第8話 再会 そして気づき
ふぃ~間に合った。
「ごめんね ごめんね お母さん今度こそあなたを守るからね···」
母さんなんで謝ってるの?僕はここにいるよ。
でも、僕はどうしてここに?
意味が分からず 呆然としてしまう彼
それもそのはず彼は記憶を失っているのだ。
それだけでなく、幼児退行まで起こしていて幼子ここに極まれり
と、いった感じの状態になっていた。
ただ追記するべきことがあるとするならば【事象の俯瞰者】が
彼の覚醒に伴い、機能を復調させ初めているということだ。
さて、ここで語っておかなければならない事がある。
小野宮 薄雪の魂についてだ。
彼の魂は何者かの干渉を受け、その一部を切り離してしまった。
それにより、魂の記憶領域に乱れが発生、一時的な記憶喪失状態となっている。
といっても、所々の記憶の欠落と言った程度である。
だが、彼の変化はそれだけに止まらなかった。
そう、幼児退行である。前述の通り 魂を一部失い、
生命エネルギーが必要な値より少なくなってしまい、
その結果彼の魂が宿った肉体が本来の有り様からかけ離れた姿、
つまりは肉体の幼児化を引き起こしたのである。
そもそも、彼の魂が宿ったこの肉体は、本来ならば
十全な状態の魂の器として用意された物であったので
欠けた魂となった彼には適合しなかった。
その結果魂の大きさに見合った形へと変化を遂げたという訳だ。
あぁ、幼児化の説明はしたものの肝心の幼児退行の説明ができていなかった。
さて、どの様に話すべきか··········。
少々、事情が複雑なので大雑把に説明しよう。彼の記憶の欠落、
そして肉体の幼児化に伴う脳の機能の低下、そしてそれらに引きずられ感情面、
ようするにメンタルが弱っちくなってしまった。という事である。
無論、それ以外にも要因はあるのだが特別 語る必要もないので省かせて頂こう。
「母さんどうしたの?」
記憶の混乱により状況を把握できない
彼は未だに抱きついている母に問いかけた。
「薄雪、あなた記憶が・・・」
息子の状態に気がついた母は抱きついていたそっと手を離した。
そして ゆっくりとだが確実に息子の現状の把握と説明をはじめた。
「薄雪、どこまで記憶があるの?」
母が質問する、現状の説明より息子の状態の把握を優先したらしい。
「えっ・・・・・・? あっ‼」
質問の意図がわからず暫し呆然としてしまうも母の言われてはじめて
自身の記憶を探りその意図することに気がつく。
そして自身の記憶が所々 思い出せなくなっていることに気がついた。
「母さん、どうして生きてるの?」
それと同時に母が死んだことも思い出した様だ。
「その説明はそのうちするから今は記憶のこと、どこまで覚えてるの?」
息子の状態が心配なので勢いよく迫ってしまう。
「えっと、愛理ちゃんの顔が思い出せないのと
高校の友達のことが思い出せないのとあとは・・・」
強気な発言に気圧され、思い出せないことをつらつらと話していく。
「分かった、じゃぁ 最近の出来事は何があった?」
内容が対人関係ばかりだったので、別な事を聞いてくる。
「夏祭りでコウちゃんから薔薇の髪飾りとワンちゃんとニャンコの置物
買ったとこまで覚えてるけどそれから先は全然・・・」
「そう、よかった」
安心した様な表情を見せてもう一度抱きつく、
しかし今度は乱暴に存在を確認するかの様な慈しみを込めた様な
温かみのある抱擁だった。
「母さん、くるっちい」
さすがに苦しくなってきたので離して欲しい、
そうじゃなくても緩めるなりなんなりして欲しいと考えるも抱きついてくる。
それはもう、木に抱き着くコアラの如く···
「ママ くるし···」
流石に呼吸の限界が近づいてきたのか呼び方が変わるほど必死になっていた。
たが、それでも母は放さない。
「ママ~···」
呼び掛けるだけになったきた。
それでも母は放さない。
「マ······」
一文字言うのが精一杯
それでも母は放さない。
「···············」
最早 何も言えなかった、
最後の抵抗とばかりに手足をばたつかせようとするも、
あえなく撃沈してしまう。そして意識は闇に沈んでいった。といっても、
別に閉め技の要領で落とされた訳ではなく、疲労が溜まっていたのだ。
それもそのはず、今は深夜12時近くで、肉体が幼い子どもであることを考慮しても
よく頑張っていた。
「ちょっと 薄雪、あれま寝ちゃったか」
抱き締めていた息子の様子の変化に少々気を取り乱しはしたが、
状況を鑑みると寝てしまうのも仕方がないと思い。優しく膝枕をしてやる母親
「いらっしゃい、巻き込まれた旅人さん」
唐突に森の方にいる何者かに話しかける。
「なに 気取ってるんですか林檎おばさん
もうそんな歳じゃないでしょう」
話しかけられた何者かが応える。
「ええそうね、人間の寿命なんて等の昔に過ぎちゃったから」
軽快に皮肉を言ってのける。
「人間の寿命? どういう事ですか?」
不審に思い問いかけてくる、そこには困惑の色がまざまざと見てとれる。
「言葉どうりの意味よ 優華ちゃん」
そこに居たのは薄雪の幼なじみの通称優ちゃんその人であった。
作者の都合により今月はここまで···
かもしれません。
まだまだ頑張るので今後も宜しくお願い致します