるのかな?
「その魔力検査で素晴らしい《火球》を見せてくれたこのメディ君と、ぜひともお手合わせ願いたいと思いましてね。模擬戦を申し込んでいたのですよ」
「模擬戦?私の付き人にちょっかいは出さないで頂けますか?」
今までに無いくらい冷たい口調で咎めるアリシアさん。あ、一回だけこんなことあったな。確か国王がアリシアさんのデザートを食べてしまったときだ。三日ぐらい口聞いてもらえてなかったなぁ。
ざわざわ ざわざわ
王女と公爵家長男が何やら言い争っている、とのことで人だかりができてきた。
「なになに、どうしたの?」
「なんか、アリシア様の付き人とクラー様が模擬戦をするみたいだよ?」
「えー?!本当?」
野次馬たちの間では模擬戦をやることになっているみたいだ。
「どうされますか?アリシア様。民衆は観戦する気のようですが…」
「ぅ…」
こうなってしまったら模擬戦はやらない、なんてことは言えない。もし行わなければ逃げたと思われてしまうだろう。それは王族の、アリシアさん自身のプライドに傷をつけてしまうことになる。
それなら…
「アリシアさん、やりますよ」
こうするしかないだろう。
「メディ君…」
アリシアさんはとても悲しそうな顔をしている。俺のことをそんなに心配してくれてるなんて…。
「…この空気はなんでしょうか。まぁいいです。メディ君、模擬戦とは言え戦いです。勝敗はつけさせてもらいますよ」
「はい。負けません」
周りからはアリシアさんの付き人、という目線で見られることになる。アリシアさんの威信を背負っていると言っても過言ではないだろう。
「ルールは…歩きながら話しましょうか。皆さん!模擬戦は隣にある剣術検査をしている場所で行います!すでに学園には話を通してありますのでご心配なく」
最初からやる気だったようで準備万端のようだ。まんまと向こうの思う壺にハマってしまった。
結局、戦うことになってしまったがそれはまだいい。俺はこいつが言いかけたアリシアさんとの関係が気になってしょうがないんだ!
「では、行きましょうか」
そういって笑顔を見せる彼。この顔はきっと自分に対する自信の現れなのだろうな、と思いながら歩きだすのであった。
拙い文章を読んでいただきありがとうございます。




